パパの誕生祝い 四
9/26 2回目の更新です。
エギナの花を摘みに行ってから7日後。温季の始まりから3日経っているが、お祝いは今日まで伸ばしてもらった。
食堂には、俺とローズ、それとバードックさんがいる。
今日は温季のお祝いで、バードックさんの誕生季を祝う日でもある。毎年夕食の席で、ローズがお祝いの言葉を送るだけだったが、今年は違う。
食堂の家長の席に腰掛けたバードックさんのところに、ローズが少しモジモジしながら近寄る。手は後ろに隠して、そこには押し花で飾った便箋がある。
「パパ…いいえ、お父様」
「なんだね、ローズ」
「お父様の、誕生季のお祝いをさせてくださいな?」
「ああ、ありがとう」
内緒でお祝いの準備をするつもりだったけど、ゴブリンのせいでもう知られている。バードックさんはわざと知らない振りをしてくれている。とローズは考えている。
だけど、実際のところは、その前から知っていたわけだ。
俺は、ローズを応援したい気持ちと、バードックさんを責めたい気持ちが混ざりあって、複雑な気持ちのまま、ローズのお祝いを見守っていた。
ローズは怖々、手紙を渡す。
最初は封筒に入れようとしたけど、飾りが崩れそうになったので、仕方なく二つ折りにして渡すことにしたもの。ローズの気持ちがこもっている。
ピラ、とバードックさんは手紙を開いた。文字を目で追う。それは、父が娘の手紙を読んでいるのか、為政者が跡継ぎの出来栄えを確かめているのか…。
いくら何でも考え過ぎか。
「…読ませてもらったよ。ローズの気持ちが伝わってくる、いい手紙だった」
バードックさんの目が潤んでいる。
「お父様。今年も、健康に過ごしてくださいね。私もお父様の期待に応えて、立派な淑女になれるように頑張ります」
「ああ…」
「お仕事も大変でしょうけど、お酒はほどほどになさってくださいね?」
「ああ…」
バードックさんは今にも泣きそうだ。
バードックさんは、手紙から視線を上げると、俺の方を見た。
「君にも、お礼を言わないといけないね。ローズを守ってくれたことも、だが、ローズがこんな思いやりにあふれた手紙を書けるようになったのは、君の影響もある」
「いえ…」
「もう、お父様。リークは、か、関係なくはないかも知れないけど…お勉強を教えているのは私のほうなのよ?」
「はっは。リーク君とは、場を改めて話をしようか。それから、ローズ…もうパパって呼んでくれないのかい?」
「淑女が使うには子どもっぽ過ぎるわ」
「そうか…」
娘の成長は嬉しくもあり、寂しくもあり。バードックさんはそんな顔をしていた。
「さて、夕食にしようか。リーク君はパワー家の祝いの席は初めてだったね。今日は家族のためのお祝いだから、細かいマナーは気にせず、好きに食べて欲しい」
「リーク、デザートの分の余裕も残しておくのよ?」
…お祝いの場で、考え込むこともない。素直にご馳走を頂こうか。
肉料理、魚料理、野菜料理。色んな料理が少しずつ出された。最後のデザートは、なんと果物のソルベ。魔導士の料理人にしか作れない、魔導で冷やされたものなんだそうな。
豪勢な夕食が終わり、ローズが私室へ戻った後、俺はバードックさんに呼ばれていた。普段使われない談話室で、話があるという。
談話室に訪れると、バードックさんはローズの手紙を読んでいた。
「ああ、待っていたよ」
バードックさんは、手紙を置いて俺を向かいあう椅子へ座るよう促す。彼は、俺が椅子に座るのを待って口を開いた。
「改めて、お礼を言おう。娘を守ってくれてありがとう」
「いえ…。どのみち必要のないことだった」
「それでも、だよ。娘を守ろうとしてくれたことにお礼を言いたい」
「分かった」
「…リーク君の目には、私は酷い父親に見えているのかな」
「少し。俺を試したことについてはなんとも思わない。けど、今回じゃなくても良かったんじゃないか」
「確かに、君を試すだけなら別の機会でも良かった。しかし、ローズとリーク君の仲を深めるためには最適の機会でもあった。君が仕掛けに気付いてしまうのは誤算だったが」
「ゴブリンの使い方が…杜撰だった」
「急ごしらえの計画だったからね。それに、本当はフランネルが途中で助けに入る予定だったのだが…君の勇敢さを見て、遊んだのかも知れない」
そうだ。フランネルが街道で待っていたから、俺は確信した。そうなると、フランネルは主人の命令を無視したことになる。
「彼女は人種とは違うルールで生きている。ほどほどに言うことを聞いてもらえれば、あとは好きにやってもらった方がいい」
執事は趣味とか言ってたしな…。
「さて、本題に入ろうか。君を呼んだのは、君の行いを労うため。そして、娘が大人になるまでこのことを黙っていて欲しいという、お願いをするためだ」
「お願いを、聞かなかったら?」
「君がそう決めたのなら仕方がない」
ローズのことを考えたら、言えるわけがない。
「賢く、思いやりがある君を見込んでのお願いだよ。話は聞いたが、君はフランネルにも大分買われている」
「お願いなんてされなくても、言えるもんか」
「すまない。口止めという訳でもないが、私も君のお願いを聞こう」
「母さんに会わせて」
「…それは、私の力ではどうしようもない」
「それなら…強くなりたい」
母さんに付いていけるように。
「分かった。君の剣の相手を探しておこう」
実戦に勝る鍛錬はない。相手がいるなら大助かりだ。
「ところで…以前は誰に師事していたんだね?」
「武芸百般・キキョウ」
「ふむ…? 確かカエン殿のご息女もそんな名前だったはず…」
「カエンさんの娘のキキョウで合ってる」
「なっ!?」
バードックさんは椅子から飛びのいた。
「”鬼神”・カエンの娘から剣を教わっていたのか?」
「うん」
「相手探しは慎重に行うことにしよう…」
バードックさんは、いっきに疲れたように、談話室からフラフラと出ていった。
俺もなんだか疲れた。為政者モードのバードックさんとは、正直もう関わりたくない…。
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