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reverse of real  作者: 固まった雪玉
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 ーーーピチョン


 鼻に水滴が当たり彼女は目覚めた。


 ゆっくりと起き上がり辺りを見渡す。


 周囲は薄暗く、剥がれ落ちた壁の隙間から月の光が差し込んでいる。


 彼女は裸足で周囲を探り歩く、壁に手をつきながら小鹿のようにヨタヨタと。


 足裏に小さな石が刺さり血が滲む。血が点々と彼女の通った後ろに続いている。


 そのまま数分後、少し開けた場所に出た。


 月明かりに彼女の姿が照らされる。


 彼女は一糸纏わぬ姿で頭上に見える月を見入り立ち尽くしていた。


 肌は白雪のように白く儚げだった。


 肌の白さも相まって足に着いた血の赤がより一層際立って見える。


 足から血を流していることに気づいた彼女は、しゃがみこみ人差し指で血をとって舐めた。


 そのまま手のひらにベタッと血を付けて舐める。


 ペロペロと血を舐める彼女の視界の端っこに光る物が映る。


 壇上のようなものの上に置かれた銀色の物体に近づく。


 それは錆付いたナイフだった。


 ところどころ銀色に煌めく輝きに興味を引かれた彼女はナイフを手に取った。


 柄の部分ではなく刃の部分を掴んでしまったので手のひらからも血が滴り落ちる。


 彼女は手のひらを舐めた。


 ナイフの刃の部分で自分に当てると真っ赤な真っ赤な血が出ると気づいた彼女は、自らの体に刃を押し当てた。ダラダラと血が流れ出す。


 手で傷つけた部位に触れ、ベタぁっと血がつく。


 ペロペロと彼女は血を舐め続けていた…ナイフで自分を傷つけながら。


 その時コンッと何かを蹴った音が響いた。


 彼女が音のした方向を向くと小さい少女がいた。


 少女はゆっくりと近づいてくる。彼女は虚ろな瞳で少女を捉えていた。


 かなり近づいた時少女は目を見開いて慌てて駆け寄ってくる。


「大変、大変っ!」


 彼女の体がよく見える距離まで近づいたことで大量の血が流れていることに気づいた少女はあわあわと世話しなく彼女の周りを回る。


「血が!血が!止めないと!」


 何かないかと彼女は自分の肩から下げたバックの中を探る。


 彼女はそんな少女を見ながらナイフで自分を傷つけては舐めるを繰り返していた。


 その行為に気づいた少女はナイフを取り上げようとする。


「何してるの!危ないよっ!」


 ナイフを取ろうとピョンと跳びはねて手を伸ばす。


 血で滑り彼女の手からナイフが落ちる。



 ーーーカランッ!



 ナイフの音が辺りに響く。


 彼女は落ちたナイフを拾おうとしたが少女に止められた。


「危ないからさわっちゃだめ!」


 腕を掴まれグイっと少女に引っ張られる。


「こっち来て!ママなら血を止めれると思う…たぶん!」


 彼女は腕を掴まれたまま少女に引っ張られていく。


 薄暗い場所を抜け月明かりでよく周りが見える場所に出た。


 彼女がふと振り返ると眼前には朽ち果てた大きな大きな遺跡があった。


 少々に連れられ段々と遠ざかる遺跡を遠目に森の中を二人は駆け抜けていった。


 途中木の根っこに躓いたりしながらも目的の家がある村までたどり着いた。


 深夜だったことが幸いし、ここの道中まで誰にも見つからずに来ることができた。


 大きな柵で囲まれた村なので正門から入るのが普通だが、見回りの大人がいたので見えない所から村に入った。


 さすがに裸の女性がいたら騒ぎになるだろう。それに少女も怒られるだろう。


 静かに静かに家まで走る。


 村の少し外れ、ポツンと佇む家の玄関先で息も切れ切れの少女と表情一つ変えない彼女がいた。


 少女は暗い廊下を慣れた足取りで進み階段を急いで上る。


「ママっ!ケガしたおねーちゃんがいたの!治してあげて!」


 寝室のドアを勢いよく開け、眠った母親を揺さぶり起こす。


「…んん?…どうしたの?」


「ママ!ケガ!おねーちゃんがケガしてる!」


 娘の異常な焦りように何かを感じ取ったようで枕元に置いてあったランプに火を灯し娘の指が指し示す方向を向く。


 そこに彼女の姿が照らし出される。


 無表情に立ち尽くす彼女、母親は少し驚いてみせたが彼女の体の赤色が全て血だと気づくと近くにあった棚から救急箱を取り出した。


「沁みるけど動かないでね」


 包帯を出し、緑の葉をすり鉢で潰し包帯に浸ける。


 それを彼女の体にグルグルと巻き付けていく。


 彼女は身動ぎすることもなくなされるがまま巻かれていく。


「はい、これでよしっと」


 特に反応もなく彼女はただ立っていた。


「でも顔に傷がなくてよかったわ、こんなに綺麗な顔に傷なんてついてたら世界の損失だもの」


 彼女は何も反応しない、何を言っているか理解していないから。


 そんな彼女の様子に気づいたのか母親は、


「もしかして話せないのかしら?」


 うーん…と考える。言葉が伝わらないということは意志疎通がほとんど出来ないということだ。どうしてあのような血まみれの姿でいたのか聞くことができない。


「とりあえず年頃の乙女(?)がこのまま裸でいたら駄目でしょう?それにまだ夜は冷え込むから私のお古を使って」


 渡された服を彼女は見つめる。


「あらもしかして服も知らない?」


 「失礼するわね」と一言、早業で彼女を着せ変える。


 そこにはフワフワとしたとても可愛らしい服を着た彼女がいた。


「うんうんいいじゃない」


「おねーちゃん可愛い…」


 二人が彼女をまじまじと見つめる、しかしやはり彼女の表情は変わらない。


「じゃあこっちに来て」


 ランプ片手にリビングまで案内する。


 少女の母親は薪に火をくべ湯を沸かす。飲み物を3人分用意しテーブルにおいた。


「まずは名前からかしら、私はミザリーこの子は私の娘のマトリよ」


「マトリだよおねーちゃん!よろしくね」


「ふふっ、今は言葉が分からなくてもいいわ…本題に入りましょうか…マトリどこで何があったの?」


 マトリの表情が強張る。


「ママ怒らないから言ってみなさい?」


 そう言ったミザリーの顔の裏には何かを感じ取らざるを得ない凄みがあった。


「ほんとーに…ほんとーに怒らない?」


「明日からは怒ります、でも今日だけは特別、怒りません」


 マトリはモゴモゴと口を動かし人差し指をイジイジする。


「じつはあのね…夜…こっそりね…行っちゃいけないって言われてたとこに…行ってたの」


 いつ怒られるか不安で仕方がないといった表情を浮かべている。


 母は怯えた娘を抱き寄せ頭を撫でる。


「本当に…マトリ、あなたが無事で良かった」


 母の言葉に娘は泣き出した。優しい言葉をかけられ、今まで胸の奥に押さえていた感情が溢れ出す。


「ごべん…なさいっ…ごめ……なさっ…!」


 マトリが泣き止むまでミザリーは頭を撫で続けた。


 しばらくしてある程度落ち着いたマトリが一つ一つ言葉を零す。


「ひとりで行ってきたら…ヒクッ…みんなに大人になったって…ヒッ……みとめてもらえるって思って…」


 ミザリーは何も言わずに話を聞き続ける。


「それで…ぼうけんしてたら…おねえちゃんが自分でこうやって…ヒクッ…ナイフをこう…して…ンッ…おねーちゃんを切ってたから…」


 抱きしめられながらも身振り手振りで必死に、必死に伝えようとする。


「…?あなた自分で自分のこと傷つけてたの?」


 やはり彼女は何も反応しない、ミザリーが少しだけ引き気味の顔をしている。


「だからママなら治してもらえるって……私何もできなかった…大人になんか全然なれなかった…ヒクッ…」


「そんなことないわよ…私のところに連れて来る判断が出来ただけで十分よ」


 しばらくして完全に泣き止んだマトリはミザリーの元から離れ椅子に座る。


「事情はだいたい分かりました、自分を切ってたことは意味が分からなかったけど」


 ミザリーは彼女を見つめ少し考え込み小声で何か言った後、一つの提案をした。


「そうね…これも何かの縁…娘が連れてきた子だしね、コホン…あなた少しの間ここで暮らさない?」


 彼女はまっっったく反応しない、ミザリーも困っている。


「害をもたらしそうにないし、それにマトリが助けた人だものちゃんともてなすわ」


「おねーちゃんもいっしょに住むの!?」


 マトリがミザリーに目を輝かせ食い気味に聞く。


「ええ、もちろんおねーちゃんが良いと言えばだけどね」


「じゃあじゃあ、おねーちゃんいっしょにお家でくらそうよー。楽しいよ?」


 「ねーねー」と彼女の手をブンブンと振る。


 すると突然彼女は立ち上がった。


 いきなりで少し驚いているマトリをジッと彼女は見つめる。そして見つめたままで動かない。


「おねーちゃん?どうしたの?」


「んー…もしかしてマトリがどこかに連れていこうとしてるって思ったんじゃないかしら」


「ついて来てくれるの?じゃあお布団行こっ!ママと3人でいっしょに寝よ?」


 グイグイと彼女を引っ張り上に連れていく。ミザリーはそんな二人を見てちょっと微笑ましく思った。


「私も行かなきゃ…っとその前にコップを片付けないと…あら?」


 彼女に渡したコップを見て不思議に思ったようだ。


「いつの間に飲んだのかしら」


 3人のコップのうち飲み物が無くなっているのは彼女だけだった。それは別に問題ではないのだ。ただ彼女が飲んでいるところを見ていないから無くなった飲み物を見て不思議に思うのだ。


「…私がマトリに聞いている時に飲んでたのかしら…不思議な子ね…」


 感情の見え隠れも全くない彼女。でも悪い雰囲気はしなかったから娘に悪影響を与えることはないだろうとミザリーは考える。


「ママーねよー?」


 上から娘の声が聞こえてくる。


「はーいすぐ行くから待ってね」


 コップを片付け階段を上り寝室に入ると、ベッドの上で彼女に楽しそうに話しかける娘と相変わらず無表情で話を聞く彼女がいた。


「ママこっちこっち」


「はいはい」


 マトリの隣で布団に入る、マトリを挟んで隣では彼女が横になっている。


「明かり消すわよ、遅いからちゃんと寝るのよ?おねーちゃんとのお話はまた明日ね」


「はーい」


「そうだ明日起きたら水浴びするのよ、今日は夜も遅いから許しますが汚れは落とさないとね二人とも」


「いっしょに入ろうねおねーちゃん」


 ランプの明かりを消し、今日が終わる。


 数十秒も経たず寝息が聞こえてくる。ミザリーとマトリ…そして彼女から。




 今日は疲れたねお休み。




 ………はぁ…ほんと…さっさと殺しちゃえばいいのにね。


 そうすれば簡単に終わる話なのに…ほんとに私ながらバカだね。


 ふふっ…じゃあまた明日…楽しくないこんな日々もきっとすぐに終わりを迎えるよ…その日が楽しみだね。

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