11.覚めない夢は夢ではない。
「あら、あなたお帰りなさい。さっき、レミは無事に帰ってきたのよ。」
「ああ、そうだったか。それはよかった。
ところで、そこでシチューを食べている可愛らしい子は?」
「マコトちゃんよ。森の中で困っているレミを助けてくれたの。」
自分で話さなくてもマーサが説明をしてくれるので、助かる。
しかし父親が帰宅したのに、挨拶もなくシチューを頬張っているのも
失礼かと思い、口に入れていたシチューを飲み込んで、立ち上がる。
少し女性らしい仕草をしてみるか。
ワンピースの裾を少しつまんで、漫画で見たお嬢様のように
挨拶をしてみる。
「初めまして、レミのお父さん。マコトといいます。」
レミの父親はそうした俺の様子を、しばらくぼーっと眺めたあと、
はっと我に返り、挨拶をしてくれた。
「初めまして、マコト。僕はタミル。レミを助けてくれてありがとう。」
「あなた、マコトちゃんが可愛いからって、じーっと見過ぎよ。」
「え、いや、違う。いや、可愛いことは違わないんだが。」
中身は男ではあるが、少女となっている今、可愛いと言われると悪い気はしない。
かっこいいと言われたらお世辞でも嬉しいのと同じだろう。
マーサとタミルも席について、四人で食事をとる。
食べながら、レミが俺と出会った時の様子を説明し始めた。
「それでね、マコトはすごいんだよ。
私を抱えたまま、崖の上へふわっと浮き上がったの。」
するとその話をきいていたタミルが、
「ふむ。マコトは身体強化の魔法が使えるのかな?」
「身体強化、ですか?」
「違うのかい?レミを抱えて飛び上がったということは、
足の力を強くして、ジャンプしたんじゃないのかい。」
自分が使う魔法とは違う魔法体系まであるとは、
なんとも細かな設定の夢だ。読みまくった異世界転生小説の
賜物だろうか。
「身体強化の魔法ってどういうものですか。」
「身体強化はね、自分の体の一部の能力を一時的に強くするんだよ。
足を強化して早く走ったり、腕を強化して重いものをもったりね。
僕も少し使えるんだよ。」
「なるほど、それは便利ですね。」
「ただ、加減によっては激しい筋肉痛になったり、しばらく力が
入らなくなることもあるから、注意が必要なんだよ。」
「そうなんですか。私は少し違う仕組みで、浮き上がったので、
筋肉痛は大丈夫です。」
そう言うと、タミルは少し不思議そうな顔をした。
「そうなのか。僕は身体強化以外は知らないから、そんな魔法もあるんだね。
もし、変わった魔法が使えるなら、あまり人には言わない方がいいかもしれない。」
なるほど、今の俺は小さな女の子だ。
変わった魔法が使えるとわかれば、利用しようとする輩が近づいてくる
こともあるのだろう。
「そうですね、気をつけます。ありがとうございます。」
外も暗くなっているしぜひ泊まっていくように、というマーサの
力強いお誘いを受けて、今宵はお世話になることにした。
といっても、明日になればこの夢も終わっているのだろうが。
本当に食べたり、話したりしたような不思議な夢だった。
久しぶりにこんなに会話をした気がする。
現実でも、もう少し自分から何かをやってみようかな・・・
そんなことを思いながらベットで目を閉じ、眠りについた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「マコト、おはよう。朝だよ!」
レミの声が聞こえる。
目を開けるとボブカットの少女が俺を見下ろしている。
自分の手足を眺めると、昨日と同じ小さな手足が見える。
・・・夢が、覚めていない。




