心の癒し
俺はコダストの片隅で膝を抱えていた。自分でも何をやっているんだろうと思う。でも、大切な友達同士がいがみ合っているのを見続けて、心が折れかけている。
きっかけは些細なことだ。
『リーク。4日後、ヘルト卿にあなたを紹介したいのだけど、都合はいいかしら』
『待てローズ。貴様、そのヘルト卿とやらに、リークをどう紹介するつもりだ?』
『どう、とは?』
『くっ…。パトロン、ではなく、将来を誓った仲、とか!』
『うふふっ。嘘は言わないわよ。でも…想いを告げているのに悲願のためにあえてつれなくされている、くらいは言うかも知れないわね』
『き、さ、まっ』
『あら? 正直に言っているだけよ?』
『待って、ローズ。挑発しないで…』
『そうね。ごめんなさい、リーク。お母様を救いだした後、あなたが誰の想いに応えるかなんて、分かり切ったことだものね』
『…リーク?』
『待って。キキョウ、待って。俺はローズの気持ちに応えるって決めた訳じゃない』
『へぇ…そうなの』
『あ、えっと…』
『クックック。だ、そうだが?』
『この程度で勝ち誇るなんて、安い女ね』
『なんだと?』
…誰か、例えば恋人が、『十分頑張ったから、もういいの』と言ったら、俺はもう頑張れない。そう思ったからこそ、俺はローズの想いに応えなかった。でもこうなってくると、都合がいいから返事を先延ばしにしているような…。
いや、事実そうなっている。
この国で、重婚を禁じる法律は特にない。でも、資産の問題とかではなく、大抵は一夫一妻だ。バードックさんなんて、妾も後妻もいなかった。誰だって二番目は嫌なんだろう。
どうしよう…。いっそ、俺一人で突撃してしまおうか…?
「おにいさん。大丈夫?」
こんな治安の悪い街で珍しい。
「ああ…どうだろう?」
顔を上げた。俺を心配してくれたのは、十歳くらいの女の子だった。髪と目が黒く、どことなく日本人を連想した。痩せていて、服はボロボロだった。日焼けしている。スラムの子か?
「どうしたの? 迷子?」
「そんなようなもんだよ」
「ふぅ…ん」
女の子はジロジロと俺を観察する。
「助けてあげよっか?」
「ははっ…。ありがとう」
「うん。じゃあ銀貨1枚ね」
たくましい。邪気のなさに、払ってもいいか、という気になってしまった。この街に来た時は、銅貨1枚の出費も惜しんだのに。
「はいはい」
実際、声をかけてもらって、どん底に落ち込まなくて済んだ。財布として使っている革袋から、銀貨を取り出す。
「ちょっと待っててね」
女の子は、タッタッと駆け出すと、離れたところでこちらを見ていた、身なりの良いおじさんに何事か話して、銀貨を渡していた。
変な芝居に引っかかったか? と思ったけど、女の子が戻ってくる。
「マリはね、アマリリスっていうの」
「うん」
「よろしくおねがいします。ご主人さま」
「うん?」
「なに?」
「え?」
キキョウとローズも唖然としていた。それはそうだ。俺が帰ってきたら、奴隷を買ってたんだもの。
「よろしくおねがいします。奥さまがた」
「むっ」
「うぇっ?」
一瞬で、キキョウとローズの毒気が抜かれた。マリは賢いなあ…。




