人見知りのお嬢様と後ろをついてくる執事 二
ベッドに寝っ転がって母のことを考えていると、ノックの音が聞こえた。
「はい」
ドアが音もなく開き、部屋へフランネルさんが入って来た。指を綺麗に立てて、トレイを支えている。
「エギナ草のスープをお持ちしました」
涼やかで不思議と色気のある声だ。俺より三、四歳年上のように見えるけど、雰囲気や態度はもっと大人びている。
「ありがとう、フランネルさん」
「リーク様。よろしければ、”ボク”のことは『フランネル』とお呼びください。人に使われる立場、というものを楽しんでおりますので」
妙な言い回しだけど、仕事を楽しめるのはいいことだ。
「分かった、フランネル」
「ありがとうございます」
トレイをサイドテーブルに置いたフランネルは、俺が体を起こすのを手伝ってくれた。彼は椅子をベッドのそばに持ってきた。そのまま椅子に座り、スープ皿とスプーンを手に持った。
「お食事のお手伝いをしましょう」
五歳になってそれは、少し恥ずかしい。
「一人で食べられる」
「そうかもしれませんが、もしお召し物やシーツにスープをこぼした場合、洗濯するのはボク達使用人です。出来れば、やらなくていい仕事を増やしたくはありません」
「分かった…。手伝い、お願い」
「かしこまりました、リーク様」
パワー家のスープは豪華な味がした。使ってる調味料の種類が多いんだろうか。
「おいしい」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があります」
「フランネルが?」
「はい」
母が帰ってきたら、我が家の味のエギナ草のスープの作り方を教えてもらおうかな。
間に会話を挟みながら、スープを完食した。
「食欲はあるようですね」
「うん。まだ食べられそう」
「急いでも良い結果に繋がりません。少しずつ、元の食事に戻していきましょう」
「そうだね」
フランネルは一礼すると、トレイをピンと指を立てて支えながら退室した。
「ふぅ…」
空腹で起きていられたが、食べ終わると急に体が重くなる。また寝てしまおうか。
ドアの方から、軋むような音がした。ドアが薄く開いている。誰かが部屋を覗いていた。女の子だ。黄金のようにキラキラ輝く髪が目立つ。隠れてるつもりなんだろうけど、顔が完全に見えていた。
バッチリ目が合う。バードックさんから聞いてた娘さんかな?
女の子は慌てて逃げ出した。足がもつれそうで…あ、転んだ。




