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第5話 人類最強、弟子をとる

 大魔法を放った後の余韻に浸りながら、俺は「皆んなどうしたの?」といった表情を作る。


「ケイ様……一体あの魔法は、何なのですか?」


「あんな魔法見た事ない。しかも無詠唱」


 二人が俺に対して説明を求めてくる。


 あぁ、やっぱり普通の魔法は詠唱するもんなのね。でもさすがに詠唱はな〜、ちっと恥ずかしいな〜。


「今の魔法は、水素っていう元素と酸素が反応して起きる爆発反応を利用したものなんだけど、この反応を化学式にすると2H₂+O₂=2H₂Oってなって、水ができるんだけど。この出来た水は凄い高温ですぐに解離しちゃって、代わりに水素や酸素、あとは水酸化物イオンとかが出来るんだよね。で、これらが連鎖移動反応、連鎖分岐反応、気相停止反応とかが起きるわけ。あ、これらの反応をそれぞれ化学式にしてみると、まず連鎖移動反応がOH+H₂→H₂O+Hで、連鎖分き…」


「ちょっ、ちょと待って下さいませケイ様! あ、あの……私達にはケイ様が何を仰っているのか理解できません……」


 申し訳なさそうなアリスの隣では、メリーが目をグルグルと回しながら「スイソ……カガクシキ……サンソ……」と、うわごとを浮かべていた。


 メリーってもしかして、アホの子なのかもしれない。


 でもやはり、俺の予想通りでこの世界の物理化学は、地球のものと比べるとかなり見劣りするようだ。ほとんど研究されていないと言っても過言ではないだろう。かりにも、地球の中世と同レベルの文明を築いているのにも関わらず、それはちょっと不自然じゃないのか? とは思うが、やはりそこはご都合主義という事だろう。


 でも、地球での物理現象がこの世界でも適応されるって事は、今までの俺の努力が遂に報われる時が来たようだ。


 実は中学生の頃、俺は異世界にいつ行っても良いように、物理や化学そして医学についての本を貪るように読んでいたのだ。

 いや〜、あの頃は本当に自分は異世界に行くんだと信じて疑わなかったよ。そして、こうして本当に異世界にきて、自分の知識が役に立っているのだから、当時の自分を褒めてあげたい。


 中学生の俺。お前の努力は無駄じゃない! 例え周りからガリ勉と罵られようと気にするな! 親が医学部を目指していると勘違いして、めっちゃ期待した視線を日々送ってくるのに屈するな! お前の努力は必ず報われる!


 俺が昔の自分を褒めちぎっていると、オーバーヒート状態から復活したメリーが目の前に寄ってきた。


「今の魔法はとても強力。原理は理解できないけど、私が見てきた魔法の中で一番」


「ありがとうメリー。俺の魔法が魔物に対抗できる程のものか不安だったけど、こうして撃退で「弟子にしてほしい」きて本当に……へ?」


 ん? 今メリーは何と仰いました?

 俺が惚けた声を出すと、メリーは再度口を開く。


「私を、あなたの弟子にしてほしい」


 おおう、そんなに真剣な眼差しを向けないでくれ。これは弟子入りの懇願だろ? 交際を申し込んでるのと勘違いしちゃうだろ?


「えっと、それは俺から魔法を学びたいって事?」


 俺の問いかけに、メリーはコクコクと頷く。


 う〜ん。こんな美少女が弟子になるのは願ったり叶ったりだ。でも俺は、この世界の魔法について何一つ分からない。さっきの魔法も、多分こんな感じだろうと何と無くでやったら出来ちゃったのだ。


「ちなみにメリーは元素とか原子って知ってる?」


「ゲンソ? ゲンシ? ……知らない。けど」


「けど?」


「美味しそう」


 ズッコケそうになりました。

 よくお笑いとかで、ボケに対してズッコケるというのがあるが、あれは日常生活でも起こり得る現象らしい。


 それにしても、もしメリーに魔法を教えるとなると中々に骨が折れそうだ。

 俺流の魔法を使おうとすると、元素や化学反応について理解する必要がある。

 俺は目の前の銀髪娘に目を向ける。

 何やら真面目な思案顔してるんですが。まぁ、無表情だからあんまり変化はないんだけどね。


「ゲンソとゲンシ。それはズバリ、焼き菓子」


「違います」


「じゃあ、海鮮系?」


「それも違ぁぁーうッ!」


 何をどう考えたら海鮮系が出てくんだよ! ゲソか? ゲソが元素に似てるから海鮮系なのか? てかこの世界にイカって存在すんの? もしいるなら俺はゲソの天ぷらが食べたいです! 大好物です!


「メリー、取り敢えず食べ物から離れようか」


 こんな子に、化学や物理を教える自身が俺にはありません。


「私は強くなりたい。いえ、強くならないといけない」


 え、なになに? 何で急にそんなシリアス感出すんですか? 実はあれか? この子には悲しい過去があって、それを糧に鍛錬を積んで、遂にはギルド最強にまで上り詰めた。しかし、それだけではまだ足りない。何故なら彼女が戦いを挑むのは強大な悪なのだから! 的な感じですか?


「強くなったら、報酬がたくさん貰える。沢山お菓子食べれる」

「欲望の塊かッ!!」


 はい、この子はアホ決定です。

 この子、絶対魔法とかも感覚でこなすタイプだよ。これどうやるの? って聞いたら「フッてしてギュッとなってバーンってやるの」と謎の擬音語が出てきちゃうやつだよ。

 

 どうしたもんかな〜と俺が悩んでいると、思いがけない人物が彼女の味方をした。


「ケイ様、どうかこのメリーに魔法を教えてあげて下さい」


 俺に対して丁寧にお辞儀をするアリス。

 さすが王女様。お辞儀が綺麗です。可愛いです。


「アリス……ありがとう」


「ほら、あなたもちゃんとケイ様に頭を下げて」


 アリスの注意に、メリーは素直に応じて俺に頭を下げてくる。

 やっぱりこの二人仲がいいでしょ? アリスもメリーの事を愛称で呼んでたし。


「えと、何でアリスまでもがそんなお願いを?」


 俺の質問に、アリスは真剣な表情を作る。

 え? もしかして、今って結構シリアスな場面?


「メリーは序列三位です。そして『槍の持ち手』である彼女は、常に強い存在でいてもらわないと困るのです」


 お? また出ましたよ『序列三位』という単語。それに今回は『槍の持ち手』なんて言う新単語も出てきた。一体何のことなんだ?


「師匠。私頑張る」


 俺が気になる単語について質問してみようと思った時、メリーが意気込みを語ってきた。

 って近い近い! 分かった! 分かりましたから! あなたの情熱は十分に伝わりましたから一旦離れよう? ね?

 くそっ! こんな至近距離でそんな情熱的な視線を向けられたら、俺の腕が勝手に……意思に反して勝手に彼女の背中に回ってしまう。このままだと、メリーに熱い抱擁を……あ、今回はすぐ離れちゃうんですね。


「まぁ、これからよろしくね。メリー」


「師匠の弟子として恥がないよう日々鍛錬に勤しむ」


 ふむ、言ってることは立派だけど、いかんせん無表情だから内心が読み取れないんだよね。

 まずこの子に教えるべきは、魔法ではなくてコミュニケーションじゃなかろうか? 人との距離感はとても大切ですよ。精神的な意味と、メリーの場合は物理的な意味でもね。


 こうして俺には、銀髪無表情のメリーシュカン・ソウクレという弟子ができた。


「ゲンシは洋菓子。ゲンソは和菓子」


「違いますッ!!」


 何で異世界なのに和、洋の概念が有るんだよ! 

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