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第6話 人類最強、謁見する

 俺は魔物の王都襲撃、そしてメリーの弟子入りというイベントを無事消化した。異世界生活今のところ順風満帆です。


 さてと、これから王様と謁見していよいよ魔王討伐の旅に出るのか。いや〜弾む心を抑えきれませんなっ!


 魔王討伐の旅は恐らく少数精鋭のパーティーが組まれるだろう。そのメンバー構成はきっとこうなるはずだ。

 まずはアリス・ブクマクレ・テンプレート

 彼女は確実にメンバーに入るはずだ。金髪碧眼美少女である彼女は魔王討伐の旅に絶対に欠かせない存在だ。何故なら可愛いから。王族である彼女が魔王討伐などという危険な旅に出るものなのか? という常識的な疑問は一切関係ない。何故なら、可愛いからッ!!


 そしてメリーシュカン・ソウクレ。

 彼女もメンバー入り確実だろう。彼女は今や俺の弟子だ。きっと俺が魔王討伐の旅に出ると言ったら「弟子である私も旅に同行するのは必然」とか言って付いてくるに違いない。まぁ、メリーはかなり強いらしいので、戦力としても十分期待が持てる。


 あとメンバーとして考えられるのは、未だ見ぬエルフっ子とドワーフ娘だろうか。

 魔法と弓矢の名手であるエルフは、森の精霊という名の通り、神秘的で知性溢れる表情をしているはずだ。そして、体型はスラッとしていてスレンダー。普段はクールに振る舞うが恋愛には疎く、そういう事があるとすぐに赤面してしまう。


 はぁ〜、堪らんッ! 堪りませんなッ!!


 ドワーフはエルフと違って、背は低くグラマーな体型。つまりロリ巨乳! もうそれだけで正義! 鍛治関係に強く、戦うときは斧を使う。ちょっと頑固なところがあるが、想う気持ちは熱く一途。


 ……誰か! 誰か俺の妄想を止めてくれっ! 俺旅に出たい! 一刻も早く旅に出たいッ!!


 俺が一人部屋で悶絶していると、コンコンと扉をノックする音が響く。「どうぞ」というと、メイドの女性が一人入ってきた。


「勇者ケイ・ナロ様。謁見の準備が整いました。どうぞこちらへ」


「分かりました」


 俺は若干ニヤついていた己の顔を引き締めて、精強たる勇者の表情を作る。


 そこの可愛いメイドさん。あんまり俺に近付き過ぎると、火傷するぜ?


 と言うわけで今、俺は王城にいます。

 王都の城壁で、圧倒的な魔法で魔物達を殲滅した。と言う話はもう広がっているらしく、城壁から王城に向かう途中の道のりは、それはもう熱狂的な王都民から声援を受け続けた。


 俺の勇者としての株がうなぎ登りだなこりゃ。


 案内のメイドさんの後を歩きながら、俺が内心でニマニマしていると、やがて大きな扉の前にやってきた。扉の両隣には、甲冑で身を固めた騎士が立っている。

 二人の騎士は、俺の姿を確認すると扉を押しあける。

 ガチャンという音と共に、巨大な扉が開き、奥に続く謁見の間が見える。部屋中央には赤い絨毯が敷かれていて、その奥の数段高くなった場所に、豪華絢爛な椅子が置いてある。


 なるほどあれが玉座か。そしてそこに座ってるおっさんが王様だな。さすがはアリスのお父さんなだけあって、中々にイケてるダンディオヤジですな。まぁおっさんに興味はねぇからどうでも良いけどね。


 俺は真紅のカーペットの上を歩きながら、色々と観察をする。

 王様の隣には3人の美女が立っている。その内の一人がアリスという事は、恐らくは王女達なのだろう。俺と視線のあったアリスが、胸の前で小さく手を振りながら微笑んできた。ヤバイです。可愛いです。


 ふむ、あれがアリスの姉さん達か。二人とも案の定美人だな。しっかり者だけど天然の第一王女、悪戯好きのヤンチャ第二王女、と言ったところか。さしずめアリスは甘えん坊の第三王女ってところかな? うん、可愛いです。


「勇者よ、よくぞ我王国の召喚に応じてくれた。そして魔物撃退の件、大儀であった。そなたの功績に心からの感謝と敬意を」


 国王はそう言うと、玉座から立ち上がって俺の前まで来て、なんと頭を下げてきた。


 むむ、このおっさん国王の癖に中々人ができている。賢王というやつだ。


 国王が頭を下げたことで、周りの臣下達がざわついている。しかし、当の国王はそれを一切気にしようとしない。


「そなたが迅速に魔物を撃退してくれたおかげで、この王都は未曾有の大惨事から逃れる事ができた。ありがとう」


「国王様、どうか頭をお上げください。俺は勇者として当然のことをしたまでです」


 謙虚さ大事。それだけで周りの評価がググンと上がります。


「おぉ! なんと心の広い言葉!」


 ほらね。人は常に謙虚堅実であれってね。


「そんな勇者の言葉に甘え、折り入ってお願いしたい事がある」


 遂に本題突入ですか? 魔王討伐ですか? ぜとも受けさせて貰いますとも、快諾しますとも。あ、討伐メンバーの選考には俺も参加させていただきたいです。


「国王様の願いとあれば、このケイ・ナロ。どんな事でもお引き受けいたしましょう」


「うむ。その言葉、なんと心強い」


 国王は下げていた頭を上げて、まっすぐ俺と目を合わせる。


 さすが国王という地位についている男、中々に眼力が凄い。いや、別にビビっちゃいませんよ? えぇ、ビビってませんとも! なんたって俺、勇者だから。人類最強の勇者だから!


「勇者ケイ殿。そなたに魔王と戦っていただきたいのだ」


 遂にきました! 頼まれちゃいました魔王討伐!!

 さぁ! ここからいよいよ、俺の魔王討伐ハーレムパーティーの旅路の始まりだぜっ!


「分かりました。私も勇者として召喚された身、その役目、謹んでお受けいたしましょう」


 俺の言葉に、国王は満足そうに頷いて笑みを浮かべる。俺も内心で「ぐへへぇ」と笑みを浮かべる。

 おっといかん、内心の下品な笑みが外に漏れ出るところだった。ここには将来の嫁候補であるアリスもいるのだ。クールに決めていかないといけない。


 それにしても楽しみだなぁ! この先の旅では、様々な困難が俺達に降りかかるだろう。しかし! そのことごとくを俺が颯爽と解決していく! グングン上がる俺の好感度ッ! 魔王を討伐する頃には全員俺にベタ惚れ! 最ッ高です!!


「ケイ殿。よくぞ言ってくれた!」


 国王は俺の手をガシッと強く握ってきた。

 あ、すんません。俺おっさんに手握られても嬉しくないんで。

 

「それでは早速、この儂が直々に魔王の元へと案内しよう」


「はい! お願いし……え?」


 今このおっさんなんて言った?

 なんか、まるで散歩にでも行く感じで、案内しようとか言い始めたんすけど? 頭大丈夫この国王様? あれかな、魔王軍に追い詰められすぎて正常な思考回路が失われちゃったパターンかな?


「ではケイ殿。儂の後についてくるが良い」


 あ、ちょ! 待ておっさん! 待ってください国王様! 説明を! 俺に説明をしてくれ! あ〜あ、行っちゃったよ。くそう、もう着いていくしかないじゃんかよ。


 俺は若干口を尖らせながら、謁見の間を後にした国王の後を追った。


 全くもう、今まで順調にテンプレ街道を進んでいたのに、とんだイレギュラーだよあの国王。このままじゃ、俺のハーレムパーティーから一変して、むっさい男どものサバイバル冒険譚になっちゃうよ。誰もそんなの望んでないし、需要もないぞ。


 俺がブツクサと内心で文句を垂れながら、迷いなくズンズンと突き進む国王の後を着いていく。てかこの国王様、護衛とか一切つけずに行動してますけど、良いのこれ? いくら王城内と言っても不用心すぎない? もし俺が勇者を騙った暗殺者だったら、簡単にサクッといけちゃうんですけど。もしかして、俺試されてます? さすがに、王様暗殺なんていう暴挙に出る勇気はないよ俺?


 そんな事を考えている間も、国王は全く歩みを止めずに進み続ける。そして気がつけば、周りの装飾などが壮麗なものから、重々しく重厚なものへと変化していた。

 今まで廊下の壁には窓が設けられていて、そこから燦々と太陽の光が差し込んでいた。しかし、今はその窓がなくなり、代わりに等間隔に設置された松明が、唯一の光源となっている。そして、廊下の空気は流れがなく、ドッシリと重苦しくて湿っぽく若干カビ臭い。


 ここは王城の地下かな? なんだろうこの重苦しい雰囲気は。まるでダンジョンのラスボス部屋前の様な雰囲気がある…………はっ! なるほどそういう事か!!


 俺は閃いて、掌に拳をポンと打ち付けた。


 今まで素直なテンプレが続いていたけど、今回はちょっと変化球というわけだ。なるほどこういうパターンできたか。


 俺が納得した展開。それはズバリ、魔王が封印されているパターンだ。

 きっと、この廊下の先にある部屋には魔王が封印されているはずだ。恐らくは、かつての勇者か賢者あたりが、強大な魔王と戦ってこの王城の地下深くに封印したのだろう。しかし、長い年月が経ち封印の力が弱まって、再び魔王が放たれようとしている。もし放たれてしまえば、この王城と王都は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと様変わりしてしまうだろう。


 そこで俺の出番と言うわけだ。封印が弱まって外に出そうになっている魔王を今度こそ倒そうって魂胆だ。


 なるほどなるほど。いや、これはこれでありですよ。確かに美少女達と旅をできないのは残念だけど。さっさと魔王を倒して、その後でスローライフとして美少女達と和気藹々と冒険者ギルド暮らしをするのでも全然良いしねッ!


 さっきまでの重かった足取りが嘘かのように、俺は軽快な歩みで国王の後ろをついていく。なんならスキップでもしたい気分です。

 と、遂に二人は重厚そうな鉄製の扉の前へとたどり着いた。


 おぉ! なんかそれっぽい! 良い感じに『封印の扉』感が出てるぜ!


 今俺の前にある鉄製の扉は、アーチ状の両開き型だ。その扉の表面には、難解そうな文字やら幾何学模様が隙間なくびっしりと描かれていて、いかにも封印の術式ですよって感じをプンプン匂わせている。


「ケイ殿。ここが魔王の間となっておる。心の準備は良いか?」


 国王の言葉に、俺は口角をニィと上げて不敵な笑みを浮かべる。


「心の準備など、この世界に来た時から、既に出来ていますよ」


 俺は笑みを浮かべたまま、両腕を前に突き出し、扉を押し開ける。

 一瞬、格好付けて開けようとしたけど封印の所為で開かなかったらどうしよう。と言う不安が脳裏をよぎったが、その心配は必要なかったようで、扉はギギィーーというちょっと油の切れた金属同士の擦れる音と共に、ゆっくりと開いた。


 魔王の間は、結構広い広間になっていた。

 壁には廊下よりも狭い間隔で松明が設置されているが、そこに揺らめく炎は廊下の橙色ではなく冷たい青色をしていた。その所為なのか、広間全体が冷たく重苦しい雰囲気に包まれている。

 その異様な雰囲気の広間の中に、“奴”はいた。

 広間の中央に静かに佇みながらも、圧倒的な存在感を放っている“奴”は俺を確認すると、静かに口を開いた。


「よく来た勇者よ。お主のその勇気を妾は賞賛しよう」


 決して大きくはない。むしろ静かな口調。だというのに、俺の耳にはまるで雷鳴の如く鳴り響いた。


「さぁ勇者よ。お主の力、この魔王がしかと見極めさせて貰うぞ?」


 そう言い、魔王は自身の傍に刺していた槍をゆっくりを引き抜き、それを俺に構える。

 魔王の得物は槍か。でも見た感じ普通の槍ではなさそうだ。何やら宝石の様な物も嵌め込まれているし、きっと杖としての役割も果たしていると思う。となると、中距離と遠距離に死角は無いって事か。これは厄介だな。

 俺はそんな分析をしながらも、体の方は一切動かさない。いや、動かせなかった。

 それを見た魔王は、ほくそ笑みながら口を開く。


「どうした勇者。妾の力を前に怖気ついたか?」


 その魔王の挑発にも、俺は反応することができなかった。

 何故なら俺は、あまりの衝撃で身動き一つ取れない状態だったからだ。

 この時、異世界に来て初めて俺は不安に駆られた。


 この魔王を倒せだって? 無理だ。俺にそんなことは出来ない!


 俺は言う事を聞かない体に鞭打って、視線を魔王へと向ける。


 だって………だって…………。








 この子、俺の超どストライクなんですけどおおおぉぉォォーーーー!!!!




 俺は今、自分の好みど真ん中の敵を前にして、絶体絶命のピンチに陥ってます。

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