表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/131

61話:大型鼠

 私とロジェと護衛隊長の三人で視察に来た村の中を足早に歩く。

 向かう先は村長の家。


 集会所も兼ねる広い家で、扉は開け放たれて村の者たちが忙しく出入りをしていた。

 居間には村長を中心にした村の主要人物たちが集まっている。


「失礼、お邪魔するわ」

「イレーヌさま! お出迎えもせず」


 慌てて私のほうへやって来ようとする村長を手で制す。


「事情は聞きました。被害状況は? 馬を貸して本邸へ伝えるよう言いましたけれど、それで間に合うかしら?」


 正直村の者がどれくらいの速度で馬を走らせられるかは知らない。

 それにこの辺りは馴染みがないので本当にどれくらいでトリスタンが応じてくれるのか想像がつかなかった。


「正直申しまして見当もつきません」


 村長もわからないのではあまり期待しないほうがいいだろう。

 ここで魔物を阻止するしかない。


「村の者が逃げるために前足を切りつけたと言いましたが、それで余計に興奮した様子だったと」

「すまないがいいだろうか?」


 汗を拭き拭き言葉を探す村長にロジェが声をかけた。

 村長は見慣れない貴族子弟に私を見る。


 公国からの帰りの時もロジェは魔物を相手に危なげなく対処をしてくれた。

 私は村長にロジェに答えるよう頷いて見せる。


「見たことのない魔物だと言っていたが、それは全く見たことのない姿形か? それとも見慣れた魔物に変異のあった姿か?」


 ロジェは何を伝えるべきか迷う村長に、欲しい情報を一つ提示した。


「は、はい。それが良く見る鼠の魔物だったんそうですが、それが牛ほども大きかったそうで」

「牛!? 待って、この辺りで目撃される魔物は、大型犬くらいの大きさの鼠だったはずよね?」


 鼠としては大型犬でも破格の大きさ。

 それがさらに大きく牛だなんて。


 驚く私の横でロジェは冷静に村長の言葉を吟味した。


「巨大化は魔物の変異の中でもよくある。問題は爪や牙と言った元から持つ殺傷能力のある部位に変色や変形が見られなかったかだな」

「変色や変形があると何が問題なの、ロジェ?」

「毒を持っていたり、今までとは似ていて全く違う攻撃手段できたりするんだ」

「なるほど。変色や変形についての報告はありません。鼠の魔物でしたら、引っ掻くよりも噛みつくことが攻撃手段です。動きが早いので方向転換で振られた尻尾に打たれて負傷する者も出ます」


 村長が良く見る魔物の特徴を上げる。


「今回怪我した者は歯でやられています。噛みつかれて手の骨が折れてしまったそうです」

「体の大きさに合わせて顎の力も強くなってるのか。歯しか攻撃手段にしないと言っても、牛ほどに大きな鼠なら体当たりで確実に怪我をするし、尻尾も強いだろうな」


 ロジェがそう言った時、情報を集めに行っていた護衛たちが村長の家に入って来た。


「村人を追って牛ほどの魔物が一体追ってきていると。今は村を狙って茂みに潜んでいるそうです」

「本来の姿であれば群れで行動するので一体を倒して終わりではないのではないかと言っている者がいます」


 護衛の報告に村長は頷く。


 鼠の魔物は群れ、つまり何処かにある巣を潰さなければ湧き続ける。

 その上で変異種であることを考えれば、全てが変異種である可能性もあった。


「いっそ巣を見つけられれば楽なんだが。鼠の魔物は薬剤で巣ごと殲滅できる」

「そうなの? ロジェ、あなた鼠の魔物とも戦ったことがあるのね」

「あれ? こっちじゃ違うのか?」

「いえ、違いません。数年前にもこの辺りには鼠の魔物が出て、その時に駆除剤の作り方はまだ残っております」


 ラシェルが聖女になった時のことだろう。


「ただ、おかしいのです。あんな目立つ巨躯の魔物が、どうして今まで気づかれずにいたのか」

「そう言えばそんな魔物の目撃情報は聞こえていないわね」

「はい。今日見たのが初めてで。鼠の魔物自体が、最近では三匹ほど現れただけでなのです」


 そちらは普通の大きさだったそうだ。


「巣は別の場所かもしれないな」


 ロジェは思い出すように手をゆっくりと左右に振った。


「俺はこの辺りの地理に詳しくはないが、馬から眺めた限り村周辺に手入れのされていない山野はない。となると村の領域外からの侵入だ」


 手入れをしている里山や林は村人の生活の糧だ。

 そこに魔物が現われたならすぐに見つけるはず。


「確かに突然現れたと言うのは不自然ね。鼠が巣を作れば食べ散らかしや排せつ物が目につくでしょうし」

「誓って申し上げますが、そのようなものを見つけたなら、すぐさまお知らせいたします」


 村長は不手際があったわけではないと訴える。

 私はこの中で一番経験豊富だろうロジェを見た。


「この辺りは領地の境なの、ロジェ。山の向こうが国境を持つ領地、林の向こうは王都に続く川の源流を持つ領地になるわ」

「国境? そう言えば聖女の結界が危うくなると国境から魔物が現われるようになるといっていたな」

「えぇ、その傾向にあるわ」

「変異種だっていきなり湧いて出るわけじゃない。生まれ時から大きい者もいるが、異常成長で大きくなることもある」

「まさか、国境を越えた時は普通の大きさで、こちらに来てから巨大に?」

「見つからずにここまで単体で来たならその可能性はあるだろ?」


 だとしたら変異種の魔物は一体のみで営巣はしていない、か。


「ねぇ、すでに営巣していた鼠の魔物の中から出た変異種が群れを分けた可能性は?」

「有り得るな。その辺りの推測は、まず目の前に迫ってる変異種を倒してからでいいだろう。こちらで巣を捜すと同時に隣の領でも捜索をしてもらったほうがいい」

「そうね、そのためにはまず領主館から兵が来るまで持ちこたえないと」

「いや、イレーヌの結界があるなら熊とやり方は変わらないさ。今いる人数でこと足りる。呼んだ兵はすぐさま巣の捜索に出すべきだ」


 ロジェの自信に村長は半信半疑。

 私は顔を顰めてみせる。


「あなた、曲がりなりにも我が家の客なのよ。危険に身を晒す必要はないわ」


 するとなぜかロジェは驚いた顔をした。

 真意を探るように私を見つめていたかと思うと、突然ウィンクを投げて来る。


「惚れた女がいて、惚れた女を慕う人間が困ってる。だったらここで退く理由はないだろ?」

「あぁ…………!」


 村長が何故か納得の声を上げた。

 本邸でも隠していないロジェのアプローチを知る護衛は苦笑いだ。

 心配して損した気分になる。


 私はロジェを軽く睨んで背を向けた。


「では、きりきり働いてもらいましょうか? それでわたくしがどうなることもありませんけれど」

「もちろん。でかくても鼠相手に功を上げようなんて思っちゃいないさ」


 当たり前のように答えるロジェが、変に恰好つけるよりも恰好いいと思ってしまう。

 村長も聞こえていた村人たちも感心した様子だ。


 どうやらこれがボルボーの王子さまの手管のようだった。


毎日更新

次回:魔物の異常発生

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ