へんなひとの魔導講座
街のそばの荒野で、イベリスと向き合っていた。今日は、イベリスの魔導についての個人授業が開かれている。
俺が水・生命・大地へと属性変換が出来ないと、イベリスにバレた。『精霊の目の保持者が全属性使えないだと!?』と大変憤慨したイベリスが、急に言い出したことだ。
遠くではアザリーがキキョウに追い回されてる。避けるの上手くなったなあ…。
「まず、魔力の属性とは何か?」
イベリスの授業が始まった。普段通り仰々しい、作った声だけど、どこか真剣味がある。イベリスの背は俺より頭一つ高く、教師と生徒のようにも見えるかも知れない。
「『精霊の目』を持つお主は、『色』と答えるかも知れない。それは間違いではないけど、本質でもない」
イベリスは、その場で屈んで地面に手を触れた。彼女の手の甲から、幾何学的な模様が浮かび、虹色に輝く。
イベリスが立ち上がり、手のひらを持ち上げる。同時に、彼女の手から黄色の魔力が四角い塊となって押し出され、メリメリと地面から土の柱が生えた。
「我輩は、所持する機能として属性変換を行える。つまり、感覚ではなく論理として知っているのだ。それをお主に教えることは恐らく不可能。しかし、属性変換の過程を経験させることは出来る…。我輩の右手に、手を重ねるがいい」
土の柱は、イベリスの腰の辺りで成長が止まっていた。その上に被さったままになっているイベリスの右手に、俺の右手を重ねる。
イベリスは魔力を流す。彼女の手の甲で、魔力が黄色に『染められて』いく。イベリスが魔力に浸透させたイメージが伝わってきた。
大地の属性の性質。それは、『物質と結びつく』ことだ。イベリスが胸の高さまで伸ばした土の柱の、周りの地面は沈んでいる。土の柱を作り出したのではなく、土の形を変えたんだ。
「出来るか?」
「やってみる」
イベリスの右手から手を離し、柱の側面に触る。魔力の色と、『物質と結びつく』イメージを重ねる。イベリスが使って見せた魔導は、土に魔力を結びつけ、その魔力に意思を浸透させて土そのものの形を変化させた。工程は増えてるけど、やっていることは他の魔導と変わらない。
黄色の魔力を流し込み、土を巻き込んで引っ張る。土の柱の側面に、小さなでっぱりが出来た。
「出来た…」
「ククッ。やはり我輩の見立てに間違いはなかった」
イベリスは、バサリとマントを翻し、右手を突き立てて自分の額を支え、首を傾けた。何か意味のあるポーズなのか?
「リーク。いや、いずれ魔導の真髄に迫りし我が同胞よ。共に魔導を極め、世界の真理を解き明かそうではないか!」
「それはいいかな」
メインは剣でやっていくつもりだし。
イベリスは顔をヘンニョリさせた。
「ノリが悪いよ?」
ノリで怖い決断したくない。
「世界の真理は置いといて。ありがとう、イベリス」
「お、おおぅ」
イベリスは何やらビクついていた。失礼な、何か教わったら感謝はするぞ、俺は。
「他の属性変換も教えてもらっていいか? あと…破壊属性ってなんだ?」
「ほ? ククッ。やはり好奇心を抑えられぬか」
「…あの魔導は、魔力が実体化していた。他の属性とは明らかに違う。訳が分からない」
「ふむ、ならば教えてやろう、と言いたいところだが…。実のところ、あれは我輩も理解していない」
「属性変換の論理は分かってるんじゃないの?」
「そうなのだが…。破壊属性といったが、そもそも属性変換かどうかも分からないのだ」
じゃあ、どうやって使ってるんだ?
「あの魔導は、我輩に埋め込まれた魔導兵器の一つではあるが、我輩自身ではない。命令と魔力の入力が出来る回路が繋がれてるだけなのだ」
技術的には完全にブラックボックス、ということか。
「なるほど。再現は難しそうだな」
「…へんなひと」
「なんだって?」
聞き捨てならないセリフを言ったな? イベリスは、俺の文句を気にしなかった。それどころか、満面の笑みを浮かべた。イベリスの瞳が、一瞬だけ虹色に光る。
「クククッ。やはり口では何といっても、お主は世界の真理に引きずられている」
「そんなことない」
「今はそれでよい。だが、いずれ我輩と同じく魔に導かれる探究者となる定めなのだよ、我が同胞!」
イベリスは、初めて会った時のように仁王立ちになり、見えを切った。随分とご機嫌だ。
「いいから、他の属性を教えてくれ」
「良かろう良かろう。我輩の知り得ていることは、全部お主に教えてやろう!」
その後、イベリスはずっと上機嫌だった。文字通り手ずから教わって、俺はこの日、ようやく全ての属性変換に成功した。魔導の属性について学んでからもうすぐ6年だ。
そういえば、ローズは『精霊の目』も無しにやっていたな。今、どうしてるか…。母を助けたら、一度会いに行こう。いつになるか分からないし、その頃には忘れられてるかもしれないけど。




