冬を終わらせに来た
毛皮のコートを着込んでも凍えてしまう吹雪は、俺とイベリスの開発した魔導具で解決した。温風を竜巻上に吐き出し、効果範囲内の気候を一定に保つ。試作品の作成だけでも物凄いお金がかかった。正確な金額は怖くて把握していないけど、大金貨10枚はかかっている。
他にも戦闘用、医療用、魔導具補充用の魔力タンクなど、諸々開発費を湯水のように使った魔導具をありったけ持ち込んでいる。
メンバーは、俺、キキョウ、イベリス、アザリー。ローズとフランネルはコダストの屋敷で待ってくれている。
俺は今日、冬を終わらせに来た!
吹雪の中には、この気候に適応した魔物がいた。シロクマのような見た目の冷気を纏う魔物や、雪のまりものような魔物、岩肌の蛇のような魔物もいた。どれも、新装備の敵ではなかった。
特に凶悪なのが、『魔力吸い』。その名の通り、魔力を吸い取る針状の魔導具で、突き刺した相手の魔力を利用して、内から外への魔力の流れを作る。大抵の魔物は、それだけで行動不能になる。
技師を雇って特注したボーガンにセットし、中距離で狙い撃つ。吹雪の中では使えないけど、気候を保つ魔道具の範囲内では有効だ。量産は出来なかったけど、消耗を避けるために、惜しみなく使う。
意外にも、これを一番気に入ったのはキキョウだった。
「うむ、楽だ」
「楽しそうだね」
「これなら先を取る必要もないからな」
「我輩は好かない」
確かに、魔導士殺しとも言える。
「でも、対策は出来ますね」
「ああ。避けるか、叩き落とせばいい」
「実力のある魔導士なら、魔力の制御で無効化出来るしね」
「むぅ、そういうことではない。なんというか…ロマンがない」
発想の元は、主人公に効かなかった武器だしね。
「逆に。これを使ってくる相手を魔導で蹴散らせばいいんじゃない?」
「なるほど…」
敵地だけど、冒険者稼業の探索より楽だった。
だけど、気を引き締め直さなければ。
「そろそろ中心部だ」
事前の測量の結果、『冬の王』の結界はほぼ円形だった。俺達が向かっているのは、その中心点。そこに冬の王がいなければ、地道な探索が待っている。
けど、その心配はいらないみたいだ。
「風が止んだな」
そこは、シンシンと雪が降る、静かで冷たい場所だった。俺達の周りはポカポカ温かいんだけど。
一人の青白い男が、俺達を待っていた。瞳の大きい、背の高い男だ。隣には、氷の柱に封じられた母の姿。
「母さん!」
「待て、リーク」
グッとキキョウが俺を押し留める。そうだ、敵の目の前なのだ。
「無粋なものどもめ。100年は続くであろう蜜月に水を差すとは」
「今日で終わりだ、そんなもの」
「ふぅむ、察するに、我が后の子であるか。もういい年であろう、いい加減母離れしたらどうだ」
「殺す」
五歳の子どもから母親を引き離しておいて、何が母離れだ。
「まあ待て、我が同胞。そのための準備はしてきたのだから。それに、相手はお喋りだ。聞いておきたいことがある」
「くはは。真の王を前にして豪胆。朕の気分が良くなる問なら、答えてやらないこともないぞ?」
「なら。お主は魔物か?」
「…ふん、無礼者め。死ぬがよい」
冬の王が腕を振り上げると、空中に無数のつららが現れた。腕を振り下ろすと同時に、俺達に襲い掛かってくる。
俺とキキョウは、弾き落とすために前に出る。けど、それと同時に。
「対『冬の王』結界 最高強度」
イベリスが魔道具の出力を最大にする。俺達が何をする必要もなく、つららは溶けて消えた。
「小癪な、ならば」
「即時斉射」
冬の王が体に魔力を纏い、何かをしようとするが、それを待つことはない。俺の合図で、全員が『魔力吸い』をボーガンで撃ち出す。4本の魔道具が冬の王に突き刺さる。
「ぐっ」
「次弾斉射」
冬の王から血は流れなかった。ただの人間ならこれだけで死にそうだけど、流石に終わらなかった。
合計8本の針が冬の王に突き刺さる。魔力がだらりと冬の王から溢れる。魔力の底が見えないな。
「この無礼者ども!」
「次弾斉射」
12本。ボーガンに自動装填機構を取り付けたため、斉射はスムーズだ。
「かっ」
冬の王は、白目を向いてぶっ倒れた。まだ魔力は漏れ出しているけど…急激な魔力減少による気絶か?
警戒を解かず、冬の王の周りを囲む。魔力の動きから、まだ生きていることは分かった。
慎重に手足を拘束し、針を抜いた。
「キキョウ」
「うむ」
キキョウが新しい魔導具を取り出す。柄が膨らんだ短剣の形状になっている。機能としては、体内の魔力の流れを乱すもので、仕組みが複雑で小型化出来なかった。
冬の王の肩に背側から突き刺す。
ドスッ。
「ぎえっ」
冬の王が目を覚ました。
「よう」
目を白黒させている冬の王に声をかけた。
「なんなんだ…。おえ、気持ち悪い」
喋り方が崩れているぞ。
ピシャン。
キキョウが冬の王の頬を打った。剣を首に突きつけながら。
「痛いっ」
「言うことを聞かねば、もっと痛くするぞ」
「はぁ?」
ピシャン。
「ひたい…」
「とろい奴だ」
ピシャン。
「や、やめて」
「貴様が素直になったらな」
ピシャン。
「ひぃっ」
ピシャン。
「ひっ」
ピシャン。
「ご、ごべんなさい」
「…話を聞く気になったようだな」
冬の王はうなだれた。こいつが現状に気付くまで、少し待つことにした。
首に突きつけられた剣、手足の拘束、そして魔導封じのナイフ。それとも、キキョウのビンタか。どれかが効いたのか、冬の王は従順な態度を取り始めた。
「貴様は何者だ」
「冬の王…」
ピシャリ。
「エルベルヒっ。え、エルフと精霊のハーフの魔導士です」
「…何故精霊の森を閉ざした」
「えっと…」
ピシャリ。
「いや、やめてっ」
「話せ」
「ひ、ひとめぼれ、人妻に一目惚れしたからです!」
「それは、リナリア殿のことか?」
「…誰?」
ピシャリ。
「いや誰、本当に!」
「貴様…自分が后呼ばわりしている人の名前も知らんのか」
「あ、リナリアって言うの」
ゴッ。
母を呼び捨てにされて、思わず拳が出た。
「さん、もしくは様を付けろ。いや、名前で呼ぶな」
「ごべんなさい」
「リーク」
「あ、ごめん」
「いや。続けるぞ」
気を取り直して。
「結界は解けるのか?」
「結界? あ、これ。解けます、解けます!」
「なら解け」
「今すぐには…」
ピシャリ。
「本当にっ。使役している精霊を解き放たないと!」
「まあいい。先に聞くべきことを聞いておこう。リナリア殿は…生きているのか?」
心臓が痛い。
「も、もちろんっ」
「なら、今すぐ解放しろ」
「それも…」
ピシャリ。
「結界とおなじでず…」
それにしても、これだけ叩かれてもエルベルヒの頬は腫れていない。変なところで人間離れしている。
「なら、精霊を解放しろ。このままでも出来るな?」
「これほどいてくれたら」
ピシャリ。
「…できます」
「よし」
事前に考えていたパターンの中で、最良の結果だ。母の蘇生方法まで考えていたけど、無駄になって良かった。
エルベルヒを引きづり、精霊を封じ込めているというところまで行った。
巨大な氷の結晶が4つ。奇妙な文字の書かれた円の中に均等に配置されていた。
「け、契約満了を宣言する」
バリン。
結晶が全て割れ、中から青白い人魂のようなものが弾き出される。そのまま俺達に向かってきたので、エルベルヒを適当に放った。
四柱の精霊はエルベルヒに纏わりつき、冷気を浴びせる。
「ひ、いや、助けて」
「母さんを助けるのに必要なら、また使ってやる。それまで死ぬなよ」
まだ精霊の森は氷雪に覆われているけど、吹雪は止んでいる。冬は終わった。
母も、目を覚ましただろうか。
…そういえば、結局『魔人殺し』は使わなかった。




