第四十二話 ラーミル
「む、無獣……!」
ラーミルは剣を抜こうと立ち上がろうとするが、力が入らなかった。
「あまり無理しないほうがいいぞ」
《無獣》は何気ない顔でラーミル達の側まで来ると、腰を下ろした。
「貴方は……何者?」
今、置かれている状況を察すると、恐る恐るとラーミルは尋ねる。
「何、ただの通りすがりだ」
《無獣》は焚き火を見つめながら応えた。
「なんで私達を助けたの……?」
「……何?」
ラーミルは聞かずにはいられなかった。
《無獣》といえど魔物は魔物、人から恐れられていることは知能がある魔物であれば、わかりきったことである。
ラーミルはこの《無獣》にはかなりの知能があると実感し、その真意が知りたかった。
「私達を助けるメリットは貴方にはないでしょ?」
「逆に聞くが、メリットがなければ助けてはいけないのか?」
「それは……違うけど……」
「いいか?川に流される奴が例え人だろうが魔物だろうが俺は助ける。それだけだ」
「――ッ!」
思わぬ返答に返す言葉がなかった。
ラーミルも王国騎士団団長として、一国を背負う者として、国や民を守る立場を担っているつもりだった。
しかし、《無獣》は自身の身を危険に晒してまで魔物やラーミル達――人までも助けた。
その姿勢はラーミルの今までの“考え”を覆すものだった。
「まあともかく、俺はただ信念を貫いているだけだ。アンタも自分の信念を貫き通すんことだな」
《無獣》は立ち上がると、踵を返す。
「ちょっ、ちょっと、どこへ行くつもり?」
「そろそろ家に帰ろうと思ってな。安心しろ、アンタの《守護獣》を近くの村に向かわせた。そのうち迎えが来るはずだ」
「《守護獣》って……まさかフォジュックを!?」
「ああそうだ。あそこの村は魔物に耐性があるから心配する必要はない」
「えっ、いやそういう話じゃなくて――」
「――じゃあな、『お姫様』」
そう言うと、《無獣》の姿が鈍い音とともに変化していき、漆黒の大型バイクへと形を変えた。
「それは――!」
《無獣》はそのまま森の闇夜へ消えて行った。




