9.レミのお母さん。
「ここが私のおうちだよ」
と、レミが扉を開けて、私を招き入れようとしてくれる。
「レミッ!!」
扉の向こうから女性の声がする。
ダダッと駆け出す音が聞こえて、扉を大きく開いた。
家の中には慌てた様子の女性が立っている。
「レミ、こんなに遅くまでどうしたの。いつもは日が暮れる前に帰ってくるのに。」
「お母さん。ただいま。遅くなってごめんなさい。」
「無事に帰ってきてよかった。あなたを見かけていないか、お父さんが
近所の家に聞きにいっていたところよ。」
歳は三十前後だろうか。レミとよく似た色の髪が、肩の下まで伸びている。
本当にレミのことを心配していたのだろう。
無事な様子がわかると、顔から焦りが消え、和らいだ顔つきで話しかけている。
二人のそんな様子を見ていて、ほっこりとしていると
母親と目があった。
「レミ、その女の子は?」
扉の外にたたずんでいる私に気がついた母親がレミに問いかける。
「えっと、森の中で足を踏み外して崖の下に落ちてしまったの。
上がれなくて困っていたら、マコトがきて助けてくれたの。」
「まぁ、そうだったの。レミ、落ちて怪我はしていない?
マコトさん、レミを助けてくれてありがとう。
あぁ、外で待たせてごめんなさいね。狭い家だけど、中へどうぞ」
「ありがとうございます。おじゃまします。」
扉の内側には敷物があり、その上に靴が置いてある。
レミも靴をそこに置いて、家の中に入っていった。
なるほど、家は洋風だけど、靴を脱ぐ習慣があるのだな。
もともと裸足の俺は、とりあえず足裏をはたくような動きをしてから
家の中に上がらせてもらうことにした。
別に汚れていないんだけどね。
「あれ、マコトちゃん。あなた、靴は・・・?」とお母さん。
「えーと・・・・裸足できたので。
その、すみません。あの、足は汚れてはいませんので・・・」
「汚れているとか、そんなことはいいの。森から裸足で来たの?
痛かったでしょうに。」
「あっ・・・マコト。ごめん、私、気がつかなくて。足、痛かったよね。」
レミが涙ぐんでこちらを見つめている。いらぬ心配をかけてしまった。
「あのっ、大丈夫なんです。痛くはないんですよ、本当に。
私の足は特殊といいますか、なんといいますか・・・」
本当になんといったものだろう。浮かんでいるので、と素直に言えば
どんな反応が帰ってくるだろうか。
わたわたと答えを返していると、母親が部屋の奥のカゴから、
小さな靴を持ってきた。
「マコトちゃん、この靴、レミのお下がりだけどよかったら、
貰ってもらえるかしら。」
なんと。これは嬉しい。靴はなくても歩けるのだけど、
靴があったほうが、見た目が自然だ。いらぬ心配もかけない。
「いただいていいんですか。」
「もちろん。使ってもらえると嬉しいわ。」
レミと、お母さんが揃ってそう言ってくれた。
お言葉に甘えていただくとしよう。
「ありがとうございます。じゃあ、帰りに早速使わせてもらいます。」
「さあさあ、どうぞ椅子へ座って。大したおもてなしはできないのだけれど、
せめて晩御飯くらいはご馳走させてちょうだい。
ご両親への連絡は大丈夫かしら。」
これは、説明したら、また微妙な顔をされるやつだろうか。
レミに伝えている以上、誤魔化しても意味はないよな・・・。




