女と女の友情は成り立たない
10/10 二回目の投稿です。
「後生ですぅ、後生ですからー!」
悲痛な叫び声が神殿に響く。彼女は懸命に縋った。石の壁と、高い天井で反響して、いっそう哀れみを誘う。しかし、慈悲は与えられなかった。
「フンッ」
一握りで、それは粉々に砕け散る。形を失い、中身は零れ落ち、もう二度と戻らない。そう、アザリーが隠し持っていた最後の酒が、今失われた。
「我は言ったな。きちんと飯を食え、全部酒に使うな、と。そんなに難しいことか?」
「おいおぃおぃ」
「ヘタクソな泣き真似は止せ。話が進まん」
両手を顔で覆い、泣き崩れる振りをするアザリー。白いローブを着た少女が泣き崩れる様は絵になっていた。容赦のない鬼人が、金の瞳で残酷に見降ろすところも。
破戒神官アザリーは、度々食生活よりお酒を優先し、グロッキーのまま探索に参加することがあった。見かねたキキョウは何度か小言を言ったけど、アザリーは聞かなかった。そしてついに、キキョウは強硬手段にでた。アザリーが隠し持っていたお酒を物理的に処分したのだ。
「全く…。アザリア、貴様もリークの仲間なのだ。万が一、貴様の不摂生のせいで、リークが怪我を負ったらどうするつもりだ」
俺は、キキョウはもっと容赦がないと思っていた。でも、彼女はきちんとまず言葉で意思を伝え、それでダメでも暴力には訴えなかった。いや、酒瓶には暴力を振るったけど…。
「け、怪我くらいなら神の奇跡で治しちゃいますよっ」
神の奇跡。ようは神殿伝統の生命魔導なんだけど、魔導なので万能ではない。むしろ、奇跡が必要な大怪我までいくと、治せなかったりする。と、宿の看板娘リナリーちゃんが言っていた。
「なら死んだら貴様の首を祭壇に捧げれば、リークは生き返るのか?」
「ひぃっ」
キキョウが剣に手をかけた。いい薬だと思ったけど、ちょっと話が変な方向に進んでる。
「待って、キキョウ」
剣の柄を掴む彼女の手を抑える。
「むぅ」
キキョウはゆっくりと、手を剣の柄から離した。これを勝機と見たのか。アザリーが俺を盾にする。
「私はリークさんから『お前がいてくれないとダメなんだ』とお願いされてるんですぅー。幼馴染だかなんだか知りませんが、ちょっと強いくらいでイキり過ぎじゃないですか?」
言ってない。話をややこしくしないで欲しい。
「いや、俺も二日酔いで探索に来るのは止めて欲しい」
「リークさんはどっちの味方なんですか!?」
素面の人の味方だよ…。
キキョウは、俺の腰辺りに縋りついたアザリーを睨みつけた。珍しく眉間にしわが寄ってる。
「きゃぁぁ」
アザリーは即、顔を引っ込めた。
「リーク、そこをどけ」
どいたらマズいことになりそうだ。
「キキョウ、ちょっと落ち着いて」
「しかしだな」
「キキョウが俺のために怒ってくれるのは嬉しいし、パーティーのためを思って締め付けてくれるのは助かる。俺がやらなくちゃいけないことを、代わりにやってくれて感謝してる。でも、このままだと仲間割れになってしまう」
「むぅ…」
「ありがとう、キキョウ。頼りない弟分でごめん」
「…いい。我も熱くなっていた」
「うん」
アザリーが腰に抱きついていなければもうちょっと説得力があったかも知れないけど、キキョウもそこには目をつぶってくれた。
上半身をギギッと捻り、アザリーに向き直る。『よくやりましたっ』みたいな顔をしてるんじゃないよ。
「で、アザリー」
「はい。あ、もう解散ですか?」
ため息を堪える。なんで七歳も年上の大人を説教しなくちゃいけないんだ…。
「それにしても流石リークさん。幼馴染というだけあって扱いを心得ていますね。よっ色男!」
「…禁酒」
「へぁ!?」
緩んでる。気が緩み過ぎてる。キキョウがパーティーに加わって、危ない場面は全くなくなったけど、それでも命の危険があることは忘れてはいけない…のに。
「禁酒。あと、朝の鍛錬に参加すること」
「そ、そんな。ごめんなさい、ごめんなさい、私が悪かったです。お酒控えますからね、ね?」
そのセリフ、もうちょっと早く聞きたかったな…。
「報酬はお小遣い制にして、ご飯は一緒に食べようか。探索に必要なものもこっちで管理するから、必要なものがあったら言って」
小遣いを溜めてお酒を買う分には、何も言わない。どうせ、神殿の補助金で飲むのは止められないし。
「じゃ、明日の朝から迎えに来るから」
「そんな、お慈悲をっ」
足に縋りつくアザリーの手をやんわりほどき、神殿を後にした。両開きの扉が、バタン、と無慈悲に閉じる。
翌朝から、アザリーは俺と一緒にキキョウにボコボコにされるようになった。実力差は圧倒的だけど、思わぬ負けん気を発揮して食らいつく。酒の恨みか、あるいは強くなって見返すつもりか。何だかんだ、いい関係を築いていると思う。




