お電話ありがとうございます。こちらは異世界転生相談窓口です。 -天才魔法使いからの相談-
「今日も仕事しんどっス」
新人の園田君が喫煙室でうなだれている。
「異世界転生が流行ってるんだし仕方ないよ。」
私は一本煙草を取り出すと園田君に労いの気持ちを込めて渡し、その後自分の煙草に火をつけると深く吸い込んだ。
私達は異世界転生した人達からの相談を受ける企業でバイトをしている。
異世界転生は日々増え続け、相談件数も鰻登りだ。
「なんでこんなに皆転生するんですかね。」
「流行りかねぇ。」
「転生なんて大体希望者しかならないと思うんですよ。みんな転生した後、異世界を普通に受け入れて暮らすし、何ならノリノリにお姫様とかしちゃうし。俺は無理っスね。」
園田君もあげた煙草に火をつけ、美味しそうに吸った。
「私も転生無理だな。そういえばこの間、転生しんどいって相談の連絡があったわ。」
「どんなっすか?」
「転生したら天才魔法使いになったらしいのよ。」
「魔法使いなんて当たり転生っすね。」
「そう、当たりだし本人もうっすら希望してたみたい。」
「やっぱり。」
現実世界に魔法がない分、魔法使いへの転生は人気転生のひとつだ。
「でも精神的にしんどいんだって。」
「何でですか?」
「魔法の詠唱よ。」
「あー、確かにそれは。」
異世界では魔法の詠唱は当たり前にある。
長く言うものもあれば、ファイヤー!などと短く済むのもある。けれど殆ど何かしら詠唱をしないと魔法が使えないのだ。
そして天才と付く魔法使いは長い詠唱がほぼ必須となる。
「転生者って社畜で過労死多めじゃない?いい歳の元サラリーマンがカッコよく詠唱ってのは精神的にキツいんだって。」
「そりゃそうですよね。俺だって無理ですもん。『我が手に宿し金色の-』みたいな事言わないといけないなんて、赤面どころじゃないですよ。」
「私も100%無理。」
私は煙草を消すと立ち上がった。
「ほんと異世界転生するのも楽じゃないわよね。さ、仕事に戻りましょう。」
「はーい。でもこんなに働いてたら俺も過労死して異世界転生しそうっす。」
「魔法使いになりたい?」
「モテモテな悪役令嬢がいいっす。」
「それ私もなりたい!」
下らない話をしながら私と園田君は仕事に戻った。
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