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ホワイトハウスへ

 華子が政界進出するという話は、直ぐに日本中に広まった。国民の間でも賛否両論はあったが、期待の声の方が圧倒的に多く、彼女は手応えを感じ取っていた。


 そんな四月のある日、アメリカ合衆国のハリス大統領から、華子の元に招待状が届いたのである。国家元首から、直接、皇女が招へいを受けることは異例の事だった。


 華子は、ハーバード在学中にハリス大統領(当時は国務長官)と会って話をした事があったが、今回の招へいの意図は華子にも分からなかった。ともかく、結婚を五月に控えた華子にとって、これが最後の、皇女としての外交となるのである。



 四月十日、羽田からワシントンへの直行便に乗り込んだのは、華子と京吾、護衛官の松下隊長、令子、竹田、梅川の六人だった。所要時間は十三時間と長旅である。


 京吾達はワシントンでの警護体制を確認し、華子と令子は政党立ち上げのスケジュールなどを検討してから仮眠をとった。


 目覚めて暫くすると、ベルト着用のアナウンスが流れ、飛行機は下降を始めた。


 ワシントン.ダレス空港に到着した華子たちは、米政府高官の出迎えを受けた。そして、SPの厳重な警護を受けながら、黒塗りの高級車六台を連ねてホワイトハウスを目指したのである。



 ホワイトハウスに到着すると、華子と京吾だけが大統領執務室に通された。


「華子様、お久しぶりです。この度はご婚約おめでとうございます。

 君が彼女のハートを射止めた幸せ者ですね。おめでとう、よく来てくれたね」


 大柄の大統領は、満面の笑顔で握手をして、二人を豪華なソファーに座らせた。他に人は見当たらず、三人だけの会談となった。


「留学中は大変お世話になりました。また、大統領御就任おめでとうございます」


 華子が丁重に頭を下げると、大統領は笑顔で頷いた。


「それで、今回招へいして頂いたのは、どういった御用件なのでしょうか?」


 華子は、忙しい大統領に配慮して、早めに話を切り出した。


「先日、あなた方の婚約会見で政党を立ち上げ、日虎政権を倒すというニュースを聞きました。友好国の一員として、貴女の目指すところを聞いておきたかったのです」


 大統領の涼し気なブルーの瞳が、二人を包む。


「閣下は、日本の日虎総理をどう見ていらっしゃいますか?」


 華子の良く通る声が、執務室の高い天井に響いた。


「日虎総理とは国務長官の時に一度会った事がありますが、第一印象は、傲慢、野望という言葉が浮かびました。直観的に彼は危険だと感じましたね」


「彼の口癖は、日米安保を破棄して、自前の軍隊で国を護ろうということです。米軍の撤退については将来的に私も賛成ですが、彼は、軍備を増強しようとしています。

 当然、核武装する事は間違いないと思いますし、徴兵制度も導入するでしょう。その先には、軍国主義への道も見えて来ます。

 日本がそうなれば、今の北朝鮮の比ではなく、世界の大きな脅威となるでしょう。それは、日本にとって自滅への道でもあると思っています。今、彼を止めなければ、日本はとんでもない方向に暴走してしまいます。それを止めたいのです!」


 華子の言葉に力が入り、表情には必死さが浮かんだ。


「貴女に、それが出来ますか?」


「分かりませんが、誰かがやらねばなりません。国民の皆さまに真心から訴えれば、必ず分かってくれると信じています」


「恐らく、貴女は命を狙われるでしょう。それでもやれますか!?」


 大統領が真剣な顔で、もう一度念を押した。


「国民を救う為なら、命も投げだしましょう。私には心強い守護神も付いていますから」


 華子が、京吾を見て言った。


「分かりました。今回お会いしたのは、華子様の覚悟を聞いておきたかったからです。国家としては動き辛いですが、個人的に応援させて頂きます。きょうは会えて良かった。ご健闘を祈ります。

 近くに博物館や美術館もありますので楽しんでいってください」


 ハリス大統領は、晴れやかな笑顔で二人と握手すると、次の公務へと姿を消していった。



 華子達は、再び黒の高級車に乗って、航空宇宙博物館やワシントン・ナショナル・ギャラリーなどを見学して、宿泊予定のホテルへと向かった。


 華子が、久しぶりのワシントンの街並みを、車の窓から楽しんでいたその時だった。突然、彼女達の車列の前に、数台の黒塗のSUVが強引に割り込み、急停車させられたのだ。


 次の瞬間、覆面をして、手に機関銃を持った大柄の男たちが、車から降りて来たかと思うと、華子たちの車列に向かって一斉に銃弾の雨を降らせたではないか。


 火を吹く機関銃、耳を劈く連射音が、静かだった街の空気を一変させ、事件に遭遇した一般のドライバーたちは、車を捨て、慌てふためいて逃げ散っていった。


 松下隊長たちや、アメリカのSPが車を盾にしながら銃で応戦するが、敵の執拗な攻撃に、華子たちは身動き出来ない状態が続いた。


「ピシッ!!」


 防弾仕様の華子の車も、終にフロントガラスにヒビが入り、破砕寸前である。


「奴らに突っ込め!!」


 京吾が、華子の身体に覆いかぶさりながら運転手に大声で指示すると、急発進した車は、機関銃を乱射する男達を蹴散らし、猛スピードでその場から離れていった。


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