冒険者ギルド
10/3 本日二話目の投稿です。
いつの間にかアザリアさんに、冒険者ギルドで登録するつもりであることを話していたらしい。彼女に、ギルドまで案内されることになった。
「それで、アザリアさん」
「さ、さん付けなんて止めてください!」
「うん?」
ひどく慌てた様子だ。
「えーっと…。リークさんみたいな勇敢な戦士からさん付けされるなんて恐れ多いです」
「俺はまだ子どもだ。実戦経験もないし、『勇敢な戦士』なんてとんでもない」
「いえいえ、戦士に大人も子どももないです。私みたいなか弱い女の子を、見返りなしに助けに行ける。それを勇敢と言わずしてなんと?」
と? と言われても。アザリアさんの方が身長が高く、何となく諭されている気分になる。
「私のことは、気軽にアザリーちゃんと呼んでください」
年上にちゃんはちょっと…。
「あ。そろそろ、ギルドが見えてきましたよ」
周りの家屋とあまり変わらない、古びた建物だった。剣と杖があしらわれた看板は年季が入っている。隣にガレージのような建物が併設されていて、そこから血の匂いがする。あちらは討伐の報告所だろうか。
両開きの入口は、左側のドアに取っ手がなかった。
「案内してくれてありがとう」
「いいえ、これくらいさせてもらえないと、申し訳なさで体が縮こまってしまいます」
アザリーは、細い体をモジモジさせている。縮こまっているんだろうか。
「では、参りましょうか」
「ん?」
中まで案内してくれるのかな? アザリーは扉を開け、ズンズン進んでいく。続いて中に入ると、無遠慮な視線が突き刺さった。
中は意外に広い。カウンターと、魔物の絵が描かれた紙が張ってある掲示板が奥にある。部屋の隅や壁際で、何人かのグループがコソコソ話し合っている。先ほどのチンピラと大差ない者から、革鎧を着こんだ戦士まで。みんな俺達をジロジロ見てる。
子どもが二人、明らかに場違いだ。
アザリーは迷いなく奥のカウンターへ向かう。俺も気後れしながら付いて行く。カウンターで待ち構えている、二十歳過ぎの女性の視線が厳しい。
灰色の髪を短く後ろでまとめた、目つきの鋭い女性だ。眼鏡が似合いそう。
「こんにちは、レッカさん。今日も太陽の喜びにあふれた日ですね」
「…こんにちは、アザリアさん。暇でしたら、神殿でお祈りでも捧げていてはいかがですか?」
レッカさん、と呼ばれた女性の態度は冷たい。アザリーの笑顔が固まる。。
「えっと…」
アザリーのマントの動きで、メイスに手を伸ばしたのが分かる。待て待て待て。
「いいですか?」
俺は割って入った。
「なんでしょう? 見慣れない顔ですね」
受付嬢、なのかもしれないけど、愛想は欠片もない。
「冒険者になりたいのですが、何か手続きなどは必要ですか?」
「あなたみたいな、子どもが?」
「…ダメなんですか?」
屋敷を飛び出してきたのが完全に先走りになってしまう。
「ダメということはありません。命を投げ捨てようとしているのは、感心しませんが」
「なら…手続きを進めてください」
ジロッと見降ろされる。俺の身長は、椅子に座ったレッカさんより頭一つ以上小さい。
「手続きなんてありません。掲示板に張ってある魔物を狩ったら、体の一部を切り取って隣の買取所に持って行って下さい。腐敗が酷い、魔物の特定ができないなどの理由で買取を拒否する場合もありますが、文句は受け付けません」
なるほど、完全なフリーランスという訳か。
「あと、職業として冒険者を名乗るのは勝手ですが、外でトラブルを起こしてもギルドは関与しませんので」
この人、これを言うためだけにここにいるのか?
「あ、あのっ」
アザリーが声を上げた。レッカさんがスゥーと視線を移すと、ピクリと震える。
「何か?」
「た、太陽神官見習いのアザリーは、リークさんを太陽の誉れある戦士としてギルドに推薦しますっ」
「は?」
「ん?」
何の話だろう?
「ふざけているんですか?」
「いいえ、大真面目です」
アザリーは、言ってやりました、みたいな顔で俺をチラチラ見る。
「まだ冒険者として活動すらしてない子どもに…」
「リークさんは立派な戦士です。この目で見届けました」
チンピラの前でボサッと突っ立っているのを?
「太陽神殿の権威にも関わります。取り消すなら今のうちですよ」
「太陽神殿の一員としての言葉です」
「…はぁ。戦士リーク、あなたを”カッパー”の冒険者として認めます。認証票は後日渡しますから、それまで死なないように」
「待って待って。どういうことですか?」
「そこの神官見習いから聞いてないんですか?」
「何も」
「はあぁぁ…」
盛大にため息をつかれた。
「冒険者の位の話です。最底辺の見習いは、認識票がありません。そこから実績を積み、ギルドが認知した冒険者は、まず”カッパー”の位を与えられます。稀ですが、ギルドが認めるような働きをすれば、そこからさらに”シルバー”、”ゴールド”に上がることもあります」
「上がると何かいいことが?」
「認識票のない冒険者は、外で何をしようと、ギルドは関知しません。腕が無くなろうと、魔獣に食われようと、それはその冒険者が勝手にやったことです。ですが、”カッパー”以上は違います。仮にもギルドの一員ですから、怪我や死亡をした場合は、本人や遺族にある程度の補償金が出ます。また、特定の魔獣の討伐や、未開拓地の調査を依頼することもあります」
つまり、ギルド側から、いわゆる「冒険者」として認められるということか。
「なんで俺が”カッパー”から?」
「それは、太陽神官見習いの私が推薦したから、です」
水色の瞳が俺とレッカさんの間をさ迷う。
「…太陽神殿やいくつかの団体は、この街の維持に協力的です。彼らの推薦は、ギルドからの信用と同じ意味を持つ場合があります」
なるほど。いや、太陽神殿からの推薦って、そんな簡単にするもんじゃなくない?
「アザリー」
「だ、大丈夫です。リークさんは、それに見合った人だって私知ってますから」
俺はそれ知らない。
「はい、リークさんは今から”カッパー”の冒険者です。さっさとゴブリンでもお化けネズミでも狩ってきてください。もう私から話すことはありません」
帰れって言われた。今日ここでやることもないだろうし、さっさと宿でも探そう。
「分かりました」
「あ、リークさん」
踵を返してギルドから出ようとする。と、知らない男に道をふさがれた。
腰に手斧をぶら下げた、蛮族のような男だ。両手に籠手を嵌めているけど、腹はむき出し。腹筋を見せびらかしているのか?
つま先の出たサンダルは、散歩に来たおっちゃんのようなだらしなさがある。
「よぉ、リークちゃん?」
よくよく絡まれる日だ。正直無視して通り過ぎたい。
部屋の隅で、何人かがニヤニヤしながら俺達を見ている。先輩からの洗礼というやつか。
「おい、聞いてんのか?」
俺があんまりビビらないのが不満らしい。俺は演技は苦手だし、ヘコヘコして舎弟になるのも違う気がする。どうしたもんか。
「何か用ですか?」
「何か用だって? おうおうおう!」
全く会話に中身がない。多分、後のことをなんにも考えてないんだろうなあ…。
「あ、そうだ。…いきなり”カッパー”とは上手くやったもんだなあ。アザリーちゃん垂らしこんで。あやかりたいぜ、おい?」
すごく簡単だからやってみればいいと思う。チンピラ相手に木剣を構えて突っ立ってるだけだ。
「あの…」
アザリーが話に入ってくる。ややこしくなりそうだから止めていただきたい。
「アザリー」
「いいえ、リークさん。私でも言うときは言うんです」
むしろ言わなくていい時に言いそう。今とか。
「待って待って」
「いいですか、そこのあなたっ」
聞いちゃいねえ…。
「リークさんは立派な戦士です。あなたみたいな底辺無色とは違うんですっ」
「…無色?」
「はい、底辺の冒険者さんは認識票がありませんから。票が無い、つまり、色が無いから無色。位を持ってる人からそう呼ばれるらしいです」
なんて呑気にしてる場合じゃなかった。外野にゲラゲラ笑われ、男は顔を真っ赤にしていた。
「この野郎!」
俺…?
「先輩に対する謙虚さってもんを教えてやるよ!」
男が振りかぶった拳に対して、カウンターを狙って木剣を構える。が、この男、早い、出遅れた!
「いっ!?」
拳が当たる寸前。男の体勢が崩れる。叩きやすいところに来た頭に、コンパクトに木剣を振るう。
多少力んでしまったけど、狙い通りにゴッと男に当たる。ベタンと男が倒れた。
「おぉ」
「早手のダンをっ」
「あいつ斧使うよりステゴロのがつえーのに」
外野が湧きたっているが…。ダンと呼ばれた男の足の、むき出しのつま先の近くにメイスが転がっている。さぞ、痛かっただろう。
「すごいです、リークさん。私、全然動きが見えませんでした」
それはアザリーが足元を見ていたからじゃないかな?
周囲の視線の質が変わっている。『新顔のクセにやる』と一目置かれたようだ。冒険者生活は、幸先の良いスタートが切れた…と思うことにした。




