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一五歳・ギルドマスターはお貴族様 二

 冒険者ギルド前で待ち合わせ、『クラッシャー』全員が揃ったところでギルドに入る。カウンターにはレッカさんしかいない。ギルドマスターは、奥の小部屋にいるのか。


「ギルドマスターをお待たせしています。早く」


 レッカさんは早口で俺達を急かした。


「分かりました」


 正午より前に着いたけど、相手はもっと早くいたようだ。




「マスター。『クラッシャー』をお連れしました」


「入って」


 凛とした、若い女の人の声。落ち着いた抑揚で、気品すら感じる。


 一方、こちらは不作法な冒険者集団だ。レッカさんに促されてゾロゾロと部屋に入る。狭い部屋だから、6人も人が入れば一杯だ。ギルドマスターがいる側まで詰める訳にもいかず、俺達は密着した状態で部屋に収まった。


 ギルドマスターは、やはり若い女性だった。一部の隙もなく、上品にソファーに腰掛けている。この人生2度目の『権力者』を思わせる人。

 金色に輝く髪が、軽やかに後ろで飾りにまとまっている。顔立ちは、愛らしさの残る美人。瞳は引き込まれるような深い青。綺麗なシルエットに、瞬きをしてしまった。


 とても見覚えがあった。あの子がそのまま育ったのなら、こうなるんじゃないか。その想像そのままの姿だ。

 背中を、冷たい汗が下った。


「どうぞ、お座りになって? 冒険者パーティー『クラッシャーズ』のリーダー、リークさん?」


 間違いない。彼女は俺を知っている。俺も彼女を知っている。目で『座れ』と促される。昔は無かった、圧力を伴って。


「一応、自己紹介をしましょうか。ヴェスタリア領領主、冒険者互助連合代表、ローズ=パワー。初対面ではないけど…忘れてしまったかしら?」


「ぃや…」


 返事は、喉から絞りだした。上品な貴婦人の笑顔を浮かべているけど、彼女は間違いなく怒っている。俺の直感が、どうしようもなく怒っていると告げている。


「良かったわ。パーティーメンバー同士でとても仲が良いみたいだから、昔のお友達のことなんて忘れてしまったんじゃないかと心配してたの」


 キキョウは俺を庇えるように、俺が座っているソファーのすぐ左にいる。アザリーは右側で、出口を抑えている。イベリスは真後ろ。彼女は、単純に人見知りでローズから隠れている。

 狭い部屋だから、みんな結構距離が近い。パーティーメンバーを女の子で固めて、普段から侍らせているように見えたのか…?


「ローズ。彼女達は冒険者としての仲間だ。確かにメンバー同士の仲は悪くないけど、それ以上のことはないよ」


「あら。『それ以上』って何かしら。ただ、覚えていてくれて安心したわ、と言っただけなのに」


 ローズはクスクス笑った。俺は言葉に詰まる。


「領主バードックの娘、ローズよ。我はキキョウ。知っておるな?」


「ええ、もちろん。お母様はご壮健かしら」


「どうやったら首が取れるか分からんほどにな。それで、我ら『クラッシャー』に何用か? 旧知を温めに来たわけではなかろう?」


「あら、私とリークは将来を一緒に考えた仲だもの。愛しい人に会いに来てはいけないかしら?」


「何があったかは知らんが、この5年間生死を共にしたのは我らだ。過去の女は思い出に閉じこもっていたらどうだ」


 ローズは、絶えず俺に微笑みかけていた。『彼女たちに言ってあげたらどうなの?』という、ローズからの囁きすら聞こえる気がする。

 キキョウはローズを冷淡に睨んでいる、のだろう。空間がひしゃげるような圧力を感じる。


 右のアザリーからはジトッとした、咎めるような気配。後ろのイベリスは俺の服をたまに引っ張ってくる。


 …胃が痛い。


「ローズ」


「なあに?」


「俺は君の想いから逃げ続けている」


「そうね」


「それは、俺の『母さんを助ける』という決意が鈍らないようにするためで、他の誰に想われても同じ対応をする」


「当然よね」


「『クラッシャー』は確かに俺以外はみんな女性だけど、俺が意図して選んだわけではなく…強くて、俺の目的に協力してくれる人を探していたら、結果的にそうなってしまったというか…」


「そうね。リークの一本気なところや、淡々と努力を積み重ねるところ、淡白に見えて優しいところを好きになった人がいても、それはリークの責任じゃないわよね」


「いやあのな、俺はローズ以外の女性から告白されたことはない、よ?」


「あら、そうなの」


 さも、驚いた、というように、ローズは目を見開いて口元を手で隠した。


「リーク」


 キキョウの声は、唸るような、情動を押し殺したものだった。


「キキョウ?」


「我は、これから共にあるのは当たり前だ、と言ったな」


「え…」


「何でもない」


 冒険者稼業を共にした5年間、たまにキキョウが言っていたこと。それって、そういう意味だったのか…。


「リークさんリークさん」


「何」


「私はいいですよ、第二夫人でも愛人でも。お小遣いくれて、適度に甘やかしてくれれば」


「待って…」


 アザリー、それ本気? それとも便乗してるだけ?


「なあ我が同胞よ」


 イベリスは、こっそりと耳打ちをしてきた。


「もうこれ、お主が誰かを選ぶまで収まりが付かん問題だし、とりあえず横に置いておこう?」


「…うん」


「あと、お主は悪くないけど、お主の責任ではあると思う、我輩」


 許してくれ…。

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