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パパの誕生祝い 一

 屋敷での生活が始まって10日ほど。体力も戻ってきたので、鍛錬を再開した。師匠の教えたことを思い出しながら、型をなぞる。型をなぞることで、剣を持った時の体の使い方を再確認する。クセがつかないように、丁寧に。


 戦闘の訓練は難しいので、そちらはイメージトレーニング。師匠の圧倒的な強さは、今でもしっかりと記憶に残っている。

 小石を投げる練習も続けている。


 午前中は鍛錬、午後は勉強。フランネルが文字を教えてくれるから、簡単な本を読んでいる。

 森にいた時と違って、生活のためにすることや、大人の仕事を手伝う必要がないので、時間はたっぷりある。『リーク様の仕事はボクたちの仕事を増やさないことですかね』と言われた。お客様待遇は暇なのだ。


 ローズは、ずっと勉強と習い事らしい。魔導の授業だけは同席させてもらってるけど、他の授業は勧められなかったし、受けたいと思わなかった。多分ついていけないだろう。


 たまにローズに暇な時間があり、勉強用の部屋に拉致される。そこで、授業で習った内容を簡単に教わる。俺に物を教えるのが楽しいみたいだ。得意げに個人授業をしてくれる。そこで俺がちょっと突っ込んだ質問をすると、次回までに答えを用意してくれる。

 ローズ自身の勉強にもなっている、とフランネルさんが教えてくれた。


 護身術の授業だけ、参加してみたことがあった。ちょっと体を動かしただけで、教師から『君は受ける必要がない』と窘められてしまった…。




 鍛錬は中庭の隅でやらせてもらっている。中庭は、花壇に囲まれた広場となっていて、立食パーティーなどで使うこともあるそうだ。


 寒季も終わり、大分温かくなってきた。午前の鍛錬を終えると、じんわり汗をかいている。


 フランネルさんから、着替えと湿らせたタオルをもらい、中庭から一番近い小部屋で着替える。部屋から出ると、ローズが待ち構えていた。


「…? こんにちは」


「ええ、ごきげんよう」


 何か用だろうか。それと、まだ授業の時間じゃなかったか?


「授業は?」


「先生にお願いして、お休みにしてもらったわ」


「そうなんだ」


「…っ」


「…?」


 俺がボーっとローズの話を待っている間、ローズは不機嫌そうに口をモニョモニョさせていた。何か言い辛いことがありそうだ。


「あなた、あのお…かあさまの誕生祝には何をしたの?」


「!?」


 …答えは、何も、だ。それを聞かれると痛い。母には貰うばっかりで、何も返していない。母の生まれは温季。毎年言葉でお祝いしていたが、それだけ。与えられるばかりで満足してしまっていたのだ。


「そんな思いつめた顔をしないで…悪かったわ」


「いや…」


 俺の幼稚さがの問題だ…。


「いっそ、丁度いいかも知れないわね」


「どういうこと?」


「パパが温季の生まれなの。毎年ささやかなお祝いをしているのだけど、自分で何かをしたことがなくて…」


 俺と同じ…。


「今年は、何かしてあげたいと思ったのよ。それで、あなたはどうしているのかなって。けど、あなたも同じなら、一緒に考えるのはお互いのためになるかも知れないわ」


「協力しよう」


 俺はローズの手を取った。


「えっ」


「子ども二人で何ができるかは分からないけど、出来る限りのことはする」


「あなた、お母様のことになると積極的ね…」


 それはお互い様。


「でも温季のお祝いって、もう過ぎてない?」


「うちは、温季のお祝いは街で領民とやって、温季の誕生祝いは家族とやるの。誕生祝いの方は、リークが落ち着いてからやることになってるわ」


 なるほど、つまり前世での誕生祝いに近いものか。


「ローズの誕生祝いはどんな風に?」


「私は…お夕食に特別なケーキが付くわ。あと、お手紙とプレゼント」


「手紙?」


「うん。今年も健やかに過ごしてくれてありがとうって」


 ローズは少し照れくさそうにしていた。


「あなたの方は?」


「夕食にデザートが付いて、あとはおまじない」


「おまじないって?」


「多分、手紙と似たようなもの。精霊と祖のエルフにお祈りする」


 家庭環境で結構差がある。けど、どちらの親の気持ちも一緒みたいだ。


「手紙と、プレゼント?」


「やっぱり、そうなるのかしら。でも、プレゼントって…」


「難しいの?」


「買い物って、どうすればいいのかしら」


 なるほど…。俺もお小遣いをもらったことがないし、初めてのお使いもまだだ。所詮は五歳児、社会経験が物凄く少ない。


「どうしよう」


「どうしようかしら…?」


 二人して、頭を抱えてしまった。


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