冬の王
雪が降っていた。
生まれてから5年経つけど、この森で雪が降るのは初めて見た。森が白く染まっていく。
「この白いのはね、リィちゃん。”雪”っていうの」
歩く籠の中からボーと空を見上げていたら、母が言葉を教えてくれた。身に染みるような寒さに参っていたので、母の優しさにホッとする。
キキョウと別れて半年。鍛錬をしたり、母に魔力の性質について教わったり、森のことを教わったりしている内に、温季はすぐに過ぎ去っていった。そして、また寒季が来た。今年の寒季はいつもよりずっと寒かった。そして、終わりが見えない。
寒季の半ばを超えてから、母は心配そうに空を見上げることが多くなった。いつまでも温かくならないことを気にしていた。
空を見上げた後、必ずチラリと俺を見る。今にして思うと、五歳の子どもの体を心配していたのかも知れない。
ある日、母は旅支度を始めた。『知り合いの家に遊びに行くわよ~』と言われた。
家を出て半日もしないうちに雪が降り始めた。母は悔やむように唇を噛んだ。
籠には、母特製の蛇腹のカバーが被せられ、前世のベビーカーのような見た目になっている。タイヤではなく四本足だけど。
雪が降り始めてすぐ、母は俺に布袋をくれた。温かい石が入っていて、魔力がきれない限り、ずっと温かいままのものだそうな。魔力式のカイロだ。
たまに、母が籠の中を覗いて俺の様子を見る。暗くなった森で、ランプに照らされた母の金の髪は、雪景色の中で際立って美しかった。
「リィちゃん?」
母の声が、少し遠い。籠から抱き上げられ、母のマントの中で抱っこされた。自分で歩けるようになってからは、母の抱っこは断っていたなあ。あったかい…。
…どこか、雪の降らない場所に着いたのが分かった。母の縋るような訴え。大人が何人かいて、慌てた声がした。ドタバタと運ばれ、柔らかいベッドへ横たえられた。
母に悲しい思いをさせてしまったことが、悔しい。




