へんなひと
ゴブリン討伐の翌々日。
また路地裏に変な人がいた。仁王像のようなポーズをとって待ち構えている、真っ赤な長い髪の人。両目は不思議な光沢を放っていた。
「そこのお前」
路地裏では、絡まれてばっかりだ。酒代で有り金全部使っちゃった神官がギルドで待ってるし、さっさと通り抜けてしまおう。
気付かない振りをして、変な人の横を通り抜ける。
「む、無視するなっ」
変な人は、すでに泣きが入っていた。なんだか可哀そうになって、思わず足を止めてしまった。
「そう、そこのお前だ」
間のセリフは無かったことにするらしい。
変な人を改めてみると、いかにも魔導士然とした格好というか。黒いマントの下に、金色のひもがじゃらじゃらついた高そうな服を着ていた。シルエットが妙に細い。顔のラインからして女の人、か? 声は少年声というのか、本来高い声を、話し方で低くしているような感じだ。
「何か?」
「ふむん。我輩は、大魔導士イベリス! この地より冬の王の脅威を消し去るため参上した。さあ、疾くと冒険者ギルドへ案内せよ」
何て言った?
「冬の王を倒しに来たのか?」
「応とも」
「分かった。冒険者ギルドはこっちだ」
「お、おう」
歩き出した俺に、変な人は戸惑った。
「どうした?」
「え、いや…対応があまりにもフラットだから」
普通に話せるじゃん。
「嘘なのか?」
「嘘ではない! 我が108の魔導をもってすれば、冬の王など敵ではない!」
「それは頼もしい」
何故か、変な人は口をモニョモニョ言わせ始めた。
「敵ではない、のだが…。冒険者ギルドに行くのは…」
「のは?」
「心の準備が必要だ。もうちょっと待って」
今度こそ、俺は変な人を無視をして冒険者ギルドへ向かった。
「リークさん、何か怒ってます?」
ギルドで待ち合わせたアザリーから聞かれた。
「怒ってないよ」
「え、嘘です。絶対何か怒ってます」
何故か、俺は怒っているように見えるらしい。深呼吸をした。
「ごめん。怒ってないよ」
「よかった~。酒場でリークさんの噂話をネタに酒をせびってたのがバレたのかと…」
「は?」
口が滑った、とばかりにアザリーは口を押えた。
「どういうこと?」
「え…えっと…」
木剣でそっと、ローブの中に隠れたアザリーの利き手をローブの上から抑える。最近気づいたことだけど、この撲殺神官、メイスを握れないと図々しさを発揮できないらしい。
視線で問い詰めること数秒。アザリーは口を割った。
「ゴブリン退治の話とか…色々絡まれた話とか…ちょっと思わせぶりな感じで酒場で話して、お酒を奢ってもらっていました!」
どうも、噂の周りが早いというか。とんでもない尾ひれがついているのに、みんな妙に真に受けているようだったのは…。こいつのせいか。
「お、怒ってます?」
「怒ってるよ?」
思えば。昨日妙に顔色が悪かったのも…。二日酔いか。思わずため息をついてしまった。
「ごめんなさいごめんなさい。つい出来心で」
…間違いなく計画的な犯行だ。思わず、もう一回大きなため息をついた。
取り合えず、『嘘をつかない、思わせぶりなことは言わない』と約束させたけど。どうしてくれようか、この破戒神官…。




