閑話 コダストの寒季祝い
コダストの街にも、寒季のお祝いをする風習はある。宿の夕食には一杯のエギナ草のスープが付き、寒季生まれの冒険者は、同業者から一杯奢られる。
『クラッシャー』では、俺とイベリスが寒季生まれだった。
コンッとマグを打ち合わせる。周りの騒がしさに飲み込まれそうな、慎ましい音がした。
「リーク、イベリス。去年一年の息災を祝い、今年一年の健勝を祈ろう」
「今年一年、2人の下にも太陽の恵みが届きますように…いただきます」
言うが早いか、アザリーはジョッキの中身を喉に流し込んでいた。
「ゴッゴッゴッ…」
「ありがとう、キキョウ。…アザリーも」
「ふぅむ。もちろん来年も健康にバリバリ活躍する予定の我輩ではあるが、祈りに感謝しよう」
俺、キキョウ、イベリスもコップに口を付けた。アザリーは、大ジョッキにビールのような、泡の出るお酒。他は宿からのサービスのエギナ草のスープだ。少し塩辛いけど、母の味付けに近い。
「ふふっ」
「どうしたの?」
キキョウが小さく、穏やかに笑った。彼女は、声を出して笑うことは滅多にない。珍しい。
「いやなに。我の誕生季の祝いにリークを呼べと、母にねだったことを思い出してな」
「そんなことしてたの」
「うむ」
うむ、て。その場面を想像して、俺も笑ってしまった。
「笑ったな、こやつめ」
「ごめんごめん」
「キキョウにもそんな時代があったのだな」
「あったとも。我は我を通す方だ」
それは知ってる。
「おかわりくださいっ」
アザリーが叫ぶ。今まで、1人で黙々と呑んでいた。
「ああ…八分季ぶりのお酒…」
「ここのところ、依頼が立て続けだったからの」
アザリーはうっとりとジョッキをなぞった。
「我輩も飲んでみようかな…」
「勧めはしない。試めすのは悪くないが」
キキョウはイベリスに耳打ちをした。イベリスは俺の方をチラチラ見る。なんだ?
「止めておく…」
「賢明だ」
「何の話?」
「いや…みなの前で醜態を晒すこともあるまい、とな」
「ふうん?」
「そ、そんなことより。この辺りでは、スープで祝うのだな。不思議な祝い方だ」
「イベリスの故郷では違うんだ」
「左様。我輩の生家では、刺青の数を増やしていたぞ」
「へえ。どこに?」
「えっと、背中に」
イベリスはちょっと照れていた。聞いた俺も、少し恥ずかしい。
「あ、ごめん」
「ううん…」
いたたまれない。
「飲んでますかっ!」
アザリーは二つ目のジョッキを空にしていた。
「こっちはお酒じゃないんだ。そんなにバカバカ飲まない」
「もーう。そういうことじゃないです。ガーってきたらゴーって返さないと、お話が出来ないじゃないですか!」
「わけわからん」
「いいですよ、もう。イベリスさん。ガー!」
「え。…ごー?」
「もっとゴーって!」
「酔っ払いめ。素面に絡むな」
「やー、こわいー。鬼キキョウが怒ったー」
「アザリー…」
「飲めなかった分を取り返してるんですよ…隙あり」
アザリーが俺のふとももに顔をうずめる。
「いいなあここ。あ、リークさん、お肉取って」
「貴様…!」
「何やってんの…」
「我輩も飲もうかな」
なんで。
結局、周りのテーブルと変わらないくらい、ワアワアと騒ぎになった。今年の寒季祝いは、今までで一番騒がしい。




