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83話:新王の不満

 エルミーヌさま主催の祝勝会で、四阿に陣取った新王は、不機嫌に近くの者に何かを命じる。


 向かう先は歌い始めて盛り上がりを見せるロジェたち、この集まりの中心。

 とても嫌な予感がしながら私は会場の端で成り行きを見ていた。


 案の定、四阿に腰を据えた新王がロジェを呼び出そうとしたようだ。


「あら、今いいところなの。主役がいなくてどうするの。ねぇ、皆さん?」


 もちろんエルミーヌさまが阻止して、その場の全員が騒ぎ、使い走りにされた若い貴族を追い返す。

 手ぶらで四阿に戻った若い貴族は、さらに新王に追い出されていた。


 すでに泣きそうな顔をしている。


「あぁ、ではお誉めの言葉いただきました。よしなにお伝えください」


 新王との板挟みで縋る若い貴族に、ロジェはこともなげに言った。


 褒めてやるから来いと言ってるのに、ロジェが動こうとせず、若い貴族は涙ぐみ始めている。


「他人の主催で他人の功を祝う中、他人の楽しみの邪魔をして、他人だけを動かそうだなんて」


 私の側で同じものを見ていたアンナさまはお怒りだ。


 今のところロジェに新王を気遣う義理はない。

 何せ最初の謁見で不十分な対応をされた後、だしにされた晩餐会も茶会も舞踏会も新王からロジェへの接触はなかったのだ。


「あまりにも雑な扱いでしたし、ロジェも思うところがあるのでしょう」

「当たり前です。新興国とは言え一国に対するものではありません。ボルボーの殿下への対応を見た他国の使者たちが何を思うのかわからないとでも言うのかしら」


 正直、新王の主催した集まりは不評だ。

 議会とはまた別の政治案件を内包した集まりだと理解していない可能性すらある。

 自らの行いが我が国が侮られる一因にもなっているなど、新王は思いつきもしないのだろう。


「へ、陛下はボルボーの方と国の行く末について余人を交えずお話したいと!」


 往復する若い貴族の泣き言のような訴えに、ロジェの目に興味が光る。


「皆さま、ボルボー王国の第三王子、我らのロジェ殿下が国の行く末について陛下からご下問があるそうよ」


 目敏く気づいたエルミーヌさまの声に笑いが起こった。


 それはそうだ。

 正使でもなく現状継嗣でもないロジェと国について何を話すと言うのか?


「いやいや、そこまで見込まれては私も吝かじゃない」


 ロジェは明らかに面白がって新王のところへ行く気になった。

 エルミーヌさまも周囲を囃し立てて今までのほぼ無視から一転、ロジェの取り巻きのようになって一緒に四阿へ移動し始める。


「待て! 関係のない者は入るな!」


 新王の周辺が四阿の外へ押し出すけれど、ロジェの腕に絡んだエルミーヌさまは四阿の中へ入り込む。


「余人を排してと私は言ったはずだが?」

「そちらもご婦人をお連れではないですか」


 ロジェの返しに新王は隣に陣取るシヴィルを見る。


「彼女は私と国の行く末に深く関わる者だ。余人ではない」

「でしたら子爵夫人も私にとっては余人ではなくなるかもしれませんので同席をお許しいただけますね。ありがとうございます」

「え、は!?」


 勝手に座るロジェとエルミーヌさまに、新王は慌てる。


 どう聞いても、今のはロジェが若い愛人候補であると聞こえる。

 それはまぁ、いい。ちょっと納得いかないけどこの場限りのことだろうし。

 問題は私の隣だった。


「またあのような弁えのないことを…………!」


 アンナさまがお怒りだ。


「若者にとんだ悪影響を及ぼして、エルミーヌは…………!」

「いえ、ロジェの場合は元の性格が。というか、余人も何も関係ないのですが」


 四阿に壁はないので、近くにいればすべて筒抜けだ。


 とは言えなんとも強引な手での同席は、何を言われても味方として証人になってくれる人物が欲しかったからだろう。


「それで国の行く末とは穏やかではありませんね。何か貴国に不安要素が?」


 真面目な顔を作って話をふるロジェに、新王も気を取り直す。


「いや、何。王家の者として君には助言を与えてやっても良いと思ってな」

「新王陛下が助言を? それはそれは」


 わざわざ新王というロジェに、当の新王は含まれる皮肉に気づかない。


 そしてエルミーヌさまは新王の発言を気にする様子を見せる。


「悪手ね。王家と言ってしまえば臣下も同じく王家のためと口を挟めるわ」


 アンナさまがそう囁く間に新王が語るのは、愚にもつかない愚痴だった。


「あまりに高い王家の志を民衆はもちろん、臣下も必ず汲むとは限らない。そなたも気を付けることだ。王の采配によって禄を食む身でありながら、分を弁えない者のなんと多いことか」


 ロジェは聞き流しているけれど、エルミーヌさまは笑顔を張り付けて怒りを抑えているようだ。


「不逞の輩が貴族にもいるのは嘆かわしい。古き歴史に学べば私の正しさを水のように飲み込めるというのに」

「あぁ、お勉強はできる方だと聞いておりますよ」


 ロジェが私の発言を引き合いに出すと、新王はちょっと鼻を高くする。

 裏を読んでほしいわ。

 勉強しかできない、机上の空論しか言わないと皮肉られているのに。


 ロジェの悪意のなさそうな雰囲気に騙されているのかしら。

 いえ、最初の謁見のもささで侮っている?


「そう、故事に通じれば相応しい教養が…………。あぁ、賢人は路傍の石からも学ぶという。ボルボーのほうでは王たる者として何を重視しているのか聞くのも悪くないだろう」

「…………さて、重視するものですか」


 悪意のない侮りにロジェは答えるのが遅れる。


「少なくとも新王陛下に今必要な王としての資質は、体を鍛えて剣の一つも振れるようになることではないでしょうかね」


 突拍子もない発言だけれど、わかる者にはわかる痛烈な皮肉だ。

 かつて王家を倒した国の王族が体を鍛えろというとんでもない含意。


 今にお前も反逆されるから覚悟をしておけと言う痛烈な批判以外にない。


「…………ほ…………おほほほほ! まぁ、ロジェ殿下あなたという方は!」

「ははは、少々遠回し過ぎましたか?」


 エルミーヌさまが場を攫うように笑うとさらにロジェが追撃を見舞う。

 気づいていない新王の様子に、四阿に集まっていたエルミーヌさまの取り巻きが、さらに自らの王の鈍さを覆い隠すように笑い出した。


「は、はは?」


 冗談の類と思ったのか新王は乾いた笑いを漏らして場に合わせる。

 シヴィルは素直にわからない顔でつまらなさそうだ。


「まぁ、人の心がわからなくなるのも王という話ですよ」


 直截なロジェにさすがの新王も不快を表す。

 冗談を理解しなかったと皮肉られた程度のことでしょうけれど。


 …………そこに甲高い声が割って入るのは予想外だ。


「わかってないのは周りですわ! 陛下、お可哀想に!」


 話について行けないのなら、シヴィルには大人しくしておいてほしかった。


毎日更新

次回:ロジェの見限り

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