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35話:ロジェの新王評

 ヴァルシア王国の王都にある公爵家に戻って、数日が経った。


「この国の王はあれの何処がいいんだ?」

「どうして我が家にいるのかしら、ロジェ?」

「そりゃ、公爵家の馬車にお世話になって入国したんだ。新王への謁見の報告するくらいの義理はあるだろ?」


 当たり前のように客間で茶を飲むロジェに、私は溜め息を禁じえなかった。


 もちろんこうしてもてなされていることから、正規の客扱いなのでしょうけれど。

 笑顔を向けるロジェを軽く睨んでも効果はないようだ。


「それで、公館のほうには戻らず我が家に来たの? 全く他人を動かすつぼをよくご存じね」


 公国と違ってヴァルシア王国はボルボー王国と国交がある。

 そのためボルボー王国の公館が王都にはあった。


 王都に着いてから、ロジェはそちらに行き、謁見を取り付けた話は聞いている。

 それが今日だと言うことも聞き及んでいた。


 だからと言って礼服のまま我が家に来るなんて思いもしなかったわ。


「…………似合ってないわね」

「ま、公館にあったの借りただけだからな」


 ロジェが着ているのは黒いコートに白いズボンのよくある礼服。

 きわめておかしいわけではないけれど、普段の目を引く凛々しさが半減している。

 つまり、似合っていない。


 正直この恰好ではあり合わせを着て来たとすぐにばれる。

 そうなると衣装もまとも用意できないと笑われるだけだ。


「そんな難しい顔をするなよ、イレーヌ。ちゃんと公爵閣下からは許可取ったぜ」

「本当に、あなたの対人スキルどうなっているの? それはつまり、今日城に上がっていたお父さまと話したということよね?」

「まぁ、あちらとしても第三国に既成事実作りたいってところなんだろ」


 さらりと言うけれど、我が家、ヴァルシア王国でも上から数えたほうが早い家よ?

 良く数時間のチャンスでそんな許可が取れるほど近づけたわね。


 お父さまの考えを思うと、ロジェの名を聞けば私の報告のこともあり直接見たいと思うかもしれない。

 だからと言って本当に会うには数日かけた根回しが必要になるはず。


「俺のこと閣下には伝えていたんだろ? そんなに不思議がることか? 別に二人きりで会わせてもらえてるわけでもないし」


 客間には私が入る前に男性使用人を率いた執事が待機している。

 厳しい目を向けられる中、普段どおりのロジェの肝の据わり方に感心すべきかもしれない。


「私は公国でのことを報告済みよ。ロジェがラシェルのことを把握していると知っているわ」


 その上で新王より公爵家へ近づく姿勢を見せるなら、抱き込んでおいて損はない相手だ。


 貴族個人でお近づきになるには国同士の摩擦が存在する。

 けれど国の裁量に関わる貴族となれば、近づく意義もあった。


「それで、あれとは?」

「わかってるのに改めて聞くのか?」

「あなたがどのような既成事実を作るか、確かめる必要があるでしょう?」


 もちろん、お話しするからにはもてなしてあげましょう。


「お茶のお代わりは? それともコーヒーがいいかしら? お茶請けは甘い物はお好き? それともスパイシーなほうがお好み?」

「そこで酒と煙草と言わないところがお姫さまだな」

「煙草を嗜みたいのならシガールームへご案内するけれど、感想を聞かせてもらってからね」

「おぉ」


 わかりやすく嬉しそうな声を出すロジェ。

 そう反応がいいと悪い気はしない。


 私はコーヒーと香辛料を混ぜ込んだクッキーを用意させて話を仕切り直した。


「まず謁見なんだが空気が悪かった」

「想像はできるわね。どうせ重鎮方はとても渋い顔をなさっておいでだったのでしょう?」

「そうそう。公館で儀礼についてはざっと習ったんだが、並びもおかしくてな。見るからに重鎮は玉座から遠く、近くには派手なだけの若いのばかり。末席はさすがに身分相応だったが肩身が狭そうだった」

「正解よ。玉座に近い所にいたのは新王が取り立てた若い貴族子弟。新王からにわかに禄をもらって飾り立てているだけで、なんの実績もないわ」


 新王に媚びる以外にしていないので、今後も実績はできないだろう者たちだ。


「王子の時に交友に関して口出しされなかったのか?」

「してあったわ。…………排除されたのよ」


 つい不機嫌さが声に現れてしまい、ロジェは一度口を閉じる。


 駄目ね、パトリックがやらかしたことだと思うとつい。

 よりによって高位貴族の兄が、良識を持った貴族子弟を脅しかけて追い払ったなんてさすがに言えない。


「以前少し排除したのだけれど、それに気を悪くした陛下が序列の並びを変えてしまったそうよ」

「へ? あぁ、謁見の並びか」


 話を変えた私に、ロジェは何か考えながらも応じる。

 王城の派閥を調べられればわかることなので、あえて私の口からは語らせないでほしい。

 淑女の仮面が取れてしまうわ。


「何をしたのかは聞いても?」


 私の不穏さにロジェが窺いを立てる。


「公国へ行っている間のことよ、陛下の寝室周辺をお父さまたち重鎮が抑えたの。そのことで一時期大人しくしていたそうだけれど、堪え性がないのね」

「とんでも法案出したって聞いたけど?」

「まぁ、何処で聞いたのかしら? と言っても議会を通さなければいけないような格式の高い公式行事には手を入れられないから机上の空論よ」

「ははぁ、俺程度の身分の奴相手にだけ格式無視したあれか。はは、なるほどなぁ」


 新興国で継承権も高くはないロジェは、公式の身分が軍属でヴァルシア王国では取り立てて重んじるような所属でもない。


「ま、独りよがりで現場を知らん王子さまが国王になるとあんなもんなんだろうな」


 辛辣だけれどその感想は的を射てる。


「どうも人を動かすことに慣れていないようだな。この国の王子は軍を経験しないのか?」

「しないわ。ボルボーは前体制の時から王族の義務として軍役が課されていたそうね」

「基本お飾りだがな。それでも現場での動きを把握してるってのはいいことだ。段取りをわかっているなら命令も即したものになるし、現場からの説明にも理解が生じる」

「つまり、陛下に何か見当違いなことを言われたのね」


 聞きたくない気もするけれど。


「ありゃ完全に属国扱いだったぜ。こっちが守った一線ガン無視だ。俺も防衛は独自にやってるってなことをそれとなく言ったんだがなぁ」


 コーヒーを一口飲むロジェの沈黙が耳に痛い。


「…………励めだとよ」


 笑顔だけれど目が笑っていないわ。


 今度は頭が痛くなって来た。

 相手の体面を潰していいことなどないし、国同士ならなおさらよ。

 そんなことも想像がつかない、ボルボー王国という隣国との状況を理解していない、そんな新王ニコラの至らなさを露見する大惨事じゃない。


「それを、国には?」

「もちろん伝える。ただ、混迷も長くはなさそうだ、とも伝えるつもりはある」


 今までの雰囲気を払拭して、私にウィンクを投げて来るロジェに、ちょっと苛立ちが湧く。


「あら、一国の王より遠ざけられた重鎮を信頼するの?」

「まさか」


 私の皮肉に、ロジェは膝に肘をついて身を乗り出すと微笑んだ。


「イレーヌがそっちにいるからに決まってるだろ」


 あまりにも確信に満ちた声で、不覚にも一瞬言葉に詰まってしまったのだった。


毎日更新

次回:ロジェの偽聖女評

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