アル中ドワーフ
『魔人殺し』を持ち帰った翌日。ミニムに案内されて、ドワーフの鍛冶師に会いに行くことになった。
「当代随一の鍛冶師と言われるドワーフに『魔人殺し』を鍛え直して貰う訳なんだけど、お酒を持っていく必要がある」
「なるほど」
酒の入った小樽を持たされたのはそういう訳か。
ドワーフといえばお酒。そして、頑固で気の良い職人なんだな、やっぱり。
「いや、それもあるけど。彼は酒を飲んでないと手が震えるんだ」
アル中じゃん。大丈夫かそれ。
洞窟、ではなく王都郊外の家兼鍛冶場に着いた。飾り気のない家だ。
「約束の、金の冒険者リーク、共にミニム=ヘルトが来たぞ!」
ミニムが声を張り上げる。返事はない。
「さて、行こうか」
ミニムが扉に手をかけた。
「いいのか? 勝手に入って」
「問題ないよ、いつもこうだから」
俺達は、家の中に堂々入っていった。
鍛冶場を素通りして、職人の家の方に入っていく。鍛冶場は片付いていたけど、家の中は散らかり放題だ。あと、人気がない。
不安になりながら、ミニムの後について行くと、寝室らしき部屋の前まで来てしまった。ミニムはノックをするが、返事はない。
「留守なんじゃないのか?」
「いいや」
扉を開けると、また散らかり放題の部屋だ。部屋の奥のベッドの上に、こんもり丸まった毛布の塊があった。
「仕事だよ、モーリス」
「働きたくない…」
しゃがれた、情けない声だ。
「そうはいかない。内密だけど、王の命だ」
「いいよ、弟子にでもやらせとけよ」
「君にしか頼めないことなんだよ。奥さんに逃げられよとも、酒に溺れようとも、それでも職人としては君は王国一だ」
「王国一がなんだよ…女房に逃げられた王国一なんて恥ずかしいだけじゃねえか…」
「それも考えてある。今回の仕事が上手くいったら、王妃様が間を取り持ってくれるそうだ」
「…本当か?」
「本当だとも。さあ、ベッドから出て。ほら、君の好きなエールだ。エギナの混ざってない、体に悪い奴だよ」
「おう、おう…」
不安だ。
ドワーフのモーリスは、俺の持ってきた小樽の中身を飲み干すと、デンと鍛冶場で構えた。
「それで、お前が金の冒険者のリークか?」
気難しい、実力のある職人だ、と思っただろう。さっきの醜態を見ていなければ。
「そうだ」
「まだガキじゃねえか」
「モーリス。言葉に気を付けたほうがいい。彼の妻になりたがっている女性は、僕の知っているだけでも4人いる」
「…やるじゃねえか」
止めてくれ。心が痛い。
「まあいいさ。仕事はきっちりやる。この剣を鍛え直せばいいんだな?」
抜き身の『魔人殺し』。刃は欠けているけど、刀身は丸々残っていた。
「そう。ただ直せばいいわけじゃない。伝承をなぞるんだ」
伝承では、エルフが呪いを込め、精霊が祝福したそうだけど。
「そこでボクの出番です」
ヌッとフランネルが現れた。
「いつからいたの?」
「最初からおりましたが」
ミニムに顔を向けると、彼は黙って首を振った。
確かにフランネルは精霊と人のハーフだ。祝福だって出来るかも知れない。一応、役者は揃ったのか。
刀身には、魔力の残滓が残っている。これが呪いだろう。
「では、伝説の再現といこうか」
こうして、『魔人殺し』は復活した。後はこれで、『冬の王』を斬るだけだ。




