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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機神廻天マスラオ

作者: Trail

 登場人物


■アルマ・レヴァン・フロイライン 本作の主人公、金髪のおでこを輝かせる貴族の娘。古代文明を研究するフロイライン家の跡取りであり、父の死の真相を求め、やがて壮絶な運命に巻き込まれていく。


■アリシア アルマの家に仕えるメイド長兼執事を務める女性、過去に後ろめたい物を抱える。仕事を完璧にこなす才女であり、有事の際には刃を黒く染色された長剣を使いこなし敵対者を倒す。


■ダグラス・ヴィン・フロイライン アルマの父、古代文明の研究者であり故人。


■ペンダントの声 アルマが父から託されたペンダントより発せられる声、言動からマスラオと同一である可能性がある。


■暗部の長 女神の教会より古代遺跡の警備を任された男、白いカソックは高位の証ではあるが聖騎士の登場によりこの地へと流された身でもある。


■男1 暗部の部隊員の一人、魔導外殻を操縦する事が出来る。暗部の長には忠誠を誓っている。


■男2 暗部の部隊員の一人、駅でアルマ達を尾行していた。暗部の長が左遷されてから、地位に拘る様になった事を感じ、距離を取っている。


■マスラオ 全高五メートルの謎の巨大機械、アクナキの民から神として崇められていたがその正体は謎に包まれている。

 全身像は甲冑にも似た装甲に覆われており、その堅牢さは魔導外殻の魔力光波ですら傷一つ付けられない。

 指先から高周波をレーザー状にして放つ『超高周波線カブラヤ』、右胸部の動力から得たエネルギーを凝縮して放つ『高圧縮熱光弾撃ヒノカグツチ』を武器とする。

 なお左上部には丸い空洞があり、そこに何があったのか、それとも何かを入れる筈だったのか、それは今の時点では分からない。


■普及型魔導外殻 女神の教会の元で製造された魔法機械技術の結晶、魔法資源エリキシルを燃料とし、従来の剣と魔法の戦いを大型化、拡張せしめた。魔銀で構成された装甲は火竜のブレスすら通さない程の代物。


■白い魔導外殻(暗部長専用) 白色に塗装された魔導外殻、性能は通常の魔導外殻よりも強化されており、魔導具と連動して『光鎖』の魔法を、エリキシルを媒体に使用できる。光鎖の魔法は本来、ある賢者が大魔獣を拘束する為に生み出した大魔法であったが、今は魔導具とエリキシルにより素養の無い物でも容易く使用出来る。




 ●回想、五年前のフロイライン邸


 ベッドに横たわるダグラス、その身体には包帯が巻かれ、左腕は肩口から無くなっている。ダグラスの元で、泣きつく幼いアルマ。その傍らにはアリシアが、悲しげな表情でアルマを見守っている。


 残された右腕を震わせながら、枕元の手帳とペンダントを手にし、それをアルマに差し出すダグラス。それをアルマが受け取ると同時に事切れ、ダグラスの腕から力を失い落ちていく。


 その様子を見て遂に涙を流すアルマ、そしてその両腕はダグラスから託された手帳を握り締めている。


 ●現在、機関車の個室


 アリシア「お嬢様、どうなさいました。随分とうなされていた様ですが?」


 うつむき眠りについていたアルマを、アリシアが顔を覗き込んでいる。間近にあったアリシアの顔を見て、アルマは驚き目を覚ます。


 アルマ「!?いえ、少し寝ていたみたいだわ」


 アリシア「そうでしたか、次が目的の駅でしたので声を掛けたのですが」


 アルマ「そう、ありがとうね。まぁ、ちょっと昔の事を思い出しただけよ」


 アルマは胸元のペンダントを手にし、じっと見つめる。


 アリシア「これから向かう駅の先、そこに旦那様が最後に調査をした『アクナキの民』の遺跡があるのですね」


 アルマ「ええ、父様の手帳にもそう書いてあるわ」


 アリシア「ダグラス様は遺跡調査の最中の事故だと『女神の教会』の者達は仰っておりましたが、やはり奴らの話には信憑性がありません。奴らは目的の為なら、どの様な手段も取る連中です」


 アルマ「ええ、それは分かってるわ。それからだったわね、アクナキの民についての調査に禁止令が出たのは。屋敷も教会の人間が押しかけて、父の研究資料は全部押収されたわ。ただ一つ、直接手渡されたこの手帳とペンダントを除いて」


 再び手帳のページを数枚めくるアルマ、手帳の一枚一枚にびっしりと文字が書かれている。


 アルマ「何故教会は古代文明の調査を禁じたのか、そして本当に父を手に掛けたのか。それの答えはこの遺跡にあるはず、ここが最後に父様が訪れたアクナキの民の遺跡に」


 決意の光を目に宿すアルマ、それを尊重するも複雑な様子で見つめるアリシア。


 手帳を閉じ、ふぅと息を吐くアルマ。


 アルマ「でも、この機関車と言う物は凄い物ね。数年前まで街々の往来は馬車しか無かったのに、エリキシルを発見されてからはこの様な魔法機械が次々と作られているのだから」


 インサート 黄金色の液体――エリキシルを満たしたフラスコ。


 アリシア「エリキシルは燃焼させれば強力な魔力を生み出せる代物、今ではエリキシルを使った機械のおかげで、今まで限られた才能だった魔法の代替が行われる程です」


 車窓に目を向けるアルマ、そこからは小さな町が見える。町中にそびえるいくつかの煙突から黄金色の機体が空へと立ち込めている。


 アリシア「エリキシルがもたらした恩恵は、人々が知る以上に大きいものです。戦の経験の無い若者ですら、ある程度の訓練を積めばかつて人々を救ってきた冒険者達を引き金を引くだけで倒せる時代なのですから。それに……」


 うつむくアリシア、彼女の脳内にフラッシュバック


 ●燃えがる城


 鎧を着込んだアリシア、右肩を負傷しその肩を左手で押さえてる。彼女は崩れかけた民家の中に身を潜め、窓から外の様子を伺っている。


 広場には銃で撃たれ絶命した者達、全員がアリシアと同じ鎧を着込んでいた。そして亡骸を取り囲む、エリキシル式ライフルで武装した、女神の教会の戦士達。


 その向こうでは、火の手が上がる城。そしてその城の前にそびえる五メートル程のロボット――魔導外殻が立ち並ぶ。そしてかざした右腕から放たれた魔光弾により破壊される


 魔導外殻が城を破壊する様子を、悔しさと怒りの表情で見るしかできないアリシア。


 ●現在 機関車の個室


 アルマ「アリシア?」


 心配そうなアルマ、アリシアは何も無いと繕う様に顔を上げ笑顔を見せる。


 アリシア「いえ、何でもありません。それより駅に着く前に食事でも摂りませんか?この機関車には食堂車があるそうです、聞いた話では聖都のレストランにも負けないとか」


 その言葉と共に、アルマのお腹からくぅと音が鳴る。顔を赤らめるアルマ、それを見てくすくすと微笑むアリシア。


 ●ある田舎風景の駅


 ホームに到着するエリキシル機関車、煙突からきらめく黄金色の気体が吐き出される。


 車両から降りるアルマとアリシア、アルマはリュックサックを背負い、腰にポーチを巻いている。アリシアは大きなキャリーケースを引き、背中には鞘に納められた大剣を背負っている。


 駅の柱の陰、そこから二人の様子を伺うカソックの男。談笑しながら、アルマとアリシアはホームを後にする。


  駅から出ていく二人、アルマは手帳を眺め、向かうべき道を進む指差しアリシアに伝える。


 人々が往来駅前の大通りを進む二人、距離を取り二人の後を付ける黒服の男。だが人が通り過ぎた途端、その姿を消す。


 ●古代遺跡より少し離れた道


 馬車から降りるアルマとアリシア、アリシアが料金を渡し、それと別に金貨の詰まった袋を渡す。御者は一礼して、来た道へと馬車を走らせる。


 アルマ「久々に普通の馬車に乗ったわね、あそこまで揺れる物だったのだから慣れというのは恐ろしいわ」


 アリシア「聖都ではエリキシルで走る車が普及していますからね、ご不便はどうかご容赦下さい」


 アルマ「いえ、わたしは大丈夫。それにあの馬車なら足がつかないと仰っていたのはアリシアだから、わたしはその言葉を信じるわ」


  アルマの言葉に、微笑み頭を下げるアリシア。


 アリシア「多少はご不便ですが、この様な非合法な手段には少々慣れがございますので出来る限りの手段を取らせていただきました。あの者は後ろめたい者達御用達の闇馬車です、金さえ渡せば我々の事を口外したりしません」


 遠目で馬車を眺めるアリシア、そんなアリシアの一面にアルマは唖然とした様子を見せる。


 アルマ「アリシア、貴方って時々こう言った事に明るいみたいね、何度も聞いてるけどメイドをする以前は何をしていたの?」


 アリシアはアルマの問に、ふふっと笑いを投げかける。


 アリシア「もちろん、秘密ですよ」


 ●古代遺跡の前、その付近の離れた森の中


 鬱蒼と茂る木々の合間から、遺跡の入口を見つめる複数人の男達。黒いカソックを着込む中、長である一人だけが白いカソックを着込んでいる。


 暗部の長「どうでしょうか、彼女達は来ましたか?」


 男1「いえ、到着は遅れているようです。見張りに出てた者が来れば相手の状況も分かるでしょうが」


 男1の報告を聞き、ふむと顎に手を当てる暗部の長。


 暗部の長「ふぅん、ままならない物ですね」


 男1「ご尤もです、ですが今は堪えの時です。では私も作戦の準備に取り掛かります、貴方に女神のご加護を」


 己の胸に右手を当て祈りを捧げる男1、そして踵を返し森の奥へと走り出す。それと入れ替わる様に、別方向の茂みを掻き分け、一人のカソック姿の男が飛び出す。駅の付近でアルマ達を追跡していた男だ。


 男2「失礼、報告をお持ちしました!」


 男2は暗部の長の前に跪く。


 暗部の長「ふむ、申してください」


 男2「彼奴らは闇馬車でこちらへと向かっています、何処の馬車かまでは分かりません、かなり複雑に仲介屋を挟めた様で、我々の追跡を掻い潜った模様です」 

 

 暗部の長「してやられた様ですね、ご苦労さまです、少し休憩の後に貴方も魔導外殻の準備を行いなさい」


 その言葉に男2は跪いたまま頭を上げる。


 男2「魔導外殻を!?」


 暗部の長「ええ、小娘と侍女相手に過剰だと思いでしょう。しかし、古代文明の事案であればアレが――五年前の二の舞いすらあり得ます。最善の手段を取らねば我々教会の暗部とて手こずる事態になるかも知れないのですよ」


 会話する二人の向こう側では、跪く姿勢の魔導外殻がその巨躯から黄金色の蒸気を吐き出している。既に稼働している黒色の機体の他、未だ稼働していない白い機体を加えれば、その数は三機だ。


 暗部の長「魔導外殻は三機、残りの人員四名にはあの小娘達の捕縛を行ってもらいます」


 男2「分かりました、ですがこれ程の規模で任務に当たるのであれば、一度教会へ――教皇へと連絡を入れないければ――」


 そこまで言い掛けた黒服2、その頬に暗部の長が腰に差したサーベルを当てる。男2の額から玉のような汗が滴る。


 暗部の長「いえ、これは私達で行います。我々の様な木っ端暗部には、手柄が必要ですからね」


 ぎりりと歯ぎしりする暗部の長、その額には深いシワが刻まれる。


 暗部の長「聖都の十二聖騎士――教皇様に選ばれたあの者達、教会最高の魔導外殻操縦者。ああ忌々しい!教皇がお決めになったとは言え、今や富も名声も奴らの思いのままだ!」


 サーベルを腰の鞘に収め、頭を抱える暗部の長。


 暗部の長「教皇様に自らがお触れを出した古代文明に対する調査禁止令、それに関わる事柄を報告すればあのお高く止まった連中に手柄を取られるのは明白!ならば、我らの女神様への信奉はどう証明する!」


 両手で己の頭をかき乱し、その場を歩き回る暗部の長、それを見て唖然とする男2。


 暗部の長「だからこそ、我々の手であの者達を捕らえ、教皇様の元へと跪かせなければならないのです!そうすれば教皇様も、女神様も我々の信仰心をお認めになるはずです!」


 突然動きを止め、だらりと腕から力を抜く暗部の長。そして首だけを未だ跪づく男2に向ける。その口元は笑みを浮かべるが、その目は狂気を宿している。


 暗部の長「だから貴方も、神への信仰心を示す為に頑張りましょう。捕らえた女達は、好きにして構いませんから」


 男2「は……はっ!」


 ●古代遺跡の前


 遺跡の前に立つアルマとアリシア、遺跡は半ば自然の岩石と植物に侵食されその全貌を把握できない。


 遺跡の前へと歩く、アルマとアリシア。二人を見張るかの様に、蔦に覆われた遺跡の壁面から覗くレンズ状の物体。


 ジジと音を立て、アルマの胸元のペンダントがズームアップされる。


 アルマ「遂に来ましたわね、アクナキの民の遺跡へ」


 アリシア「ここが旦那様が最後に調査を行っていた遺跡……素人である私から見たら専門的な事は分かりませんが……何か不思議な感じがするのは分かります」


 アルマは手帳を取り出し、いくつかページをめくる。


 アルマ「この遺跡はアクナキの民達から『マスラオの祭祀場』と呼ばれていた、マスラオとは彼らが信奉する守護神の名前みたい」


 アリシア「彼らの神ですか、ですがそれでも女神の教会からすれば彼等は異教徒にしか見えなかった、そしてこの地は疎か世界中から根絶やしにされたと」


 アルマ「信者達は英雄的行為と彼らを称賛しました、唯一の神たる女神の敵を倒した者達だと」


 アルマは手帳を閉じると、それをポーチに仕舞う。そして入口に視線を送る、入口には扉は無くその先は暗闇だ。


 アルマ「さぁ、行きましょうか」


 一歩、足を前へと踏み出すアルマ。


 アリシア「お嬢様、少しお待ちを」


 アリシアは振り向き、自分達の背後へと向き直る。そして背中に背負った大剣を手にし、すらりと抜剣する。


 その様子を見て、アルマは直ぐ様アリシアの元へと駆け寄る。


 アルマ「アリシア、どうしたの?」


 アリシア「駅を降りた辺りから付けているのは分かっています、そろそろ姿を表してみてはいかがでしょうか?」

 

 少しの沈黙の後に、森の奥から飛び出す仮面を付けた二人の暗部。暗部の一人がピストルを構え、アリシアに向けて発砲する。


 迫る弾丸を大剣の一閃で弾くアリシア、そして弾かれる様にその場から駆け出し発砲した暗部の胴体を横一文字に切り裂く。


 もう一人の暗部もピストルを構えるが、一瞬で詰め寄ったアリシアがピストルを大剣の振り上げで弾き飛ばす。アリシアは振り上げた大剣で、残った暗部の身体に袈裟斬りをする。


 アリシア「まだ幾人かいるようですが、命が惜しくばそのまま隠れていらっしゃると宜しいですよ」


 その場から跳び、アルマの元へと戻るアリシア。そのまま大剣を構え直し、残心の姿勢を見せる。


 目の前で起きた事に生唾を飲み込むアルマ。


 森の奥からゆっくりと歩き、姿を現す暗部の長。


 暗部の長「これはこれは、メイド風情と侮りましたが中々の手練。その身体能力は元冒険者か何かですかね、何にせよよく我々に気づきました」


 アリシア「生憎と教会のネズミの臭いは、一度嗅いだ時から忘れたくても忘れられません。ドブのそれよりも、更に酷い物ですから」


 睨むアリシア、それを大げさな様子で頭を振るう暗部の長。


 暗部の長「酷い言われですね、これでも身だしなみには気を使っているのですが。しかし我ら女神の教会に楯突く、後ろめたい行動と知りながらこの様な愚行を行うとは。まるで五年も前にここを漁っていた、あの考古学者の男の様ですね」


 暗部の長の言葉に、驚愕するアルマ。


 アルマ「!父様の事を言ってるの、では貴方が父様を!」


 アリシア「お嬢様、早まってはいけません!」


 怒りをあらわに前に出ようとするアルマ、そんなアルマを静止するアリシア。


 暗部の長「おや、と言う事は貴方はフロイライン家の……なる程、だからこの遺跡にいる訳ですね。残念ながら私は貴女の父親とは無関係です、その後にここの見張りと教会の令を乱す不埒者達を始末するのが任務でしてね」


 暗部の長が右手を上に上げる、すると森の奥から二人の仮面を付けた暗部が姿を現した。その手には一振りの、サーベルが握られている。

 


 暗部の長は上げた腕を、無言で下ろすと暗部の者達は無言で構え、その場から跳躍してアリシアへと強襲する。前へと進み、繰り出される剣戟を弾くアリシア、返す刃で暗部達に斬り込んでいく。だがアリシアの攻勢により、アルマとアリシアは分断されてしまう


 アルマ「アリシア!」


 アリシア「お嬢様、ご心配なく!」


 アリシアはそう言い、にやりと笑みを浮かべる。暗部のサーベルが迫るも、アリシアはそれを受け止め、カウンターとして胴体に横一閃を入れる。もう一人の暗部が背後よりサーベルを突き刺しに掛かるが、アリシアは素早く方向転換し、迫るサーベルを真下からの剣戟でへし折る。そしてその勢いでくるりと回りながら勢いを付け、残った暗部の胴体を切り裂く。


 男達は声も漏らさず倒れる、それを見下ろす暗部の長。


 暗部の長「ふむ、やはりこの程度では使えませんか。元冒険者となればピンキリですが、どうやら彼女は思ったよりも実力者の様です」


 暗部の長の視線は、残心をするアリシアに向けられる。


 暗部の長「では、こちらも奥の手を出しましょうか」


 暗部の長が右手を上げ、指を鳴らす。男の腕輪が光を放ち、金色の蒸気が吹き上がる。


 次の瞬間、アルマとアリシアの足元に魔法陣が展開される。魔法陣からは光の鎖が出現し、アルマとアリシアを一瞬で拘束する。


 アルマ「っ!これは、『光鎖』の魔法!?」


 暗部の長「いかにも、エリキシルと魔石を利用した魔導具。私の様な魔法の才能の無い人間にも、かつての英雄が使っていたとされる魔法を行使出来ます」


 暗部の長は腕輪に取り付けられたシリンダーを外し、それを放る。シリンダーからは微かに、金色の気体が立ち込めている。


 アリシア「今すぐ解きなさい!」


 アリシアの剣幕、それに対し額にシワを寄せる暗部の長。懐から新たなシリンダーを取り出し腕輪に取り付け、再び『光鎖』の魔法を使用する。


 鎖は二人を締め付ける力を強め、二人は苦悶の声を上げる。


 暗部の長「さて、本題に入りましょう。貴方達はここで――ダグラス・ヴィン・フロイラインがこの遺跡で見つけたアレを探しに来たのでしょう?」


 アルマ「あれって一体、っくぅ……なんの事?」


 身体を縛る鎖が更に力を増し、アルマは絶え絶えに言葉を出す。


 暗部の長「しらばっくれたって、そうは行きませんよ。五年前のこの場所で、貴女の父親が見つけた古代文明のガラクタを!。それを求めてここに来たのでしょう!」


 鎖が更に力を増していく、アルマもアリシアも悲痛な声を上げる。


 突然、アルマの胸元のペンダントが点滅し始める。そしてペンダントから、ノイズの様な音が鳴る。


 ペンダントからの声『――そうか、お前がダグラスの娘か』


 アルマ「はぁ……はぁ……だ、誰なの?何処から?」


 辺りに視線を巡らせるアルマ、そして胸元で点滅するペンダントに気づく。


 ペンダントからの声『それに答えるのは後だ、どうやら今はそれどころでは無いようだからな』


 遺跡の壁面のレンズがジジと音を立てて、アルマへと向けられる。


 アリシア「お嬢様……一体誰と話を……」


 アルマの様子に、縛られながらも心配そうに声を掛けるアリシア。


 ペンダントからの声『俺なら、今すぐにお前達を救える、だが俺と関われば日常には戻れない。お前の父親の様に、身の安全は保証できない』


 アルマ「貴方……一体何を知っているの!っあぁっ!」


 アルマを縛る光鎖に、より一層力を込められる。


 暗部の長「一体誰と話をしているのですか!」


 光鎖に縛られ、最早声を出す事も出来ないアルマ。


 ペンダントからの声『どうやら返答を待つ事は、今は無理そうだ。だったら、一度だけ力を貸してやろう。話は、その後だ』


 ペンダントの点滅が消え、それと同時に地面が突如として揺れ始める。暗部の長は体勢を崩し、膝をつく。


 暗部の長「な、何事!いや、まさか!」


 大地にぴしりと亀裂が生じ、それがアルマとアリシアの足元へと伸びていく。


 そして大地を砕き、地中から巨大な二つの腕が伸びてくる。それぞれがアルマとアリシアを掴むと、二人の身体に巻き付いた光鎖は砕け散った。


 地面の中から、巨大な存在が姿を現す。仮面を付けた、金属の装甲を纏う人型のそれは右胸部の球体が太陽の光を反射させる。


 巨大な両拳は掴んだアルマとアリシアを優しく地面へと降ろす。戒めを解かれた二人は、息を整えようと荒く呼吸をする。やがてアリシアは呼吸を整え、眼前の巨大な人型を見る。


 アリシア「こ、これは魔導外殻……いや、どこか違う」


 アルマ「はぁ……はぁ……これは、まさか!」


 呼吸を整えたアルマは腰のポーチから手帳を取り出す、そして目的のページを見つけてそれをまじまじと見つめる。そこにはダグラスが描いた、人型の存在があった。


 アルマ「父様が書いたスケッチそっくり……まさか、これが『マスラオ』なの?」


 アリシア「マスラオ、これが……」


 足元の二人に仮面に覆われた顔を向けるマスラオ、言葉を紡がない彼が伝えようとする事は彼女達には分からなかった。


 姿を現した巨大な存在――マスラオに、暗部の長の目は狂気にも似た色に染める。


 暗部の長「!!やはりそこにいましたか、吾等が女神様に逆らうアクナキのガラクタ!!」


 暗部の長は懐より照明弾を装填した拳銃を取り出し、それを天目掛けて放つ。金色の光が空で炸裂すると、森の奥から待機していた三体の魔導外殻が金色の蒸気を吹き出しながら、ゆっくりとその姿を露わにした。


 男1『大丈夫ですか!?』


 暗部の長「私は大丈夫です!早く私の魔導外殻をここへ!」


 男2『は、はっ!』


 男1と男2が乗る魔導外殻に誘導され、無人の白い魔導外殻がゆっくりと歩みを進める。そして暗部の長の前に止まると、膝をつき胸部の操縦席のハッチを開く。暗部の長は素早く乗り込み、ハッチが閉じると同時に機体を立ち上がらせた。

 

 暗部の長『我らが女神の怨敵、ここで討ち倒せば私の地位も確実な物となる!』


 白い魔導外殻が腰からサーベルを引き抜き、その切っ先をマスラオへと向ける。


 マスラオは何も語らず、その両腕を構え臨戦体勢を整える。身体の各所に設けられたダクトから白い蒸気を噴出し、仮面の奥からギラリと光が漏れ出す。


 アリシア「お嬢様、ここから離れましょう。このままでは戦いに巻き込まれます!」


 頷くアルマは、アリシアと共に遺跡の方へと駆け出す。


 白い魔導外殻の中、暗部の長は魔法で映し出される映像の中に走り出すアルマ達を見つける。


 暗部の長『このガラクタが出てきた以上、貴方達は必要ありません。慰み程度にはなりそうでしたが、消えてもらいます!』


 白い魔導外殻が左手を突き出し、その掌に魔法陣が展開される。そして魔法陣から強力な魔力光波が放たれた。


 だがその光波を遮る様に、マスラオがアルマ達と白い魔導外殻の間に割って入る。光波はマスラオに直撃するが、マスラオは平然とし、光波は装甲に弾かれ周囲の地面や木々を吹き飛ばして行く。


 暗部の長『っあぁ忌々しい!貴方達、行きなさい!』


 暗部の長の言葉に答え、二機の魔導外殻が腰のサーベルを引き抜きながら駆け出す。


 先行した、男2が搭乗した魔導外殻がサーベルを振り下ろし、マスラオの肩口から切り裂こうとする。だがその剣戟は装甲に傷一つ付けること無く、激しい火花が咲き乱れる。


 男2『なぁっ!魔導外殻の装甲すら切り裂く剣だぞ!』


 驚く男2、映像越しにマスラオがぎろりと男2の方を向く。情けない声を上げて驚く男2、操縦桿を引いて魔導外殻をマスラオから離そうとする。


 マスラオは右拳を握り込み、その鉄拳を逃げ出そうとする男2の魔導外殻の胸部へと叩き込む。装甲がひしゃげ、操縦席内の男2の眼前に貫かれた拳が迫りくる。


 マスラオの拳が男2の魔導外殻の胸を貫き、魔導外殻のエリキシル動力が爆発する。



 男1『な、なぁっ!』


 恐怖に、思わず魔導外殻の歩みを止める男1。


 腕を破壊した魔導外殻から引き抜くマスラオ、その拳を開き、真っ直ぐ伸ばした五本の指を男1の魔導外殻へと向ける。 


 指先がぶぅんと音を立てて振動、その瞬間に不可視の高周波レーザーが放たれる。


 高周波レーザーは魔導外殻の装甲を容易く貫き、胸部のコクピットごと風穴が開かれる。操縦者を失い、魔導外殻は力無く大地に倒れ込む。


 暗部の長『まさか、これ程とは!』


 目の前で起きた一瞬の出来事に、暗部の長は戦慄する。


 暗部の長『ですが、それだけの首を取れば私の地位はぁ!!』


 サーベルを構え、左腕のダクトから黄金の蒸気を放つ白い魔導外殻。マスラオの回りに四つの魔法陣が展開され、 それぞれから光鎖が放たれる。光鎖はマスラオの両腕と両脚に巻き付き、拘束する。


 暗部の長『誰がその魔導外殻モドキを動かしているかは知りませんが、これで終わりですよ!!』


 白い魔導外殻が駆け出し、サーベルの切っ先をマスラオの胸部へと突き立てんとする。


 遺跡の手前、それらの光景をただ唖然と見ているアルマとアリシア。アルマの胸元のペンダントが、再びチカチカと点滅する。


 ペンダントの声『そんな物で、俺を止められるかよ』


 拘束されているマスラオの仮面の奥から、更に光が迸る。四肢に力を込め、光鎖を難なく引き千切る。


 マスラオは右拳を白い魔導外殻の頭部へと叩き付け、前方へと吹き飛ばす。


 暗部の長『っぐあぁぁぁっ!!』


 白い魔導外殻は地面を転がり、やがて停止する。


 マスラオは右手を構える、それと同時に右胸の球体が赤い輝きを灯す。球体から光のラインが右腕へと集中し、やがて掌に集まっていく。掌の中には赤い光の光球が生成され、それは膨張と縮小を繰り返し、やがて掌に収まる程度の大きさとなる。


 ペンダントの声『高圧縮熱光弾撃、『ヒノカグツチ』』


 ペンダントの声が呟くと同時に、マスラオは右掌より光弾を放った。超高速で放たれた光弾は倒れた白い魔導外殻へと吸い込まれる様に着弾し、一瞬の煌めきと共に大爆発を巻き起こす。


 爆風は大地を抉り、森を吹き飛ばし、その爆風はアルマ達さえも襲う。その勢いにアルマは目を開けていられない。


 アルマ「っくぅ!」


 アリシア「なっ!なんて威力なの!」


 アリシアがアルマへと覆いかぶさる。やがて爆風が収まり、アリシアは立ち上がる。目立った外傷はない。 

 

 アルマは閉じて目を開く。白い魔導外殻がいた場所には巨大なクレーターが残されており、暗部の長も魔導外殻もその痕跡は見当たらない。


 唖然とし、その光景に恐怖するアルマ。そんなアルマの肩に手を当て、支えるアリシア。


 アルマ「これが、父様が探していたアクナキの民の神……」


 ペンダントの声『悪いがアレは、神なんかでは無いさ』


 アリシア「先程から聞こえるその声、貴方は何者なのですか?それに旦那様の事を知っている様ですが?」


 ペンダントの声『それを知ればいよいよ後戻りは出来ないぞ、お前さんなら大丈夫そうだが、ダグラスの娘はどうなんだ?』


 アルマ「私は……」


 ペンダントに視線を向けるアルマ、そして再び前方のクレーターへと目を向ける。


 アルマ「正直に言って、恐ろしい、今すぐにでも逃げ出したいくらいに。でも、私は父様に何があったのかを知りたい。それに貴方なら父様に何があったのかを知っている筈、だったら私はこの先に踏み入りたい!」


 ペンダントの声『……やっぱり親子か。分かった、知りたければお前達が言う遺跡の中へ入ってくれ、そこで真実を話そう』


 アルマはペンダントを握りしめる、そして背後にそびえる遺跡を見上げる。二人は遺跡の入口へと、歩みを進めていった。

 

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