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結婚適齢期

 この国では、十五から二十歳の間くらいで結婚するものだ。つまり、今俺は結婚適齢期に差し掛かってると言える。言えるけど…。


 前世の年齢を合わせると四十歳手前。子どもとして、母に甘えた年数は五年ほど。俺の中でおじさんと子どもの気持ちがあって、結婚を考える歳だ、っていう自覚が余りない。

 母も永い眠りから目覚めたばかり。体調に影響はないみたいだけど、もう少し状況が落ち着いてから考えたい。


 いつ、誰と、という問題を…。




 屋敷に、王様の遠縁であるミニムが遊びに来た。


「やあ」


「よう」


 リビングで二人、呑気に茶を啜る。


「今日はね、お見合いの話を持って来たんだよ」


「…誰の?」


「もちろん君のさ」


 そういえば、俺勇者だった。思い出したくなかったけど。


「断っておいてくれ」


「そう言うと思ったけど。会うだけでもどうかな」


「いい」


 後が怖い。…それに、俺が結婚するとしたら、俺を好いてくれている身近な女の子の誰かだ。


「分かったよ。君にも事情があるしね。じゃあ、この話はこれでおしまいにしよう」


「助かる」


 その後は情報交換や雑談を適当にして、その日はそれで終わりだったんだけど。お見合いに話があったことは、誰かが聞いていたのかも知れない。

 いや、フランネルは間違いなく聞いていたし、それとなくみんなに話したんだろうな…。




 また別の日。最近みんなが妙にそわそわしているな、と思っていたら。


「リーク、ちょっといいかしら」


「いいけど」


 ローズに、お茶に誘われた。珍しく、いや初めて、ローズの自室でお茶を飲んでいる。


 ローズの自室に入るのも、多分初めて。小さな置物や絵が飾られているだけなのに、雰囲気が引き締まっている部屋だった。


「余り見られると恥ずかしいわ」


「ごめん」


「いえ、リークが見たいというのなら、いいのだけど」


 その言い回しは、ドキッとする。


 気まずいわけじゃないけど。何となく言葉が出てこない。二人きりの時間って、いつ以来かな。


「あのね」


「うん」


「久しぶりに会ったとき。リークの冒険者仲間って、全部女の子だったじゃない?」


「そう、だね」


「綺麗な人ばかりだったし」


 …そう言えなくもない。キキョウはエキゾチックな魅力がある。イベリスは人形のような整った顔をしているし、背が高くてスタイルがいい。アザリーは…笑った顔は愛嬌があるんじゃないかな。


「ちょっとだけ、お母様のことなんて忘れて、女の子に囲まれて楽しく暮らしているのかなって思ったけど。みんな強くて、一緒にいる理由がある人達だった」


「うん」


「私は、自由にリークに使わせてあげられるお金をたくさん手に入れたけど。一緒に戦ってあげることは出来ない。お母様を助けるために一生懸命なリークに、『いらない』って言われるかもしれないって考えると、怖かった」


「それは…」


 俺に資金が十分にあったら。その代わりに、圧倒的な力があったら。ローズの再会の前に、『冬の王』に挑んでいたかも知れない。彼女がヴェスタリア領の形を大きく変えたのは…多分俺のためだ。そこまでして、拒絶されたら。怖い、だろう。


「私はリークにとって特別な女の子だと思ってたけど、そうじゃなかったのかも知れない。不安を隠すために虚勢を張って…リークと素直にお話するのが遅くなっちゃった」


 ローズが不安に思っているなんて、考えたこともなかった。でも、考えるべきだった。


 何か、彼女に言葉をかけてあげたい。


「えっと」


「いいの。リークは必死で、無邪気に結ばれることを考えているだけの女の子に気を回す余裕なんてなかった。そのことは、分かっていたから。でも、これからはちょっと違うでしょ?」


「…うん」


「なら、いっぱいお話しましょ。昔みたいに」


 ローズは微笑んだ。昔みたいな可愛い笑顔だった。




 その何日か後。


「ちょっとよいか?」


「キキョウ、どうしたの」


 その日の探索が終わり、解散した後。水を飲みに台所へ来た時に、キキョウに呼び止められた。


「…」


「え、なに」


 むんずと腕を掴まれ、そのままキキョウの部屋に連れられた。


 ベッドに並んで座らされ、キキョウの足に俺の頭を載せられる。膝枕だ。冒険者になりたての頃はよくしてもらっていたけど、次第にやらなくなっていた。久しぶりだ。


 キキョウは黙って俺の髪を撫で始めたので、俺もされるがままに目を閉じた。


 しばらく、静かな時間を過ごした。


「リーク」


「うん」


「我は、お前の武の師で、姉のつもりだ」


「うん」


「だが…女と男として、生涯を分かち合いたいとも思っている」


「うん…」


「考えておいてくれ」


「分かった」


 俺が返事をすると、部屋から放り出された。キキョウの照れた顔は、彼女の想いに応えないと見れないのだろう。




 探索が休みだった日の夜。


「酔ってますかぁ?」


「ノック。あと色々酷い」


 ボロボロに酔っぱらったアザリーが俺の部屋になだれ込んできた。


「立って、ほら。寝っ転がっていいから、ベッドで」


「ベッドに連れ込むなんて、リークさんのえっち。きゃ~~」


 酒臭い。もう適当に水を浴びせて放っておこうか、この酔っ払い。


 アザリーに肩を貸してベッドで寝かせた後、水を持ってきて飲ませる。様子は変わらず、俺のベッドの上でグニャグニャしていた。


 俺はもう放っておくことにした。


「リークさぁん」


「なに」


 武具の手入れをしながら、適当に返事をする。


「リークさんって、キキョウさんか、ローズさんと結婚するんですか?」


「…多分」


 俺の中で答えは出てないから、自信をもって答えられない。


「そっかぁ」


 アザリーは、どこか寂しそうだった。


「…」


「結婚しても、私を甘やかして下さいね」


「こら」


「あははは」


 シーツです巻きにして、アザリーの部屋まで担いで運んだ。まったく…。




 別の休みの日。イベリスと、魔導具のメンテナンスをしていた。


「我が同胞よ。これは」


「ちょっと効果が落ちている」


「材質が劣化しておる。やはり、瞬間的なパフォーマンスで素材を選ぶと、寿命は短い」


「分かった。寿命の比較は改めてするとして…。交換用の部品のストックは?」


「まだ魔導具の数分はある。交換しておく」


「ありがとう」


 黙々と作業をしていると、あっという間に時間が過ぎる。


「これで全部?」


「そうだの」


「お疲れ様」


「我が同胞も、お疲れ様だ」


「うん」


 話は終わったけど、イベリスは何かを言いたそうだった。イベリスは言葉を慎重に選ぶ時があるから、俺はいつものように待つことにした。


「我が同胞よ」


「うん」


「我輩は、お主とこうして魔導具を弄る時間や、魔導について語り合う時間が好きだ」


「俺も好きだよ」


「そうであるか…。今後、何かが変わっても、このように過ごす時間は無くしたくない」


「…分かった」


「なら良し」


 イベリスはカラカラと笑った。俺は未だに彼女の背丈に追いつかない。だから、彼女が上を向くと、表情が良く見えない。でも、照れ隠しに笑ったことは分かった。

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