お貴族様との決闘
この国にも一応、決闘という文化が存在する。どれくらい流行っているのか俺は知らない。あることすら、今知ったくらいだ。
あと、貴族ってのが実在することも今知った。ざっくりいうと王族の親戚で、年金で暮らしている連中らしい。
「ミニム=ヘルトが問う。汝、リークはローズ=パワーに求婚する権利をかけ、我と争うに値するものや否や?」
今日、ローズから紹介される予定だったヘルト卿が、何故か王都の冒険者ギルドに先回りしていて、『ローズに求婚する権利』をかけて決闘を仕掛けてきた。『クラッシャー』と、王都の冒険者、それと通りがかった市民の前で。
え…断りたい。これ以上、変な噂の種を増やしたくない。
穏便にお引き取り願うためにどうすればいいか考えていると、ミニムはキザったらしくヤレヤレのポーズになった。
「まさか、怖気づいたのか? 金の位に至った冒険者ともあろうものが情けない。所詮はただの無頼漢か。いいさ、僕の期待外れだったということだ。黙って、そこで僕のプロポーズを見ていればいい」
ちょっとムッとした…けど。俺はローズを待たせ続けているし、その先で必ず気持ちに応えると約束をしているわけではない。ローズの気持ち次第の問題を、俺が横やりを入れていいのか、そもそも横やりを入れてもそれは打算じゃないのか…。
そんなことを考えているうちに、俺の後ろからスラリと剣を抜く音が聞こえた。キキョウだ。
「待て、その決闘受ける!」
何、なんで剣抜いたの!?
チラッと後ろを見ると、剣を鞘に納め直しているキキョウと目が合った。
「うむ。やはり、戦いでしか威を示せないこともある」
確かに、冒険者相手だったら舐められたらカモられるけど…。
「うーむ、なんか妙な流れ。だが貴族のボンボンに負けると思われては、我輩達の沽券に関わるのも事実。勝ってくるのだ、我が同胞」
「そうですよ。あんなのに負けたら、『リーク伝説』にケチがついちゃうじゃないですか。それに、お小遣い全部賭けちゃったんですからねっ」
「こら」
「あ、よそ見してていいんですか?」
何だって?
ミニムはもう剣を構えていた。真剣だ。十字の柄は、金と宝石で彩られていた。
「大丈夫だ。リークが破れたら、我が仇を取り、奴の首級をお前の墓に添えてやる」
「大丈夫でございますよ。旦那様は負けません」
いつの間にかフランネルが混ざっていた。もう何でもいい、さっさと終わらせる。
俺も剣を抜いた。ドラゴン討伐でも使った業物だ。
「えっと…死んだら負け?」
「いや降参したらだよ!?」
「良かった」
剣を構え、向き直る。
「ははっ、ようやくその気になったね。立会人はこの観衆みんなだ。では、いくよ」
「応」
言うが早いか、大げさに切り込む。ミニムは余裕の笑みのまま引いた。それでいい。後ろから飛んできた短剣の軌道から外れる。
カンッと短剣を叩き落とす。さらに位置を調整し、いつの間にか忍び寄っていたアザリーの視界を背中で隠す。
「…ん?」
ミニムは、何か引っかかったようだけど、まだ気付いていない。出来れば、気付く前に終わらせたい。…何でこう、うちの身内は発想が殺伐としているんだ。
「我が同胞、甘いぞ、今のは取れた!」
「…ふむ」
キキョウも察したみたいだ。
「今度はこちらから行くぞ!」
何にも気付いていないお貴族様は、気持ちいいくらい真っ直ぐ踏み込む。余裕を残しているのは、きっと寸止めするためだろう。けど、俺はそれに付き合っていられない。
強引に剣を右から叩き、ミニムの体を左に流す。一歩右に回り込み、ミニムの左膝を蹴って強引に姿勢を崩す。同時に剣を手放して、ミニムの頭上を通過した短剣を掴む。さらに、砂利を蹴り上げて、アザリーを牽制しようとして…キキョウがアザリーを羽交い絞めにしていた。ありがとう師匠!
まだ落下途中の剣を掴み、ミニムから三歩離れた。短剣は隠しようがなく、後ろに捨てた。
ミニムは目を丸くしていた。
「…んん?」
俺の顔の真横を通り過ぎる短剣に噛みつく。唇が切れた。
ミニムの顔が青くなる。流石に気付かれたか。
「さっさと終わらせるから」
本当なら、剣技の比べ合いをするものなんだろう。俺もそっちが良かった。
短剣をプッと吐き出す。
ミニムはやや及び腰だ。突き出すように構えた剣の出っ張った柄を、剣先に引っかけて上へ弾く。曲芸じみたやり方だけど、丁度真上から振って来た短剣にぶつかってくれた。
金属のぶつかる音が、一呼吸の間に二回。玄人以外は誤魔化されてくれないかな…。
ミニムの首に剣を突き付ける。
「参った」
被せるように、ミニムが宣言した。俺が剣を掲げると、観客は沸き立った。なんとかなった…。
「噂にたがわぬ荒々しさだ」
「速過ぎて全然分かんなかったぜ」
「いや、いいもん見た」
「あれが金の冒険者…」
「あそこナイフ落ちてない?」
観衆がサッと道を開ける。ローズだ。
「リーク…」
さて。さて…どうしよう。
「その勝利、私に捧げてくださるのかしら?」
嬉しそうな微笑みは多分本心だ。
「待て、ローズ=パワー。我ら『クラッシャー』のリーダーは、そこな貴族の侮りを、自らの武を持って払拭したに過ぎない。それに、リークが勝ち取ったのは求婚する権利だ。義務ではなかろう?」
「あら。彼は私の騎士だもの。騎士が決闘によって姫の心を射止めたのだから、後の物語は決まっているのではなくて?」
「全くお花畑のような頭だな。武人の誉れを、そのようなお伽噺と一緒にされては折角の勝利も色褪せるというもの」
「ロマンスを理解できない戦頭なのね。良い師匠ではあっても、良い伴侶にはなれそうもないわね」
「クックック…」
「うふふふ…」
重苦しいプレッシャーがのしかかる。いつの間にか、観客はいなくなっていた。
ミニムがポンと俺の肩を叩く。また、ヤレヤレのポーズ。このお貴族様も、意外と大物かも知れない。




