閑話 NAISEI
寒季のある日。
「リーク君、ちょっといいかな?」
昼食の後、バードックさんに呼び止められた。
「? はい」
談話室…ではなく、なんとバードックさんの書斎に案内された。
「何事、ですか?」
慣れない”敬語”を使う。フランネルから習っている最中だ。
「そう畏まらなくていいよ。ちょっとローズから面白い話を聞いたものでね。言い出したのが君だというから、詳しいことを聞かせてもらおうかと思ったんだよ」
「…何でしょう」
「領民の、識字率についてだ」
そんな話をしたっけか?
「文字を読める人が多ければ、領の発展につながる。すごい発想だと褒めていたよ? 私も驚いた。文字が読めるのは限られた人間だけだと、当たり前に考えていたからね」
それはそうだ。ヴェスタリア領は温暖な地域で、食べ物に困ることが少ない、と聞いている。それでも子どもは労働力だし、教師なんてお金持ちがなる、お金持ちのための仕事だ。
庶民の子どもに文字を教える人もいなければ、暇もない。はずだ。
…確かにその話はしたかもしれないけど。
「空想の、話です。現実的じゃない」
「確かにそうだ。来年から領内の全ての子どもに文字を教えるなんて、とても出来ない。しかし、仮に領内の全ての人間が文字を読めたら、どんなメリットがあると思う?」
「…職人や、作物を作っている人の経験を知識として共有できる。領内の法律をみんなが知ることができる」
「そうだ。他にも思いもよらないメリットがあるだろう。大商人などは、庶民が知識を持つことを恐れるかも知れないがね」
領主としては、それ以上にメリットが大きい、ということか。
「リーク君。すぐに形になるものではないだろうが、私は今からでも計画を進めたいと考えている。君には、まるで未来を見てきたような発想力がある。それを、私に貸してくれないか?」
「…分かりました」
正直に言って荷が重い。踏み込んだことを言うと、何故そんなことを知っているのか、と疑われそうで怖い。いや、既に疑われているかも知れない。
ただ、俺や母がこれから生きていく世界がより良い場所になるなら、協力してもいいと思った。衣食住全部お世話になってるし…。
「それで、どうやって文字を教える教師を用意すればいいと思う?」
「え…。うーん?」
何かが実るのは、ずっと先だろうけど。




