第三十九話 お願いします、落とさないで!!
レイヴンはカラスの魔物に掴まれたまま、思考していた。
「少し誤算はありましたが、場を乱すのには十分でしょう」
そして鳥面のくちばしに左手を当てる。
同時に左手首につけた腕時計が袖口から現れる。
「……おや、もうこんな時間ですか。彼との約束もありますし、急がなくては」
そう言うと、カラスの魔物が足を畳み、レイヴンの背中と密着する。
そのまま次の手順へ移行しようとした、その時だった――
「おっ――」
カラスの魔物がバランスを崩し、身体が傾く。
その拍子に足が伸び、レイヴンは先程の状態に戻る。
「これは突然のサプライズですね」
見上げると、片翼をがっしりと掴むルビアの姿があった。
「……どど、どうも……また会いましたね……」
「ええ、そうですね」
レイヴンは丁寧な口調で返すが、内心は驚いていた。
ここは既に軽く数キロは離れており、そう簡単には追いつけないはずの地点。ましてや何も装備もしていないで追いつくのは不可能。
しかしルビアは丸腰の状態で、翼から落ちないように藻掻いているだけであった。
「それで、何かご用でも?」
「はい、それでは……て、手短に……ジェームズさんの件について……教えてぇ〜!く〜れませんか?」
ルビアは今にも落ちそうになりながらも話を続ける。
「そんなことですか?」
「は〜い……どうか、どうか!お願いしま〜す!!」
「とてもお熱いお願いで・す・が、私にも予定がありますので――」
「え?……うううううう嘘でしょ!?」
レイヴンは手を合わせる。
「――このまま落ちてくれませんか?」
翼が強く動き、ルビアは落ちる寸前となる。
「え、いや!待ってください!お願いします、落とさないでぇぇぇぇええ!!何でもしますからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ルビアは叫んだ。
「おや、それはほんとですか?」
すると、カラスの魔物は翼を動かすのを止めた。
「やってもうた〜……」
レイヴンの反応を見て、後悔したルビアは小さく呟いた。




