閑話 売られた喧嘩は必ず買う
冒険者はナメられてはいけない。戦う力が無い、脅せば従う、とか思われてはいけない。何故か。…悪い奴がいるから。平気で金をせびり、獲物を奪う奴ら。そういうのに目を付けられないように、悪い奴の真似をする悪い奴もいる。逆に、突き抜けた奴には、おこぼれにあずかろうと取り巻きが付く。
冒険者ギルドは冒険者同士の争いには関与しない。街の維持に関わらない限り、自治組織も手を出さない。冒険者内での治安は、コダストの街とは違うベクトルで悪かった。
『クラッシャー』が絡まれたり、目を付けられたことも何度かある。何度叩きのめしても、忘れたころに別の同業者に絡まれる。人間同士の荒事なんて無視したいけど、武器をちらつかせた相手はそうもいかない。『手を出したらタダじゃ済まさないぞ』という意思表示はしている。
今日も、街に来たばかりのチンピラに、『クラッシャー』の方針を理解してもらった。
「師匠、終わりました」
「うむ。ためらいが無くなり、先手を取る判断が早くなってきた。良いことだ。しかし、殴り方が丁寧過ぎる。基礎は大事だが、実戦では修練よりも安全を取るべきだ」
3人のチンピラが地面にノびていた。コダストに来たばかりの新参者だ。
「我らを守る立ち回りをしていたことも減点だ。ただでさえ一対多なのだ。必要のない気遣いはするな。自分の身を第一に考えろ」
「はい」
「うむ。戦いに関しては、技量で圧倒し、奥の手も持ったまま危なげなく終わっていた。悪くない…。以上だ」
「ありがとうございました」
最近は、剣だけでなく素手の戦い方も教わっている。丁度良く絡まれたから、実地練習となった。
「あ、終わりました?」
倒れたチンピラの財布を漁っていたアザリーが顔を上げた。中身はほとんど空っぽだったようで、手に持っていた財布を適当に放り投げる。
「我輩、そういうのよくないと思うぞ…」
一番後ろで眺めていたイベリスがボソリとこぼす。俺は財布はどちらでもいいんだけど、チンピラを庇う義理もないので突っ込まなかった。イベリスはスルー出来なかったようだ。
「まあまあ。生活するのに必要なお金は残しますし」
コイツ神官と言ったら、誰か信じるのかな。でも外面は未だにいいんだよな。この前も、比較的マトモなパーティーから、同情気味に一杯奢られたらしい。
「退屈なら、次はイベリスが出るか?」
「我輩、手加減出来ないからやらない」
「む、そうか」
イベリスとキキョウは仲がいい。妙なところで張り合うこともあるけど。
「そうですよ、イベリスさん。荒事は野蛮人2人に任せておけばいいんです」
「ほう…。喜べ、貴様も野蛮人の仲間入りだ」
キキョウが訓練用の木剣を抜いた。
「げぇっ! もう今日のお仕事は終わりです!」
「実戦なら関係ない!」
アザリーは悲鳴を上げながら逃げ回る。よくよく学習しない神官だ。
「…帰ろ?」
「うん」
2人が戻って来たのは、たっぷり日が暮れた後だった。




