続・へんなひと
冒険者に魔導士は少ない。ちょっと戦いに応用できる魔導を習得している、『魔導使い』はたまにいるけど、五属性全てを使いこなし、状況に応じて魔導を使い分ける『魔導士』はほとんどいない。
つまり。魔導士の冒険者というのは、開拓地などの本来の開拓者として高い志を持つ魔導士か、人に理解され難い目的を持った『へんなひと』しかいない。
「そこのお前」
八分季振りくらいに『へんなひと』に出くわした。冬の王の討伐が目的とか言いながら、ギルドへ行くのもためらう、よく分からない人。ギルドへ行く途中のメインストリートで出くわしてしまった。
俺は無視をしたかった。けど、キョウカが反応してしまった。
具体的には、いきなり剣の柄に手をかけた。
「ななっ」
赤い、地面まで届きそうな髪を震わせ、『へんなひと』は慄いた。
「ちょ、野蛮人。街中で何考えてるんですか!」
今回はアザリーと同意見だ。いくらコダストの街の治安が悪いからといっても、声をかけられただけで剣に手をかけるのは剣呑すぎる。
「キキョウ。流石に手が早すぎる」
「分からんかリーク。その女、全身が武器だ」
へんなひとはギョッとした。それから、ニンマリと笑う。
「ほ、ほう、分かるやつには分かるのだな。その通り。我輩は大魔導士イベリス! 魔導士にして魔導兵器! 我が魔導は破壊と混沌をもたらすのだ!」
「なるほど」
キキョウは剣を抜いた。一歩で剣が届く位置だ。
寂れた街とはいえ、昼前のこの時間はチラホラ人がいる。ここコダストの街では、盗みや喧嘩、刃傷沙汰はしばしばおこる。とはいえ、白昼堂々剣を抜くバカは余りいない。みな脱兎のごとく逃げ出して、大通りから人気が無くなってしまった。
これでまた、悪名が増える…。
「なっなっなっ…物騒ではないか!」
自称魔導兵器さんが何を。とはいえ、このままでは自称魔導兵器さんの首が飛んでしまう。
「俺達に何か用?」
「このまま話を進めるのか!?」
進めるとも。ある意味、この魔導士の寿命を稼いでいるとも言える。
「いいから。この前も声をかけてきたよね。その割には、ギルドに行くのは明日にしようとか、ふざけたこと言って。今日は何?」
「あ、覚えててくれたんだ」
こんな派手な見た目してる人、そう簡単に忘れない。真っ赤な長い髪がまず記憶に残る。蛮族のような恰好か、軽装鎧の男が多いコダストの街で、黒マントに紐飾り付きのシャツは奇抜だ。それに、コダストで自分から魔導士を名乗る人はほとんどいない。
「…早めに用件をお話をした方がいいと思いますよ?」
アザリーが恐る恐る話を促した。
「あ、うんそうだな。えーと、我輩は大魔導士イベリスである」
「うん」
「き、貴様らが『クラッシャー』で間違いないな?」
遺憾ながら、その通りである。元々、ゴブリンの頭を木剣で叩き割った、という誤解からついたあだ名が、いつの間にか俺、アザリー、キキョウのパーティーとして知られるようになっていた。
アザリーは、チーム内の唯一の良心として知られているらしい。呑んだくれのクセに…。
「そうだけど」
「ふむ。なら、我輩の辿り着いた偉大なる魔導の深淵、その一端を目にすることを許してやらないこともないぞ?」
「つまり…仲間になって力を貸してくれるってこと?」
「えっと…はい」
さっきからその妙な緩急はなんだ。
「ふむ…」
キキョウが剣を鞘に納めた。
「キキョウ?」
「こ奴が何を言ってるのか分からんが…魔導士が仲間に加わるというのなら、悪い話ではなかろう」
キキョウは『判断を預ける』と目線を俺によこした。
「本気ですか? むしろ正気ですか? 山ウルフの群れに3人で突撃するようなチームに、本当に入りたいんですか?」
アザリーがイベリスへ詰め寄る。
山ウルフとは、そのまま山に住む狼の姿をした魔物だ。群れで連携を取って戦うので、基本的に罠で孤立させて一体ずつ倒すことになる。
俺達の場合、荒ぶる鬼人の剣士に気を取られた群れを、俺とアザリーで一体一体倒していった。
「望むところよ!」
イベリスの茶色い目が、虹色にキラリと光る。
「今からギルドへ行くんだけど…心の準備は?」
「よ、よいぞ?」
不安だ。けど、良くも悪くも有名になってしまった『クラッシャー』に自分から入りたがる冒険者も貴重。お手並み拝見くらいはさせてもらおうか…。




