凄腕の若手冒険者の噂
『よっぱらいのゴブリン亭』の看板娘、リナリーちゃんが教えてくれた。コダストの街に、凄腕の若手冒険者がやって来たらしい。全く誰のことだろうね。
ゴブリンを討伐した翌日。アザリーとの待ち合わせのために、ギルドへ向かう。道行く同業者から、チラチラ見られている。明らかに噂が原因だ。
ギルドの前で、アザリーが待っていた。顔はフードに隠れていて、ちょっと絵になっている。正面に立つと、壁にもたれて舟を漕いでいることが分かった。もう昼近いけど。
「アザリー」
「ふわっ?」
声をかけると、アザリーはビクリと体を震わせた。
「あ、リークさん」
アザリーは、水色の目をだるそうに瞬いていた。声もかすれているような。
「おはよう。調子悪いの?」
「いえ、ぜーんぜん」
『うえっへっへ』と小悪党のような笑い声。何かを思い出すように舌なめずりをした。
「そう、か。なら、ギルドへ入ろう」
「はい。お供させてもらいますよ…」
いや今後の方針を決めるんだよ。
アザリーとギルドの掲示板を見ながら話し合ったけど、ほとんど何も決まらなかった。2人とも、魔物に対する知識が無かったからだ。出来るなら、先輩冒険者に教えを請いたいところだけど、ギルドにいた先輩方はみな警戒したような眼差しだった。
仕方なく、『エギナ草を探しつつ出会った魔物を狩る』という、ふわっとした方針だけ決まった。
その後、魔物の討伐証明部位を入れる袋を買うために、道具屋へ向かった。。道すがら、俺はアザリーに気になっていたことを尋ねた。
「なんであんなこと言ったの」
「あんなこと、とは?」
アザリーは小首を傾げた。桃色の髪がモフッと揺れる。
「俺がすごい戦士だと誤解されるようなこと」
「えー。嘘は言ってないじゃないですか」
「少なくとも。アザリーがメイスを隠し持っていなければ、木剣で殴り殺した、なんて誤解はされなかったと思う」
「アザリーちゃんが実は撲殺神官とかキャラ的にちょっと」
「キャラ的?」
「いやー…」
「…?」
あからさまに視線を逸らすアザリーを、ジィーっと見つめる。店を三軒通り過ぎる間ずっとそうしていたら、アザリーが折れた。
「ご飯をね」
「うん」
「色んな人からご馳走になっていたんですよ。貧乏神殿に1人で暮らすか弱い乙女神官…ね、自慢にもなるじゃないですか。『寂しそうにしてたから、飯奢ってやったんだぜ』って」
「うん」
「でも、そんなことずっとやってると、みんな飽きてきちゃうわけで。ちょっとがっつき過ぎちゃったかなーてところもあるんですけど」
「どのくらいそんなことやってたの?」
「2年ほど…」
そりゃ飽きられる。というか、よく2年もやってこれたな。
「というか…お金無いの?」
「無いです…」
太陽神殿って貧乏なのかな。
「まあ信者少ないですし、裕福ではないですね。それでもパトロンはいますし、コダストの神殿にも本部から補助金は出ます」
「足りないと」
「その神殿が食つなぐにはギリギリ足りる感じです。基本、各神殿は自前で収入源を確保する感じですね」
「ポーションとか?」
「そーです。でもこの街エギナ草すっごく高いし、ギルドが大きな街にポーション買い付けるから、作ってもあんまり売れないんですよね」
そういえば、宿の夕食も肉ばっかりだ。何の肉かは知らないけど。
「というわけで。か弱くて可愛くて可哀そうな乙女神官アザリーちゃんが、実はメイスでゴブリンボコせた、なんて知られたら、もうご飯奢ってもらえなくなっちゃうんですよ」
「うん?」
「分かってもらえましたか?」
動機は分かったけど。
「食つなぐにはギリギリ足りるお金、もらってるんじゃないの?」
「あ。それは、その…」
アザリーが言い淀んだ。彼女の視線は、宙をさ迷っている。
「その?」
「……お酒飲んでたら無くなっちゃって」
ダメだこの人。
「あ、神官長みたいな目で見ないでくださいよ!」
その神官長という人は、さぞ苦労したことだろう。
「というかお酒って…」
この国には、子どもの飲酒を禁じる法律はない。けど、飲ませる習慣もない。アザリーは、見た目十二歳くらい。まず売ってもらえるのか…?
「あ、私今季で十七歳です」
「うそ!」
「いやあ、若く見えるんです」
というか、成長が止まっている。ヒューマンにしか見えないけど、純エルフだったりするんだろうか。
「あ、両親は平々凡々なヒューマンですよ」
アザリーは、俺がフードに隠れている耳の辺りを見ていることに気付いた。
「それより、そっちこそいくつなんです? 子どもの振りして、結構いい歳いってるんじゃないですか?」
痛いところを突いてくる。とはいっても、今世の年齢は見た目相応だ。
「十歳」
ハーフとはいえ、エルフの特徴は耳によく出てる。でも、成長の仕方は余り純ヒューマンと変わらない。
「…マジですか」
同類と思われていたようだ…。
道具屋のおばあさんからは、2人そろって子ども扱いされた。




