終末は金魚と共に
目覚めるとデスクの上に置かれている水槽の中の金魚たちに「おはよう」と声をかけ、自転車に跨り蓄電池に電気を貯める作業を始める。
自転車に跨り蓄電池に電気が必要量が貯まるまでペダルを回す。
これをやらないと窒息する。
24時間放射能除去空気清浄機を稼働させ続ける為に、自転車を漕ぐ。
此処に逃げ込んだ当初は家族4人交代で自転車を漕ぎ続け、放射能除去空気清浄機だけで無くラジオやパソコンも稼働させ情報を得ていた。
でも半年も経つとサイト側やラジオ局側の電気が無くなったのか繋がらなくなる。
パソコンは何処のサイトとも繋がらず、ラジオも空電しか流さなくなった。
家族がおかしくなったのもその頃から。
「こんな狭い空間で残りの一生を過ごすのはゴメンよ!」
「家族とは言え、プライバシーが無いのに耐えられない!」
「毎日毎日自転車を漕ぎ、毎日毎日同じ物を食べる、こんな単調な生活はもう嫌だぁー!」
と口々に言い、気がついたらベッドでトイレで出入り口のドアの前でぶら下がっていた。
だから今核シェルター内にいるのは、私と息子が可愛がっていた金魚たちだけなのだ。
蓄電池に電気が貯まった。
食事にしよう、食料倉庫からレーションと水のペットボトルを取ってくる。
ペットボトルの水を半分ほど水槽の中に注ぎ、レーションの中のクラッカーを細かく砕き水槽の中に撒く。
赤や黒の単色の金魚や赤白黒が混じった色の金魚たちが、水面に浮いているクラッカーに群がり集まりパクパクと食べる。
それを私は何時までも眺めていた。
トイレに行き戻ってきたとき足が縺れデスクの上の水槽を床に落としてしまう。
あ、金魚たちが、ガラスの水槽が、水がと床に手を伸ばしかけて、ハッ! と気がつく。
金魚? ガラスの水槽? 水? そんな物は床の何処にも無い。
ガラス水槽の代わりに小さなダンボールの箱が転がっているだけ。
金魚は此処に逃げ込む際息子が一緒に連れ込もうとしたのを、金魚に分ける水も食い物も無いのだと静止して置き去りにしたんだった。
1人になってしまって金魚を飼っている幻想を見ていたのだろう。
目が覚めた、アレなんで私はデスクに突っ伏して寝ていたのだろう?
何か考え事をしていて此処で寝てしまったのだろうか?
まぁいい、私はデスクの上に置かれている水槽の中の金魚たちに「おはよう」と声をかけ、蓄電池に電気を貯める為に自転車に跨った。