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新たな活動拠点

 完全なヒモになることを恐れた俺は、ローズから衣食住の提供を遠慮した。冒険者稼業ははこれまで通り続けていき、自分の生活費は自分で稼ぐ。この提案に、仲間もみんな賛成してくれた。


 そこで、ローズは新たな提案を持ち出してきた。コダストの街で、活動拠点を作らないか、というもので、使われなくなった屋敷を借家として貸し出してくれるそうだ。

 シルバーになってもあの安宿を使い続けていたのも、他にまともな場所がなかったから。良い場所があるならそっちの方が良かった。


 こじんまりとした屋敷だけど、部屋数は十分にある。ローズがコダストに来た時の宿舎にもなる予定で、他のメンバーもここに住む。

 アザリーは、太陽神殿に寝泊りする不審者、という身分からようやく脱することが出来た。


 5年間世話になった宿を引き払い、新居に移る。…宿の看板娘、リナリーちゃんには泣かれた。いつ遊びに来てもいい、と約束して、ようやく納得してもらえた。




 家財なんてないから、ほとんど着の身着のままで新しい住処にやって来た。コダストのメインストリートから外れた場所にあって、街の喧噪、主に冒険者の喧嘩騒ぎは遠くに聞こえる程度。

 手前にはこじんまりとした庭があり、冒険者風情の住処にしては落ち着いた雰囲気。家の大きさは宿屋とそう変わらないけど、ここに4人で住むのだから十分すぎるくらいだ。


 待ち合わせの時間より少し早いけど、先に掃除でもしていようか。そう思って屋敷の中に入ると、ローズが紅茶を楽しんでいた。


「ローズ?」


「あら、早かったわね」


 引っ越したら、まずは掃除。そう思っていたのだけど、そんな必要はないくらい、片付いていた。

 以前見に来た時は、床にうっすらとほこりが積もっていたけど、跡形もなかった。


「リーク様が来る前に、全て終わらせておきました」


 俺の3歩後ろ、やや右側から、聞き覚えのある涼しい声がした。


「変態執事」


 フランネル。


「お久しぶりです、リーク様。ご立派になられましたね」


 彼女のことは、少し見上げるようにしていたけど、今は逆転してる。背格好や雰囲気は少し変わったけど、彼女のことは間違えようもない。

 青いつやのある髪は、ほんの少し伸ばしたようだ。幼さが抜け、ボーイッシュから耽美的な美形へと変わった。黒い襟付きの上着をビシッと着こなし、敏腕執事、というイメージを見た目から造り上げている。


 けど、俺は忘れない。この執事が、子どものシャツの臭いを嗅いで興奮する、変態だということを。


「久しぶり。今はローズ付きなの?」


「いえ、パワー家に仕えるのは止めました」


「え、そうなんだ」


 執事をやっているのは趣味、と聞いたことがある。また何か別の楽しいことを見つけたのか。


「今は、この屋敷とセットで貸し出されるレンタル執事をやっております」


「待って」


「よろしくお願いします、お屋形様。…旦那様、のほうがよろしいでしょうか?」


「待って」


 え、ここに住むの? 洗濯物どうしよう…。


「ふふっ。リーク、諦めなさい。問題はあるけど、有能よ」


 分かってる。分かってるから困ってる。塵一つ落ちてないリビングを見ても分かる。家事だけじゃなく、戦闘もできるし、頭も回る。問題は給金くらいだけど。


「ご安心ください。家賃に含まれております」


 なら、いっそ使わなきゃ損だ。でも、変態なんだよなあ…。


「まだ、俺のシャツの臭いとか嗅いぎたいの?」


「はい」


  淡々と、それでいて暗さは感じない通る声での返事。…下着は自分で洗うか。


「…分かった」


「ありがとうございます」


「嗅いでいいって言ったわけじゃないからな?」


「もちろん理解しております」


「はぁ…」


 これを、他の面子にも紹介しないといけないのか。


「あれ、ローズは…引っ越し祝いに来てくれたの?」


「それでもいいのだけど…。私、しばらくコダストに逗留するの。よろしくね」


「えっ。ギルドマスターの仕事は大丈夫?」


「大丈夫よ。慣習的に、王都の冒険者ギルドの管理は、ギルドマスターが兼務するものなのだけど、私はギルドマスターになっただけ、だから。別に王都にいなくても問題ないわ」


「そうなんだ」


「そうなの」


 ローズは俺に微笑んだ。したたかに育ったなあ…。


 ローズがここに住んでくれるのは、俺もちょっと嬉しい。パワー家のお屋敷にいたころは、彼女のお姉さんっぽい振る舞いに助けられていた。


 けど。キキョウになんて説明したものか…。

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