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シヴィル1

他視点


 全てが上手くいった!

 なんて素晴らしいのかしら!


「いえ、これも全て私の才知あってこそよね!」

「おめでとう、シヴィル。あなたが聖女と認められるなんて、私も姉として誇らしいわ」


 姉のカロリーヌが、いつものように地味なドレスを着て私に頷いた。


 ここは姉の住む屋敷。

 公爵家継嗣である義兄パトリックの家だ。

 私は義妹として可愛がられてるから好きに出入りして寝泊まりしてる。

 王都の別邸ってところかしらね。


「うふふ、人妻だから地味なの着ろなんて言う趣味はどうかと思うけど、義兄さんに出会えて良かったわ」

「まぁ、シヴィル。あの人の悪口は駄目よ」

「ふん、結婚してから私に口応えなんて。確かに公爵家継嗣の地位は大きいわよ。けど私は王太子を射止めたの! いつまでも勝ったなんて思わないでね」

「えぇ、そうね。素晴らしいわ。シヴィルのほうが魅力的だったのね」

「ふふん」


 そう、顔だけのラシェルなんて私が本気を出せばこんなものよ。

 たまたま聖女に指名されただけの田舎娘なんて敵じゃないわ。

 ま、この屋敷の暮らしも悪くないけど、王城に住んで贅沢三昧するのはラシェルなんかより私にこそふさわしい権利よね。


 それを思えば義兄さんに媚びを売っておいて良かった。

 あの人が二コラさまの側近だったお蔭で近づけたんだから。


「本当ラシェルって馬鹿よね。運よく能力があって聖女になったのにそれを生かしもしないなんて。元の才覚が私とは違いすぎたのかもしれないわ。ちょうど年頃が近いからって王太子の婚約者になれたのに」

「そうね。シヴィルは昔からなんでもできたものね。きっと未来の王妃として栄達していくわ」


 ふふん、未来の王妃。

 いい響きじゃない。


「だいたいラシェルは聖女なのに区長にうるさく言われてる時点で聖女って言う地位の尊さがわかってないのよ。言わせないようガツンと対応しないと。その点、私はニコラさまにきちんとお願いしたわ」

「シヴィルは勇気があるのね。そうでなければ中央教会を牛耳る区長や、次期国王であるお方と対等に渡り合えないでしょう。それに目標に向かってやり遂げる意思もある。なるべくしてなったのよね」

「えぇ、そうよ!」


 あんたと違ってね!

 ま、カロリーヌは一生分の幸運を義兄さんを捕まえるために使っちゃったみたいだけど。


 ラシェルほどじゃないけど、私から見ればこの姉もどんくさい。

 言いたいことは言えばいいし、やりたくないことなんてやらなくていいのに、他人の顔色窺っていい子のふりをする。

 なんでか自分から面倒なほうに行く馬鹿なのよね。

 そんなの他人に押しつけて自分は上手く切り抜けるのが世渡りってものでしょ。


「区長だって二コラさまが言ったからには私を支持して上手くやるでしょう。適当に祈ってそれで済むだけの聖女なんて過去の栄光で私は終わらないわ」


 今着ているドレスは二コラさまからの贈り物だ。

 王宮の専属デザイナーを呼んでのドレス作りは心が弾んだ。

 私のためだけに腕利きの針子が寝る間も惜しんでドレスを作る。

 どんな難しい裁断も、どんなに斬新なデザインも思うまま。


 だって未来の王妃ですもの!

 当たり前よね!

 専属デザイナーはラシェルはそんなこと言わなかったなんて繰り返してたけど、当たり前じゃない。

 私をあんな子と一緒にしないでよね。


「今の王妃のようなお飾りなんてまっぴらごめんよ。我が物顔で社交界を牛耳る夫人なんて私が王妃になった暁には家ごと左遷してやるわ」

「まぁ、先を見据えているのね。我が家はあまり名の知れていない家だもの。上がいなくなればそれだけ引き立てられるわね」


 あ、そうだわ。

 我が家は爵位もない傍流の貴族。

 そのことで私を舐める貴族が出て来るかも知れない。


 カロリーヌが公爵家継嗣の妻になって一族の中でも発言力は強まってるけど貴族全体で見ると端の存在でしかない。

 どころかラシェルの家は端でも爵位を持ってる分…………。


「家のせいでラシェルに見劣りするなんて言われたら嫌でしょうね」


 カロリーヌの言葉に私は衝撃を受けた。

 そうだ、その可能性がある。

 そしてそんなことを理由に私の足を引っ張る貴族が出てもおかしくない。


「確かに、父さまを引き立てる必要があるわ。男爵以上、いえ、あの夫人より下も嫌よ」


 思い浮かぶのは社交下手の王妃を差し置いて、社交界を牛耳る子爵夫人。

 将来はその夫が家を継いで伯爵夫人になる予定だ。

 となると、我が家も伯爵家に?


 でも爵位ってどうやってもらえるのかしら?

 ニコラさまに聞いてみよう。

 いえ、私に惚れこんでるから訴えれば爵位くらいどうとでもしてくれるはず。

 もし難しくて渋るようなら泣き落としすればいいわ。

 これがすごく効くのよね。


「カロリーヌ、どう話を持って行こうかしら?」

「それはどなたに?」

「ニコラさまに決まってるでしょ」


 本当、カロリーヌは鈍いわね。

 これで公爵家継嗣の義兄さんを落とせたのは奇跡じゃない?


「そう…………だったらあの元聖女と仲の良かった公爵令嬢をだしにすればいいのではない? 身分をかさに着て、貶められたのが恥ずかしいと。王太子殿下の婚約者として相応しくありたいからと言えばどうかしら?」

「いいわね。あの高慢ちきのイレーヌ、言葉にしなくてもいつも偉そうなのが気に食わなかったのよ。ふふん、公爵家と言っても臣下なんだから、ニコラさまに逆らえないはず。ついでに父さまの爵位についてもニコラさまにお願いするわ」


 イレーヌに立場をわからせるためのいい手だわ。

 そう思ったのに、何故かカロリーヌは困ったように笑う。


「何よ?」

「あまりやりすぎると、聖女としての行いに文句を言う人もいるかも知れないと思って」

「聖女の行い? ふん! 王太子の婚約者に文句が言えるなら、それは身分の違いを理解しない馬鹿よ」

「そうね。でも、最低限聖女の務めはやって見せておいたほうがうるさくは言われないと思うわ」


 うるさいで思い浮かぶのは区長ね。

 確かに区長としてとかいって、身分を弁えずに未来の王妃である私に何か言ってきそうではあるわ。


 けどわざわざ時間を作って中央教会に行くのも面倒だし。


「聖女の祈りって最低どれくらい行けばいいのかしら? ラシェルは毎日祈ってて偉いなんて言われてたし、別に毎日じゃなくてもいいはずよ」

「私は、聖女の素養がないから…………」


 そうよね。

 選ばれた才能がカロリーヌにはなかった。

 両親もそう言ってたし、私はちゃんと中央教会で賦役をしたのだ。


 その時区長と繋ぎを持っていたからこそ、こうして聖女になっても何の問題もない。

 先見の明ってやつね。


「あぁ、けれど以前読んだ本にあった聖女さまの言行録では、一カ月王都を離れて戻った話があったわ」

「じゃ、一カ月に一回くらいでいい訳ね。思ったより余裕じゃない。なんでラシェルは毎日聖女の御坐所に入り浸ってのかしら?」

「さぁ? 何か上手くいかないことがあったのかもしれないわね」


 ありえる。

 ラシェルはともかくどんくさい。

 修道生活でも面倒ごと押しつけてたし、しかもそれを言いつけもしないし他人に回すこともしない馬鹿だった。


 逃げることもできないし言い返すこともできないなんて、本当に鈍くて何もできないんだから。

 …………けど、逃げるどころか立ちはだかって言い返してくる邪魔者がいたわね。


「イレーヌが邪魔だわ。絶対私が聖女であることを邪魔してくるはずよ。ニコラさまには言うとして、他に手を回されると厄介ね」

「婚約もなくなった未婚の令嬢よ? そんなことできるかしら」


 カロリーヌの言葉に思わず笑ってしまった。


「まぁ、行き遅れじゃね。けどイレーヌは生まれをかさに着てるから口出しは絶対にしてくるわ」

「だったら、うちの人に頼んでみてはどう? 普段から妹が兄を敬わないと、血縁者の不徳を嘆いていらっしゃるのよ」

「いいわね。義兄さんは私を可愛がってくれるもの。イレーヌより私を大事にしてくれるわ」

「えぇ、シヴィルのほうが本物の妹より可愛いといっていたわね。私も姉として誇らしいわ」


 微笑むカロリーヌも、本当に鈍いんだから。


 家に引きこもってるカロリーヌより私と一緒の時間が長いこともあるのに。

 その内パトリックだって私の虜よ。

 将来の公爵が私につけば、怖いものなしだわ。


「あら、もうこんな時間。シヴィル、お昼は食べていく?」


 柱時計が鳴ったことで、カロリーヌがそんなことを聞いて来た。


 公爵家所縁の屋敷だけあって使用人の質は高いし、実家では及びもつかないほど豪華な寝食を提供される。

 最初カロリーヌがこの環境で嫉妬したけれど、今では私がそれ以上の贅沢を許されるようになった。


「いいわ。私これから二コラさまの所へ行くもの」

「あら、今日は何をしに?」

「ドレス作りよ。私は王妃となると同時に社交界のファッションリーダーとして華々しくデビューするの! 今からそのためのドレスを作って注目を集めないと!」

「まぁ、本当にシヴィルは努力家ね」


 当たり前でしょ。

 生まれたあの家には何もなかっただから自分で頑張るしかなかったのだもの。


 体を張ってお金を使って好きでもない勉強もほどほどやって手に入れたのよ。

 これが私の才知であり先見。

 そう、私は努力の人なのよ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子サイドの男は全員まともなおつむをしてない無能のようだし、シヴィルもお察し。 地味な衣装(シヴィルの価値観なので実際は分かりませんが)に身を包み、筋肉夫の圧力に押さえつけられてるふりをしな…
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