表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の俺TUEEEはヒロイン達が無理やり成立させている件について  作者: カルタ
少年時代・新人冒険者編
41/60

十一歳・一年

 コダストの街に来てから、一年が経った。探索を一緒にする仲間も4人になり、戦う魔物も強くなってきた。まだ一年だ。もう一年だ。俺は強くなったけど、未だ、精霊の森に踏み込めるほどではない。


 もうすぐ寒季が始まる。徐々に肌寒さを感じるようになってきた。夜が更けると、上着が必要になる。街の外の荒野は、特に風が冷たい。

 さて。こんなところに呼び出して、アザリーは何の用だろう。


 吹雪の結界に覆われた精霊の森を眺めていると、ジッジッと足音が聞こえてきた。街の方から、アザリーが俯きながら歩いてきている。さて何故か。マントの下で、メイスを握っている。


「アザリー」


 あと15歩の距離。会話をするには少し遠い。けど、彼女の様子は尋常じゃない。怖かったから、つい呼び止めた。

 彼女は足を止めた。顔は上げなかった。


「こんばんは、リークさん」


 淡々とした返事。目深に被ったフードで、顔が見えない。


「こんな時間に、何の用?」


「本当に1人で来てくれたんですね」


「うん。理由と、用件を教えて」


「私のような不信神な神官の言葉をそう簡単に信用しちゃダメですよ」


 アザリーは、わざと会話が噛み合わないように話してる。本題に入ることを避けている。


「…金貸せって言われたら、貸さなかったよ」


「アハハ、そこは信用ないんですね」


 俺が黙ると、アザリーも黙る。雑談は苦手だし、シリアスな空気に呑まれかけて、言葉が見つからない。

 しばらく。体が強張ったな、と思うような時間まで、俺達は黙っていた。


「…太陽神殿は、冬の王とは不干渉であることを決定しました。この街からも手を引きます」


「えっ。…じゃあアザリーもいなくなるのか?」


「そう、ですね」


 困る。けど、アザリーは組織人でもある。留まって欲しいとは伝えられても、それ以上は困らせてしまうかもしれない。


「リークさんは、何故、冬の王に挑むのですか?」


「母さんと故郷を取り戻すため」


「どうして? あなたはまだ子どもです。大人に助けられることはあっても、助ける必要はないと思います。それに、大事な人は母だけではないでしょう。キキョウさんはあなたを弟のように思っています。イベリスさんは、あなたに何かを期待しています。あなたもそれに応えている。何が不満なんですか?」


「不満なんじゃない。ただ、この世で初めて俺を愛してくれた人を、取り戻したいだけだ」


「結局、ただのマザコンじゃないですか」


 否定はしない。でも、小さい頃に母から引き離されたら、そうなるもんじゃないか?


「いいじゃないですか。何だかんだ、リークさんは冒険者として成功するでしょう。キキョウさんに守られ、イベリスさんに助けられながら、リークさん自身も成長する。いずれもっと強力な魔物を倒すようになり、新しいお伽噺になるかも知れない。2人のどちらかと結婚して、幸せな家庭をつくるかも知れない。…でもそれは、命があってのことなんですよ?」


「そこに母さんはいない」


「母さん、母さんって、あなたを心配してる人だっているのに、どうしてそんなに簡単に『死にます』って言えるんですか」


「死ぬつもりはないよ」


「そうでしょうかね…?」


 アザリーが顔を上げた。フードが落ちて…彼女が笑いながら泣いていることに気付いた。夜闇に浮かぶ桃色の髪、涙で潤む水色の瞳、月光に照らされた白い肌。

 普段ホワホワしてるから。アザリーを美しいと思う時が来るとは、考えたこともなかった。


「太陽と月は対となるもの。太陽神の伴侶として、月神という存在もいるんです。でも、月神殿ってほとんど無いんですよ」


 俺が固まってる間に、アザリーはメイスを手で弄びながら、話を続けた。


「月は秘するものだから。堂々と信仰の存在として掲げるものではないんですね。それは…隠さなきゃいけないことを請け負っているという意味でもあるんです」


「…何の話?」


「ええ、月神殿が何をするところか、という話です。太陽の決定は、冬の王と”人類の”不干渉。月の決定は…太陽の妨げになる者の排除。オカシイですよね…信者だって全然いない、雑魚雑魚弱小宗教が、王様より偉そうなことを言うなんて。でも、ウチの偉い人は、本気でそれが正しいと信じているんです」


 つまり、月神殿は俺を排除する、という話。


「さて、不良神官アザリアの昼の顔は太陽神官。では、夜の顔は?」


「月、神官」


「正解です。ご褒美に、撲殺を差し上げましょう」


 アザリーはメイスを掲げた。困った。護身用に持ってきた木剣しかない。


「…冗談ですよ。というか、武器を構えるくらいはしてください」


 アザリーはペイッとメイスを放り投げた。


「というわけで、新規気鋭の冒険者リークの暗殺に失敗したダメダメ神官アザリアさんは、命辛々コダストの街から逃げ出します。月神殿に私より強い人いないので、私が失敗したら、わざわざリークさんを狙う人もいないでしょう」


 アザリーは、話は終わった、とばかりにフラフラと街へ戻ろうとする。そっちの話は終わったかもしれないけど、俺の話はこれから始まる。


「待て、アザリー」


「何ですか。明日も早いんですから、さっさと宿に戻って寝たほうがいいですよ」


「冒険者リークの暗殺に失敗した呑んだくれ破戒神官は、ボコボコにされて涙ながらに許しを請うて服従を誓うんだよ」


「何言ってるんですか。あなた私より弱いじゃないですか」


 一年前はね。


 魔導で起こした突風に後押しされ、15歩の距離を3歩で詰める。アザリーはメイスを拾い上げて迎撃、しようとして失敗する。何故メイスが埋まっているのか。俺が土魔法で埋めたからだよ!

 アザリーはとっさに左腕でガードするが、俺は遠慮なく木剣で叩く。ゴッという音がして、アザリーは顔をしかめる。


「命は巡る!」


 即座に橙色の魔力がアザリーの腕を覆う。膠着した一瞬、俺は土属性の魔力を木剣に流し込んで、アザリーの左腕を変形させた木剣で締めつける。


「ぎぃいあぁ!」


 手加減なしだ。痛いだろう。苦し紛れに振るわれたアザリーの左腕は、俺の首を狙っていた。首を折りに来てる。斜めに迫る凶手を前に出ることで躱し、木剣を手放し密着状態から右手でアッパー。綺麗に決まった。


「ガァッ!」


 後ろに反りかけたアザリーは、咆えて踏みとどまる。怖ろしいほど力任せの回し蹴りで、俺を下がらせた。


「前衛ができる無詠唱魔導師がこんなに厄介なんてっ!」


 アザリーは、左腕に絡みついた木剣を右手で引き千切った。変形させると、脆くなってしまうのか。いや…アザリーの馬鹿力、という可能性もある。


「得物を失いましたねっ」


 アザリーは両手をプラプラさせて木剣の欠片を払う。


「危なかったです。あなたが殺す気で来ていれば、私は負けていたでしょう」


 勝った気でいる。下級式魔導を無詠唱で使える相手に、それは油断し過ぎじゃないか。


「来ないんですか? なら今度はこっ!?」


 アザリーの周り3歩の距離まで、地面が落下した。深さ、3アザリーくらいの距離まで。直下の土に魔力を浸透させてから、一気に円の形に押し固めたのだ。


 穴の上から見降ろすと、アザリーは2本の足で着地していた。…キキョウが強すぎるだけで、アザリーも体捌き上手いんだよなあ。


「じゃ、埋めるから。好きなタイミングで降参してね」


 圧縮した土を、上から緩めていく。土が、アザリーの頭上へ降り注いでいく。


「はぁ!? 容赦なさすぎじゃないでうわっぷっ」


 ドドドッと地響きが鳴る。土をもろに浴びたアザリーがむせ混んでいた。降参まだかな?


「待った、待ってください」


「降参する?」


 魔導は止めない。そろそろ首まで埋まるな。


「分かりました。降参しますから!」


 魔導を止めた。土の流れが緩やかになり、アザリーの顔がギリギリ出ているところで止まった。


「こ、交渉する気があるんですか? 死にますよ!?」


「それくらいしないとダメかなって」


 アザリーが普段から実力を隠している可能性もあったので、容赦はしなかった。


「自力で出られる?」


「私のことなんだと思ってるんですか。無理です」


 仕方がないので、魔導で土をよけて地上までの坂道を作る。這って登って来たアザリーは、全身土塗れ、白いローブにまだらの茶色模様がついていた。


「アザリー俺より弱いね」


「ぐぬぬ…。はぁ、分かりましたよ。許しを請い、服従を誓うんでしたっけ? リークさんを手加減したままどうにか出来ると思っていた私が愚かでした。今後はリークさんに逆らいませんのでどうか許してください…。これでいいですか?」


「うん。…じゃあとりあえず禁酒ね」


「げぇっ。本気ですか」


「いや、嘘だけど」


 最近は、休みと決めた日しか二日酔いになってない。以前ほど厳しくする必要もない。


「はあ…まあいいですけど。条件があります」


「…何?」


「疲れました。膝枕してください」


「うん?」




 夜の荒野で、俺の太ももにアザリーが頭をのせて寝転がっていた。アザリーは今年で十九歳になるとはとても見えない見た目だし、子ども同士が遊んでいるように見えるかも知れない。片方は泥だらけだし。


「なんで膝枕」


「いいじゃないですか。キキョウさんは膝枕をする人。なら私はされる人です」


 対抗心? 変なことになってきた。


「髪を撫でてください。あ、やっぱいいです。恥ずかしいので」


 色々面倒くさい。頭の土を払うついでに、アザリーの頭をワシャワシャとかき回した。


「いやぁー、ぐちゃぐちゃになる―」


 適当な悲鳴だ。


 しばらく遊んでいると、アザリーのリアクションが薄くなってきた。俺も飽きて手を止め、何も考えずにアザリーの顔を見ていた。アザリーも俺の顔を見ていた。


「…リークさん。私、必要ですか?」


「いなくなったら困る」


「えっへっへっ、そうですか」


 アザリーはニヤニヤした。ちょっとムカついたので、頬を引っ張る。


「ひはいですー」


 嘘くさい。




 アザリーが満足するまで膝枕に付き合わされた。その後、ダダをこねるので神殿へ送り、穴を埋め直し、宿に戻って体をふいて…休むのが遅くなり、翌日は寝坊をした。おのれアザリー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ