続・武芸百般の幼馴染
キキョウは、コダストの街で注目を浴びた。同業者に限らず、チラチラとキキョウを見ては、『鬼人』とささやく。気持ちの良いものではなかった。けど、当のキキョウは涼しい顔をしていたので、俺も気にしないことにした。
もう日が暮れてからしばらく経っているので、買取所で買取を待っている冒険者はあと一組だった。レッカさんは、値付けに不満がある同業者を軽くあしらって追い払った後、俺達に気が付いた。キキョウを見てギョッとした顔になり、ジェスチャーで俺達を呼び寄せる。
「依頼は達成しました。首はこの中です」
カウンターに袋を置く。三つの塊がゴロリと揺れて気持ち悪い。
「ああ、ええ…」
レッカさんは、明らかにキキョウに気を取られていた。
「あ、彼女はキキョウ。森の近くで出会いました。俺の古い知り合いです」
「鬼人の知り合い、ですか…」
レッカさんは俺とキキョウの間で視線をさ迷わせていたけど、一度ギュッと瞬きをした後、普段の淡々とした態度に戻った。
「まずは、依頼達成ご苦労様です。検分がありますので、報酬はすぐにお支払いできませんが、次の八分季の始めまでには払えるでしょう」
レッカさんは、一度口を閉じて、アザリーをジロリと睨む。
「それで? まさかこの人まで推薦するとは言いませんね?」
「い、いいえ」
「一応、あなたも太陽神官見習いでしたね…。分かりました。ではリークさん、これを」
レッカさんは、俺に鈍く輝く銅のプレートを手渡した。
「カッパーの認識票です。無くしても再発行はしません。また、その認識票を誰かが犯罪行為に使った場合、責任が問われることもあります。盗まれないでください」
「はい」
これで、名実共にカッパーの冒険者となるわけだ。プレートには穴が開いている。紐を通して、服の下に隠して首からぶら下げるのが良さそうだ。
「ふむ」
俺の顔が緩むのを見たキキョウが、何かに納得していた。
別れ際、悩ましい顔をしたアザリーが、俺に尋ねた。
「あの…キキョウさん、明後日から冒険者として一緒に活動するんですよね?」
「そうだけど」
俺が盗賊退治で精神的に疲れてしまったので、明日はお休み。キキョウの冒険者デビューは明後日となる。
「私、必要ですか?」
水色の、鉱石のような瞳が俺の目を覗く。
質問の意味が分からなかったので、少し考える。今までコンビでやってきたところに、相方の知人が入る。しかも、その相方はメチャクチャ強い。今までは、魔物の相手に慣れない相方をフォローする、という役割があったけど、次からはどうだろうか。ただの居候にならないか。
そんな風な心配をしているのか?
「いてもらわないと困る」
前に出て戦える神官は貴重だ、多分。
「…そうですか」
アザリーは小首を傾げた後、ニヤリと笑った。
「まあ、頼れる大人として、2人を導かないといけませんからね」
「…お酒はほどほどにね」
「分かってますよぅ」
呑んだくれ神官は手をヒラヒラと振って、神殿へ帰った。
翌朝。
朝食前に鍛錬をしようと宿から出ると、しゃがんで宿の壁にもたれていた。
「む、リークか」
「…ひょっとして寝てたの?」
キキョウの目は、寝起きとは思えないほど鋭い。ほんの少し、眉間にしわが寄っている。
「うむ」
「なんで、こんなところで」
昨晩、キキョウをリナリーちゃんに紹介して、宿の部屋を用意してもらった。まだ空きがあったらしく、喜ばれたんだけど。
「うむ。夜這いを仕掛けてきた、阿呆がいてな」
なんと。十二、三の子ども相手に。いや…この国では十五歳が成人の目安だし、ちょっと若過ぎ、くらいの感覚なんだろうか? 待て待て。夜這いだって?
「大丈夫だったの?」
キキョウが、何かされるところを想像できないけど。万が一ってことが…。
「ふふ。我をどうこうできる奴は、この街ではお前だけだ」
無理です。
「それでな。不埒者を叩きのめしたのだが、その時に部屋を壊してしまってな。泊まる部屋が無くなったのだ」
「部屋を壊した?」
「うむ。不埒者を成敗してやる、と気合が入り過ぎてな」
何と言えばいいのか。
「代わりの部屋が無いからと、宿の家族の部屋に招かれもしたが、流石に忍びない」
キキョウは美人だ。治安が悪く、むさくるしい客の多い宿に泊めることについて、もっとよく考えるべきだった。
「ごめん」
「リークが謝ることではない。鬼人といえど、女一人旅なのだ。危険は覚悟の上だ」
「そうだ。俺の部屋に泊まれば」
「ふむ。一緒に寝てくれるか?」
「うえ゛?」
変な声が出た。落ち着け、子ども同士だ。
「冗談だ。心配しなくてよい。空き家もあちこちにあるし、寝床には困らん。そんなことより」
キキョウは真剣をしまうと、同じ形の木剣を取り出した。軽く振るうだけで、空気が変わる。
「師匠、よろしくお願いします」
「うむ」
今日も元気にボコボコにされました。




