盗賊退治 二
盗賊の根城は、精霊の森に近い林の中にあった。木と木の間にロープを吊るして布をかけたテントで寝泊りしているのだろう。焚火を囲む3人の男は、少しやつれていた。
盗賊がコダストにやって来たのは明らかな失敗だ。ここはグランデ王国の果て。吹雪がやまない精霊の森に入れば、そのまま凍死する。コダストの周辺で盗みや強盗を行えば、冒険者達に私刑にかけられる。
彼らの生きる道は、ここからさらに別の場所へ移動するか、魔物を狩って食いつなぐか。…その僅かな道も、今から俺達が絶たってしまうんだけど。
盗賊は3人とも、ぼんやり焚火を眺めている。ここは精霊の森に近いので、少し寒い。俺達が近くの茂みに潜んでいることに、気付いた様子はない。3人とも武器を手元に置いている。剣、鉈、ナイフとバラバラだけど、それを使わせたらこの依頼のリスクが跳ね上がる。奇襲で2人、混乱しているうちにもう1人を…。
3人の男は、頭がバンダナ、坊主、ボサボサと分かれていたので、そう呼ぶことにする。
切れ味の悪い鉈もあるけど、今日使うのはナイフだ。持ち手に力が入り過ぎないように、ゆっくりほぐす。
すぐ後ろにいるアザリーは準備万端のようで、メイスを軽く持ち上げて頷いた。彼女は人を殺したことがある、そうだ。俺が使い物にならなくなったら、彼女のフォローに期待しよう。
3人の盗賊は互いの背後が見える位置取りだ。ただ飛び出しても奇襲にはならない。なので、焚火を利用させてもらうことにした。
火の属性変換を行った魔力を、焚火まで流し込む。『精霊の目』で魔力の流れを見守り、焚火に届いた瞬間に、一気に流す量を増やした。焚火が瞬時に燃え上がる。
「わっ」
「うおっ」
「んだっ」
3人が焚火から飛び退く。今だ。
俺とアザリーは茂みから飛び出した。俺はバンダナ、アザリーは坊主狙いだ。俺は無防備な背中に抜き身のナイフを突き立てた。肉をスムーズに引き裂く感触。何も引っかからず、心臓まで到達する。
「うお?」
俺がナイフを突き立てたバンダナ頭の男が、青い顔をして振り返る。口から血を流し、それ以上何も言わず男は失神した。こいつはもう絶対に死ぬ、だろう。
近くに、頭部が完全に陥没した男の死体があった。坊主かどうかも分からない。アザリーは上手くやったようだ。あと1人、ボサボサ頭の男。
最後の1人は、仲間の2人がやられた時に逃げ出していたらしい。追いかけようとしたアザリーが諦めた。
そこで、ナイフがバンダナ男に刺さったままだということに気付いた。刺す時は、体が勝手に動いた。こうすれば刺さる、殺せる、というのが分かったから。力を込めてナイフを抜く。ズルズルと、生肉の気持ち悪感触が手に伝わる。
ナイフの抜けた穴から、血がドプリと溢れた。
ゴブリンの時もそうだったけど、死体には全然慣れない。ましてや、人。アザリーは、ちょっと真剣な顔で俺の様子を観察していた。
「どけぇぇぇえ!」
ボサボサ頭の男が逃げた先で、雄叫びが聞こえた。俺が見たとき、丁度男の首が飛んだ。その先には、反りの入った長剣を片手で扱う剣士がいた。その人の右の額から角が突き出ている。…鬼人だ。
剣士は、道着のような軽装だった。魔物がウロつく場所には似つかわしくない。心臓と左の肩だけ金属のプレートで守っている。
剣士はまっすぐ、音もなく俺達の方へ歩いてくる。剣を抜いたまま、油断なく。
うっすら赤茶色で、エルフとは質感の異なる肌。耳よりちょっと下で切り揃えた白い髪。睨むような金色の三白眼。歳は…俺より一つ二つ上の、まだ少女と言ってもよい頃。
何より、何事にも動じないすまし顔と、勝てるビジョンが浮かばない圧倒的な存在感に既視感があった。
「…師匠?」
彼女は、俺が腰からぶら下げている木剣を見た。そして、口の端を、ほんの僅かに吊り上げる。
「リークか」
およそ5年ぶりの再会であった。




