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最後の縁談①

 それから、数日が経った二月の寒い朝、華子と令子が皇居内の事務所でコーヒーを飲みながら話していた。


「今度は大丈夫だと思っていましたのに、あんな事になって悔しいですわ……。私に人を見る目が無かったという事ですね」


「まったく、世の中には悪い人間が多すぎます。警察に突き出してやればよろしかったのに」


 令子が、憤りながら言う。


「公になれば私の恥にもなると、京吾さんが判断したようです」


 そう話す華子に、落ち込んでいる様子は無かった。


「華子様は、お強いですね」


「こんな事で落ち込んでいては、大事を成すことは出来ませんから、必死なだけですわ」


 その時、ドアが開いて京吾が入って来た。


「華子様、おはようございます。令子姉さん、話って何です?」

  

 令子は、京吾を手招きして華子の前に座らせ、暖かいコーヒーを入れて彼の前に置いた。


「京吾、あなたもお婿さん候補の一人だから、お二人で話してみたら? 私は席を外しますから」


 令子が席を立とうとするのを、「令子さんも居て下さい」


 と、華子が止めた。



 令子が座り直すと、華子は身上書を手に取り、面映ゆそうにしている京吾に質問を始めた。


「お父様とは、何故絶縁状態なのですか?」


 京吾は、何処か遠くを見つめるような眼をしてから話し出した。


「私は一人っ子で、一条家はホテル経営を手広くやっています。父は私を跡継ぎにと考えていましたが、私はホテル経営など性に合わないと、高校を卒業と同時に家を飛び出してしまったのです。

 中国やアメリカなどで格闘技を修得して、ニューヨークでボディガードの仕事をしていたところを、松下隊長に引き抜かれ皇宮護衛官になりました。母には時々近況を知らせていますが、家には十年余り帰っていません」


「ご両親に会いたくありませんの?」


「勝手に家を飛び出した手前、家の敷居が高くて帰れませんよ。……しかし、もう十年ですからね。何時までもこのままと言う訳にもいきませんから、近い内に両親に会って、けじめをつけたいと思っています」


 京吾は、緊張の為か喉の渇きを覚え、コーヒーカップを口に運びグビリと飲んだ。


「今度はこちらから質問させてください。過去に恋人は居ましたか? 私は、格闘の修行の事ばかり考えていましたので、恋はしても付き合った事はありませんでした」


「皇女と言う立場上、私も深い付き合いをした方は居りませんわ」


「私との偽装結婚について考えてみましたか? 結論が出たなら聞かせて下さい」


 矢継ぎ早の京吾の問いに、華子は少し考えるような素振りをしてから口を開いた。


「今回、六人の方とお見合いをして分かった事は……、私の為に命を捨てようなんて人は、いないってことね。でも貴方は、仕事とはいえ私の為に命を捨てる覚悟があります。

 ですから、貴方の偽装結婚の話をお受けしたいと思います。今日から結婚を前提に、お付き合いをしましょう」


「えっ、私と……偽装結婚を!?」


 唐突な申し出に、京吾は目をぱちくりさせた。軽い気持ちで言った事が、まさか現実になるとは思ってもいなかったからだ。


「そうです!」


 華子の澄んだ瞳が、狼狽える京吾に無言の圧をかけてくる。


「その……偽装結婚なら、付き合う必要は無いのでは?」


 京吾がボソボソと言う。


「赤の他人が、毎日一緒に過ごすのですよ。皇女と護衛官のままでは、夫婦は演じられないのではないですか? 例え愛がなくても、それなりの努力はしておくべきだわ」


「なるほど……」


(いや、そうじゃないだろう。……どうしてこんな話になるんだ!)

 

 そんな京吾を他所に、華子の話は、どんどん前へ進む。


「結婚会見は一月後としましょう。その間にお互いの両親に挨拶したいと思います。令子さんどう思われますか?」


「あなた方さえ良ければ、それで進めさせていただきます」


(まいったな。自分で言いだした手前、今更断る訳にもいかない。うーん、腹を決めるしかないのか……)

 

「何か問題でもあるのですか?」


 俯く京吾に、華子が顔をグッと寄せて来た。


「あ、いえ、はい、何もありません」


 そんなこんなで、華子の結婚は偽装という形ではあったが、一気に現実のものとなった。




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