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氣と魔力と今世の母

 深い深い海の底でずっと息を潜めていた。そこから無理やり引きずり出され、やっと息ができた。そんな夢を見ていた気がする。


 ふと、目が覚めた。長い間、浅い眠りと深い眠りを繰り返していたような気がする。


 今何時だ…。


 枕元のスマホは…。手が動かない。目を開けても、酷くぼんやりとしていて、布団に寝ているのかも分からない。

 ついに過労で倒れて、病院に運ばれたのかも知れない。


 手の感覚、足の感覚がいつもと違う。意識が行き渡らない。師匠に教わった技は忘れても、体を効率よく動かす基礎だけは、かろうじて最後に思い出したのに。

 …最後?


 そういえば、俺は死んだんじゃなかったっけ?


 いや、流石に。あれは夢か。いくらなんでも、生身でトラックを止められるはずがない。きっと、病院のベッドで動けなくなっているんだろう。もしかしたら、全身麻痺状態かも。


 ああ、眠い…。




 短い目覚めと眠りを繰り返した。その間に、おっぱいを吸った。


 …これは生まれ変わりだ。




 そして、気付いたことがある。体の中に、今世とは別のエネルギーがある。生きるだけなら余剰な何か。生産と、体外への拡散を繰り返しているだけの、何か。


 これはひょっとして、氣というものじゃないか。ちょっとワクワクしてきた。


 前世では結局、師匠の技は半端にしか引き継げず、ほとんど身に残らなかった。今世では、何かしらの武術を修められるかも知れない。スポーツでもいい。教わったことを、何かに繋げたい…。


 今から、この氣を操る修練をしておこう。何事も、まずは意識することから。自分の肉体を把握・コントロールする修練と並行して、この未知のエネルギーと向き合ってみよう。




「リィちゃん、ごはんですよ~」


「かあしゃ、おあん」


「ごはんですね~。リィちゃん賢い賢い」


 母さんが俺のオウム返しをニコニコと褒める。舌が全然回らなくて、恥ずかしいので喋りたくない。でも、一言二言喋るだけでも大喜び、逆に黙っていると物凄く心配するので、練習と思って喋るようにしている。


 ヒアリングはもう大体出来ているのだ。後は慣れだ、慣れ。


「はい、今日はエギナ草とニンジンのスープ、全部食べられるかな?」


「えぎなそ、にんいん、あえる」


「ん~~、リィちゃんホント天才♡」


 よ~しよ~しと頭を撫でられる。この世界の文化なのか、母さんは、そぉっと、撫でることを楽しんでいるようにゆっくりと撫でる。まるで、長年家を出ていた子どもが帰って来たように。


 遊牧民族のような、素朴な柄の入ったポンチョの裾をたぐり、母は木のスプーンでスープをすくった。


「はい、あーん」


「あー」


 何かの薬草と、人参のような野菜のスープ。多分塩は入っていない。マイルドな野菜の甘味とほんのり香る青臭さが、びっくりするほど舌にくる。


「おいち」


「うんうん、お母さん一生懸命作ったの」


「あいあと」


「うーん感激。リィちゃんのためなら、いくらでもご馳走作ってあげるからね!」


 母さんは、俺の一言一言にオーバーに反応する。そのお陰で、言葉を覚えやすかった。


「ごちそさあ」


「はい。残さず食べてくれてありがとね、リィちゃん」


 ありがと、と言ったときに、母さんは俺の額にキスをした。とても照れる。


「うー」


「照れちゃった? うん、もっとしてあげる」


 ちゅ、ちゅと降り注ぐキスの雨。正直恥ずかしい。赤ん坊がこんなことで恥ずかしがるのはおかしいと分かっていても、隠せないくらい恥ずかしい。

 母の見た目が若々しいのも、より恥ずかしい。赤ん坊の視点だと大きく見えると思うのだが、15歳くらいにしか見えない。若いというより幼い。


 耳が長くとがっていて、サラサラとした金髪で、透き通るエメラルドの瞳。まるでエルフだ。寿命が長く成長が遅いのか、それとも、若くして母になったのか。

 前世でも、文化が違えば出産年齢も大きく違った。母の年齢を予測するのは無理そうだ。


 窓から差し込んでいた夕日のオレンジ色の光がなくなり、夜になった。


「さて、リィちゃんこれ好きよね」


 天井から吊るされた、逆さの電球のようなもの。円の土台に、クリスタルのような石が張り付いている灯。土台には文字が刻まれている。


 母が土台の文字を指でなぞると、石が淡く光る。母の指先から、目に見えない”何か”が飛び散り、僅かに顔に当たる。その”何か”は、俺が氣だと思っていたものだ。


 ”何か”は、もしかしたら、魔力というものかもしれない。


 毎回、食い入るように見つめてしまい、母にランプが大好きな子だと思われてしまっている。

 本当に興味があるのはその仕組みです。


 魔法。格闘マンガも好きだが、ファンタジーも大好きだった。使えるならぜひ使いたい。しかし、流石に赤ん坊。ねだっても母はこれに触らせてくれないのだ。


「はい、リィちゃんおねむですね~」


 しかも、ご飯を食べたら眠くなる。母に抱きかかえられると、ホッとして意識を手放してしまう…。


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