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シヴィル2

 私はボルボー王国の王子と謁見に意気込みを持って参加した。

 誰か知らないけどいいドレスのお披露目になるんだもの。


 ストロベリーピンクのドレスは大きく開いたデコルテを飾る黒のレースを前立てまで垂らした斬新なデザイン。

 さらにデコルテから腰回り、裾、背面を季節の生花で飾る大胆さよ。

 他の木っ端貴族では真似できない贅沢で先鋭的な装いを私は着こなした。


「あの、シヴィルさま。お手紙が届いております」


 気分よく王城の自室に戻ると、気の利かない侍女が余計な物を差し出してくる。


 手紙の相手は区長で、中身はお説教の上に結界についてのうんちく。

 そして勤めに来いと未来の王妃である私を呼びつける内容なのは読まなくてもわかる。


「捨てておいて」

「な、中をご覧にならないのですか?」

「書いてあることくらいわかるわよ。捨てなさい!」


 強く言えばすぐに怯えて退く。

 ふん、侍女如きが私を煩わせるなんて立場をわきまえてないんだから。


「まぁ、どうしたの?」


 私の声に、部屋にいたカロリーヌがやって来る。

 特に用もないけど呼んでおいたのを忘れてた。


 カロリーヌは正式な妻じゃない扱いだから、公に義兄さんは連れ歩けないし、王城にも入れない。

 私や身分の高い者が呼び寄せない限りは。

 その優越感のために呼んでただけだから、正直まだいたのって感じ。


「なんでもないわ。カロリーヌ、喉が渇いたの」

「そう、すぐ飲み物を用意するわね。それで、ボルボー王国の殿下はどのような方だったのかしら?」

「どんな? センスのない礼服着た、暗い髪色の冴えない王子だったわ」

「そうなの? イレーヌがわざわざ公国から連れ帰ったと聞いたからどんな切れ者かと」

「切れ者!? ないない! もう見るからに田舎者! 野暮ったいだけの属国の王子よ! カロリーヌ何言ってるの?」


 王子だってぴんきりだと見てわかった。

 それで言えば王子としてはニコラさまは当たりだ。

 あんな優雅さもない奴、所詮三男だし継承権低いだけ王者としての教育受けてないんでしょ。


「だいたいボルボー王国なんて最近できただけの小国と聞いてるわ。イレーヌが連れて帰ったというより、公爵家の威光に縋って一緒に来ただけじゃないの?」

「そう、かもしれないわね…………」


 カロリーヌは考え込むと長い。

 この判断の遅さがカロリーヌの短所ね。

 だからいつも私のほうが両親にも愛されるし、上の男を手に入れられた。


 そういうことをわからせてくれる分にはいい姉だわ。


「シヴィル! はは、愉快な集まりだったね!」

「ニコラさま!」


 わざわざ会いに来た王に、私は遠慮なく熱い抱擁で答える。

 そしたらキスが降って来た。

 やだ、もう! 私に溺れすぎじゃない?


「うん? カロリーヌ、来ていたのか?」

「はい、あなた。シヴィルに招かれて」


 一緒にいた義兄のパトリックは気にせずカロリーヌのほうへ向かう。

 変なところで趣味悪いのよね、義兄さん。

 結局私よりもカロリーヌのほう行くんだから。


 …………別に用もないし、カロリーヌは帰らせよう。


「カロリーヌ、もう帰ってあげないと大切な公爵家の世継ぎが寂しがるわ。引き留めてごめんなさい」


 私とニコラさまに合わせて抱擁をしようとしていたパトリックが止まる。

 その表情は険しい。


「自分の息子を一人で置いてくるなんてなんてことを!?」

「も、申し訳ございません…………」


 カロリーヌ委縮したように下を向く。


 パトリックの母親はイレーヌを産んで体調を崩したまま死んだ。

 その間公爵家は弱った正妻と生まれたばかりのイレーヌにかかり切りで、母にも会えず、妹が優先され、結局母親を亡くしたという経験がある。

 だからパトリックにとって母親から引き離し、息子を放置するなんてもっての外。

 たとえそれが母親自身であるカロリーヌでも許されざる罪だと責めるのだ。


「すぐに屋敷に戻れ! 息子から離れる母親など人間としてありえない! 俺を失望させるな!」

「はい、すぐに…………」


 カロリーヌはただ暗い顔をして従うだけ。

 私とニコラさまへの挨拶もそこそこに、逃げるように城を去った。


「パトリック、あまり強く言いすぎるな。まぁ、世継ぎを蔑ろにするのは間違っているが。母たる者が笑顔でいないのも子に悪い」

「は、確かに。これは失礼いたしました」


 ここらへんはニコラさまも同じよね。

 と言ってもニコラさまの母君、皇太后さまは生きてる。

 ただ、弟を産んだ時にひどく苦しまれてニコラさまも相手にされなかった時期があった。


 下の弟妹を産んで母親が苦しんで自分が割を食ったというのは、二人の共通するところ。

 案外根深いところで似た者同士な気がする。


「それでなんの話をしていたんだい?」


 ニコラさまが座って聞いてくるので、私はカロリーヌが用意していた飲み物をお出ししてポイント稼ぎをする。


「ボルボー王国の殿下に興味があったみたいです」

「何故ボルボー? カロリーヌ自身に縁はないだろう? それとも実家に関わりが?」

「あ、陛下。たぶんボルボーを名乗る者が城に入ったことを気にしてるのでは? 私も今朝カロリーヌに言われましたと話したでしょう」


 疑問を覚えるニコラさまにパトリックが答えた。


「あぁ、あのボルボーの正当な後継である我が国にボルボーを名乗る王子が来るのは、自国への示威行為ではないかという、あれか」

「えぇ、そのために扱いは重くしないほうがいいと。今回の謁見でどちらが上かははっきりわかったことでしょうが、それを確かめたっかのでは?」

「ふふ、カロリーヌは気の利く妻だな」

「ニコラさま、私だってあなたを思って」

「わかっているよ、シヴィル。君のほうがもちろん上だ。私の理解者なのだから」


 もう、カロリーヌは余計な気回しをして私を出し抜かないでほしいわ。


「あの形式を陛下が望むように変えた謁見は、大変良かったですな。あれで王たる者の力を見せつけられたでしょう」

「普段はうるさい年ばかり取った者たちの嫉妬の視線が心地よかったな。玉座から離れて上がってこられないあの状況は、偉ぶった上流階級のおごりが招いたことだとわかればいいが」


 ニコラさまと義兄さんも今日のことはご満悦の様子。

 それはいいんだけど、カロリーヌより優れた私が印象に残らないのはいけない。

 もっといい案を出さないと、やっぱり姉のほうがなんて言われてしまうわ。


 私ならできる。

 だっていつでもカロリーヌより褒められ可愛がられたのは私だもの。

 私が勝っているのが当たり前で、カロリーヌ如きが考えついたことくらい私もできるわ。


「そうだ! ニコラさま、あのボルボーの殿下に上下のみならず、ニコラさまの下での国威を見せつけるのは如何でしょう?」

「ほう? 聞かせておくれ、賢いシヴィル」


 私の言葉に自尊心を刺激され、ニコラさまは上機嫌に耳を傾ける。

 私も考えを纏めながら、いい考えだと自分に頷いた。


「はい! 社交期ですし、お茶会や晩餐会、舞踏会をボルボーの殿下をねぎらうって理由で開いて、国の違い、王の格の違いをわからせるんです。そうすれば他の属国も二コラさまのご威光に浴すために首を垂れると思うんです」


 属国一つのために、国王自らが催しを開く。

 それだけで、あの田舎者丸出しのボルボーの王子は感謝感激することだろう。

 そして他の属国も同じだけの扱いを望み、競ってニコラさまに媚びるはずだ。

 さらにはニコラさまへの取次ぎを願って私にも贈り物を持って顔を繋ぎに来る。

 国内の貴族がすでにそう言う動きをしているのだから、そうならないはずがない。


「そうか。この時期に来たのもあの王子が我が国の社交界に顔を見せる目的もあるか」


 ニコラさまは呟きながら考える。


「ニコラさま、どんなことでも国王として、その婚約者として実績を作れば周りもうるさく言わないのではないですか?」


 ついでに公の場に私が出るチャンスよ。

 ニコラさまの婚約者は私だってきちんとアピールしないと。

 すり寄って来る貴族もいるけど、ニコラさまは国王になったって言うのに年寄りたちは文句を言ってくるし。


 舞踏会となればファーストダンスを踊って、二コラさまのパートナーとして社交界に出ることができるはず。


「いいな。悪くない、いや、いい考えだ。さすがは私が選んだ婚約者だ」


 前向きなニコラさまの言葉にパトリックも乗り気になる。


「どうせ北の国と争ってばかりいる野蛮な国の王子です。ヴァルシア王国の富と陛下の懐の深さを知れば礼を尽くすことを覚えるでしょう」


 そう言えば、謁見許したのに大した贈り物もなかったのだった。

 程度の低い属国だからそんなものだと思ったけど。


 パトリックの様子から何かもっと引き出せるものがボルボー王国にはあるのかしら?

 だとしたら私の遊び相手にしてあげてもいいわ。

 まぁ、あのださすぎる服装をどうにかするならだけど。


「それに偉ぶってる重鎮たちに立場をわからせることもできだろうな」

「なるほど、晩餐会なら席次は招いた主人の意向にしたがいますから」

「そこでの対応次第で茶会に招く者を選ぶ。そして舞踏会の格式を考えれば招かないなどということはできないが、自ずと立場がわかることだろう」

「自ずと、陛下の威光を目の当たりにするということですね。なるほど素晴らしい。シヴィルは本当に賢いな」


 パトリックがいい感じに私を褒める。

 ニコラさまも満足げに私を見つめた。


 もちろん私も楽しみだから笑顔で返す。

 晩餐会に、お茶会に、舞踏会!

 気合を入れたドレスを作らなきゃ!

 また大量の針子を押さえなくちゃね!


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