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シヴィル4

 王都に反乱軍が入り込んで、気づけば捕まってた。


 …………どうして、どうしてよ!?

 反乱軍を捕まえるんじゃないの!? なんで私と国王であるニコラさまが捕まらなきゃならないのよ!?


「こんなのおかしい!」

「はぁ、それでこちらの宝飾品についてですが」


 目の前の冴えない男爵が、私の疑問を無視して紙に書かれた装飾品の品名を指す。


 何よ、今までまともに顔も上げられなかったくせに!

 私が部屋で軟禁されることになった後になって、こうして高圧的になるなんて最低!

 気遣ってよ!

 反乱なんて危険に巻き込まれたんだから! この私を思いやらないとかおかしいじゃない!?


「歳費で購入した物の目録にはなく…………聞いていますか?」

「聞いてない! なんで私が責められなくちゃいけないの!? 反乱軍が悪いのよ! あっちを捕まえてよ! どうして私が悪いことしたみたいに毎日質問攻めにされるのよ!?」


 別館の一番上までニコラさまに引っ張られ、そこでイレーヌに追い詰められた。

 そして公爵夫人と子爵夫人が連れてきた兵に拘束され、この部屋に押し込まれてる。


 あの日以来ニコラさまに会ってないし、義兄さんを呼んでと言っても誰も応じない。

 反乱軍はちゃんと処分されたのかを聞いても誰も聞かないふりをする。


「はぁ、そちらはすでに武装解除の後投降しています。そして契機ではありましたが、あなたがこうして身の回りの物を処分しなければならなくなっているのはあなたの罪です」

「なんでよ!? 別にいらない物を売るのはいいけど、まだ着てないドレスを売る必要ないでしょ!?」


 私の訴えを馬鹿にするように、男爵はまた溜め息を吐き出した。


「王妃になる私にそんな態度を取って、ただで済むと思ってるの!?」

「あなたが王妃になれるわけがないでしょう。一時の夢を見れただけ、身に余る光栄と思ってください。あと、ドレスはいりませんよ。もう着ることはないんですから」

「それを決めるのは私よ! 私の物を勝手に処分できると思ってるの!? 勝手に売ってお金を手に入れたらそれは犯罪よ!」

「はぁ、いくらになることやら。そのままでは絶対に売れないほど奇抜で、誰も欲しがらないほど価値がないですからね。損害の補填に使える財産が他にないとはいえ…………」


 男爵は私の衣裳部屋の方向を眺めて、気のない様子で罵倒してくる。

 正面から貧乏を馬鹿にされて、私は屈辱のあまり震えた。


「素材に分解しても、使えない形の端材にしかならないなんて。元の布地を作った者も、レースを編んだ者も、こんなごみにされるとは思っていなかったでしょうね」

「い、いい加減にしなさい! もう頭に来た! あんたなんかニコラさまに言って貴族やめさせるんだから! 家族全員で路頭に迷いなさい! もちろん王都からも追放よ! いいえ、未来の王妃である私をここまで侮辱したんですからいっそ罪人として牢屋に蹴り込んでやるわ!」


 腕を組んで胸を逸らし、見下す。

 なのにこいつ、私を全く見ない!?


「罪人にするって言ってんのよ!? 王城からじゃなくて王都からも追い出すって言ってるのよ!? その過酷さが想像もできないの!? 今すぐ床に額を擦りつけて謝りなさいよ!」


 冴えない男爵がいきなり手元の紙から顔を上げた。

 そして理解できないような馬鹿を見る顔で私を見る。


「本当に今の状況がわかっていないのですか? 馬鹿な現実逃避ではなく? は、はは…………ふざけるな!」


 半端な顔で笑った男爵が、気が触れたように表情を変えて机を拳で打った。

 突然の暴力に私だけでなく、部屋に控えてた侍女も身を硬くする。


「国を傾けた自覚もなく何が王妃か!? 反乱を招き、北の敵国からの侵攻の隙を与えて、これだけ無駄な国庫を費やしておいて!? 何もわからぬ馬鹿なら黙って質問に答えてこれ以上の無駄を省く手伝いくらいしてもいいでしょう!?」

「な…………なんてことを!? 私に口答えだけじゃなく怒鳴るって何!?」


 許せない!

 しかも私を馬鹿って言った!

 私は先見に優れ、無駄なことはしない才媛なのよ!?


「勝手に暴れた知らない奴なのになんで私のせいなの!? 北の国なんて宣戦布告できないなら戦争なんてできないでしょ! 隙を与えたのは私じゃなくて、反乱を起こした愚民と使えない兵のせいじゃない! 私のためのお金を私が使って何が悪いの!」


 何が国を傾けたよ!

 反乱軍がやってくるまで普通の生活だったじゃない。

 それなのに私のせいですって?

 それを言うならニコラさまの対処を邪魔した臣下のせいであって、私は関係ないじゃない!


 そんなに偉そうなこと言える立場じゃないことわからせてやるわ!


「まったく馬鹿言わないで! 不愉快よ! この無礼者をすぐにつまみ出して!」


 ここは淑女の部屋であり、国王の婚約者である私の部屋よ。

 その主人から出て行けと言われて居座るなら、貴族としてありえないくらい無礼で、反逆にも等しい犯罪的な行為になる。

 これで今までもうるさい貴族を追い出してきたのよ。


 …………なのに、どうして誰も動かないの?


「何してるの!? 私の命令が聞けないの!?」

「聞けるわけがないでしょう」


 勝手に来ておいて、男爵が当たり前のように答えた。


「貴人扱いで室内での自由は認めていますが、もはやあなたにはなんの権限もない。いえ、元から何もないただの木っ端貴族の娘ではないですか」

「な、な!?」


 本当になんでこいつはこんなに無礼になってるの!?

 部屋にいる侍女も、見張りも聞こえてるのにどうしてこんな侮辱を聞き流してるの!?


「おや、何かありましたか? 婚約式もしていないのに、陛下がお許しになっていたから婚約者として扱う者もいましたが。そんな実体のないものに阿るのは同じ木っ端だけだったはずですが?」

「わ、私はこの部屋を与えられて認められているの!」

「えぇ、それも陛下のご命令です。ですが、実際にあなたの身分は生家のものでしかありません。そしてあなたが使った歳費は聖女のものです」

「そ、そうよ! 私は聖女なのよ!? その私になんてことをいうの!」

「あなたのような聖女がいてたまりますか」


 吐き捨てる男爵は、もう下を向かない。

 まるで今まで下を向いていたのは、その目に浮かぶ侮蔑を悟られないためだったかのように。


「聖女とはこのヴァルシア王国の護国の象徴、信仰の対象。それ故に尊き使命を受け入れ励む方に国が一助を成すために歳費を組むのです」

「私は聖女よ! ニコラさまがそう決めたのだから当たり前じゃない! 区長だって従ったわ! それを否定するなんて私だけじゃなく、国自体を敵に回すつもり!? その不敬の代償は重いわよ!?」


 こうして権威を振りかざせば、誰だって従った。

 木っ端と言われた我が家だって、それに押さえつけられてたし、こいつもそうだったのに。

 なのになんで今は私を不躾に睨むの!? おかしいでしょ!


「あなたに国を語る資格はありません。そして国を敵に回したのは、もはやあなた方だ」

「何を言っているの。陛下は私を…………!」

「その陛下はすでに弟君に譲位なさる準備に入っています」


 一瞬、男爵が何を言ったのか理解できなかった。


「区長も司教によりすでに解任の手続きが行われていますよ。それで? あなたはいったい聖女として何をしたんです? 結界が揺らぎ、魔物が増え、民心が乱れる中何を?」

「そんな…………嘘よ!? ニコラさまが国王なのよ!? なんであんなできそこないの王子に!? こんなの反逆じゃない!」

「次なる王を反逆者呼ばわりとは、それこそ不敬で罰も当然の発言ですね。ですが、あなたはもう終わりだ。今さら何を言ってもうるさい風の音と変わらない」


 男爵は興味なさげに言うと、また紙を指す。

 そこには装飾品の特徴の書かれた一覧があった。


「私もこんな馬鹿な仕事さっさと終わらせたいんですよ。この出どころ不明の宝飾品をどうしたのか答えてください。言ったとおりあなたの罪は今さら一つ二つ増えても変わらない。何処の令嬢を恫喝して奪ったでも、不貞を働いた貴公子から盗んだでも構いませんので答えてください」

「そんなことするわけないでしょ!? 令嬢は私の尊さに平伏して差し出したし、貴公子は美貌と才知に貢いできたのよ。私が罪に問われる謂れはないわ!」

「どうでもいいですから、相手の名前を。それが罪かどうかを決めるのは財務を預かる私ではないので」


 何を言っても男爵は蔑んだ目で私を見下す。


 どうして最高の地位に就いた私が怒りと屈辱に震えなければならないの?

 こんなのはずじゃない!

 こんなはずじゃなかったのに、どうしてここまで予定が狂ったって言うの!?

 何が予定外だったのよ!

 ラシェルを追い出して聖女になって、ニコラさまの婚約者に成り上がった私の計画は完璧だったはず!


「…………ラシェルよ、そうよ! ラシェルのせいよ!」

「はぁ?」

「あの子が行方くらませるからいけないのよ! いたら使ってやったのに! そうしたらもっと早く結界だってどうにでもできたはずでしょ! 反乱軍も敵国もラシェル送り込んで結界使わせればそれで良かったのに! 私にだけ罪をかぶせるあの子が悪いのよ!」


 今までだってラシェルに面倒を押しつけたらそれで解決したのに、今回に限っていないのが悪いんだわ。

 そうよ、ニコラさまだってラシェルを疎んじていたのだから、国王を不快にさせるあの子が全ての元凶よ。


 私が答えを見出して笑みを浮かべると、男爵は醜いものでも見るように顔を歪めたいた。


「もういい! それ以上! 卑しい言葉を吐くな!」


 男爵はまた机を殴ると立ち上がった。


「今日はやめだ! いや、私はこの愚かな女とこれ以上言葉を交わしたくもない! 禊をとおっしゃってくださった公爵さまには申し訳ないが別の者を派遣してもらう!」


 訳の分からないことを叫びながら、男爵は勝手に広げていた紙を纏めて扉へ向かう。

 室内の使用人たちが、怒鳴られる私を見ないどころか男爵に同情の目を向けているのはなんでなのよ?


 訳がわからない!


「なんなのよ! 私が愚かですって!? 馬鹿なことを言わないで! 未来の王妃を侮辱して、ただで済むと思ってるの!?」

「うるさい! 愚か者!」


 男爵が怒鳴り返す間に、決して私には開かない扉を使用人が開く。

 その瞬間、外から力任せに扉が蹴り飛ばされた。


 近くにいた男爵が扉に肩がぶつかり無様に床に転がる。

 その姿に少しだけ溜飲が下がった気がした。


「シヴィル! 無事か!?」


 開いた扉の向こうにはパトリックが私を心配しており、横にはいつもどおり微笑むカロリーヌが立っている。

 カロリーヌに手を差し出され、私は何を考える必要もなくすぐさま駆け寄ったのだった。


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