一五歳・ギルドマスターはお貴族様 一
冬の王に挑むことを決めてから、五年経った。『精霊の森』環境対策用の魔導具開発、『冬の王』の調査と攻略法、パーティー『クラッシャー』のメンバー全員の強化。
一番足りないのは…金であった。
まず魔道具の開発。これは全く進んでいない。理論だけ積みあがっていくけど、実験が全く出来ていない。材料や加工器具が、お金が無くて揃えられないから。
次に『冬の王』の調査。あれだけの力を持っている存在が、突如として現れたとは考えづらい。過去に類似した存在や現象があったか、弱点はないのか。調べる伝手も、資料を集める資金もない。
パーティーメンバーの強化。日々の鍛錬、経験、連携を深めていくことで、パーティーとして強くなっている。けど、装備の強化は中々難しい。
元々武器や防具は高い。さらに、需要が無ければ金額は跳ね上がる。コダスト周辺で現れないような強さの魔物に対応した防具、なんてそもそも売ってないし、作ってもらったらとんでもない金額になる。
総じて、金が足りなくて行き詰っていた。
アザリーが満面の笑みで両手を突き出した。
「お小遣い下さい」
探索ごとのお小遣い制は、未だに継続していた。もう酒でのトラブルは起こさないけど、本人はこっちのほうが気楽らしい。
この元呑んだくれ神官、会った時から見た目が全然変わらない。もう、俺の方が背が高くなってしまった。
庇護欲を煽る、小さくてぽんやりした顔、肩口より短い桃色のふさふさした髪。期待でキラキラした水色の目。下から見上げられると、本当に年下のように思えてくる。
「宿まで待って」
ギルドの買取所の前だ。同業者もたくさんいる。ここで金のやり取りはしたくない。
「む、終わったか」
買取所の受付が終わったことに気付いて、キキョウとイベリスが寄って来た。2人の後ろで、チンピラ風の男がのびていた。
「絡まれたの?」
「うむ、新参者だ。夕飯を誘われたが、品が無かったのでな」
「あれ、品がないという程度じゃなかったと思う」
キキョウもイベリスも、綺麗目の美人になった。生意気な新人冒険者として絡まれることはなくなったけど、『クラッシャー』を知らない相手からナンパをされるようになった。
「モテるね」
「リーク、不愉快だ。あんな三下に好かれても嬉しくない」
キキョウは、爛々と輝く金色の三白眼で、軽く俺を睨む。最近俺の身長が追いついたので、目がとても近い。ドキリとする。
しなやかに筋肉が付いた赤茶色の四肢と、良く映える白い短髪はエキゾチックな魅力があり、口説きたくなるのも分かる、と思ったけど。確かに失礼だった。
「あ、ごめん」
「キキョウ。お主があのチンピラなぞ歯牙にもかけない、というのは、リークの中では当たり前のことなんだぞ」
「む…」
「早く宿に戻ろう。我輩お腹が減った」
イベリスは…緩くなった。ちょっと背が伸びてちょっと髪が伸びたくらいで、外見は余り変わらない。その代わり、言動がぽややんとしてきた。俺は、彼女の緩さに助けられている。
小声で礼を言った。
「ありがとう、イベリス」
「ククッ。我が同胞の助けになるならば、いかなる難事も片手間に片づけてやろうぞ」
あとは、意外と頻繁に目が虹色に光ってることに気付いた。
「待ちなさい。『クラッシャー』」
全員が宿に戻ろうとした時、買取所から声がかかった。レッカさんだ。この人も見た目が変わらない。
俺は換金が終わったらさっさと出てきてしまったので、何か伝えられずにいたんだろう。
「何でしょう?」
レッカさんは、一呼吸分の時間、言い淀んだ。眉根を寄せている。
「明日、正午に冒険者ギルドへ来るように」
呼び出しとは珍しい。
「分かりました。依頼ですか?」
「いいえ。ギルドマスターが、あなたを呼び出しました。理由は聞かないでください。私も教えられていません」
”ギルドマスター”って誰だ?
「冒険者連合ギルドの代表です。コダストに来ているという噂を聞きましたが、本当みたいですね」
アザリーが口をはさんだ。
「わざわざ僻地に?」
「色々憶測が飛んでますよ。一番有力なのは、レッカさん左遷説です」
この街がもう左遷先じゃないか。ギルドマスターがそれを伝えに来るとは考えづらいし。
「黙りなさい、このエセ神官」
「黙りませんー。あともう神官じゃないので。ただの生命魔導士なので」
四年前の一件で、アザリーは太陽神官を辞めている。今はただの、無断で神殿に寝泊りしている不審者だ。
「くっ、腹の立つ…。とにかく、伝えましたからね」
「分かりました…?」
五年間で実績を積み上げたとはいえ、まだ『コダストでは名の知れた』程度の冒険者だ。一体何の用だろう…?




