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第27話 人類最強の最強マッサージ

「なぁケイよ、答えてくれ。妾は是非ともお主の意見を聞きたいのだ」


 近いッ!! 近い近い!! 顔を徐々に寄せてくるんでないよ!! あ〜もうッ! 可愛いなもうッ!!


「ゴホンッ、えーっとだな。その男は確かにバカだ。だがしかし、その男が及び腰になるのは、ヒョウカにも問題があると俺は思う」


「妾にか? どんな問題があると言うのだ?」


 ヒョウカは面白そうに目を細めて、俺を見つめてくる。マジで可愛い。


「その男は色々強がってはいるが、所詮は童貞。そんな男に、ヒョウカの様に魅力的な女の子が急に言い寄れば、そりゃヘタれるに決まってる」


 童貞の女性耐性の低さを甘く見るなよっ!! ……なんだろう、俺の胸に締め付けられる様な悲しみの感情が湧いてくるのだが……。


「ほほう、なるほど。つまり押してダメなら引いてみろ。お主はそう言いたいのか?」


「まぁ、そんなところかな? それにな……」


「それに?なんなのだ?」


 俺の胸板にしなだれかかる様に体重をかけていたヒョウカが首を傾げる。


「それにその男にとってヒョウカはきっと、理想の女の子なんだよ。そんな子が相手となれば、色々と慎重にもなるさ」


 俺が呟くようにそう言った瞬間、キラッとヒョウカの目が光った気がした。


「ほう。そうか、そうなのだな。妾は理想の女性か。ほほう、そうだったのか」


 ニマニマとした表情で、なんとも嬉しそうに『そうか』を繰り返すヒョウカ。


 やべ、これしくったな。余計なことを言っちゃったな。


「と言うことは、だ。妾はこのまま待っていれば、その男の方から妾に言い寄ってくる。と言うことかな? どうなのだケイ?」


 さらに俺の方に体重をかけながら、ヒョウカは愉快に尋ねてくる。


 ぬぐぐっ調子に乗りやがって!! 可愛過ぎかッ!! 


「そうかもしれないな。ほれ、もう相談は終了だ。マッサージを再開するから前を向きなさい」


 ぶっきらぼうな感じで言い放つと、俺に寄りかかっていたヒョウカを押し返して、元の姿勢へと戻す。


「なんだ、妾の相談に乗ってくれると言っていたのに、もう終わりか?」


 ちょっと拗ねたように言うヒョウカが、この上なくあざと可愛い。本当に困ったものである。


「その類の相談は受付終了だ。他に何かないのか? 例えば、魔王の仕事が大変だ。とか、序列一位の重責が半端ないとかさ」


俺はヒョウカの肩揉みを再開しながらそう聞いてみると、今まで俺をからかうような雰囲気だった彼女の様子が、少しだけ変化した。


「そんな悩みは、一切ないな……」


 どこか儚げに言うヒョウカ。その瞳は、只々真っ直ぐ前を向いている。


「魔王というのはな、魔人族の長なのだ。これはとても名誉あることなのだ。弱音などはいてはいられぬだろう? それに序列一位も同じだ。怪獣の所為で存続の危機に立たされている人類、その人類の唯一の希望である『槍の持ち手』であるぞ? 重責がどうこう言っている場合ではなかろう」


 静かな口調で淡々と話すヒョウカ。そんな彼女を見て俺は察した。


 なるほど、このヒョウカの異常な肩凝りは、魔王と序列一位としての立場からくるストレスが原因か。まぁ、よくよく考えるとこの若さで魔王って異常だよな。魔王ってのは魔人族のトップだから、日本に置き換えると、総理大臣って事だもんな。いやこれ普通にヤバイわ。もし俺だったら、即行で盲腸発症して病院送りだわ。それに、序列一位ってのも日本の立場に置き換えると……何になるんだ? 防衛大臣? 自衛隊の幕僚? まぁよく分からんけど、やんごとない立場なのは間違いないだろう。そんな重責を背負ったら、俺ならもうストレスで吐血してますわ。


 まったくこの子は、こんな小さな肩にどれだけデカイもんを背負ってるんだか。


 そう思った瞬間、不思議なことに俺の中からエロい考えが消え去った。あるのは純粋に彼女の疲れを癒したい、という願いのみになった。


「ヒョウカ、今夜は俺がお前の疲れを全て癒してやる! 肩凝りなど無限の彼方へと葬り去ってやる!」


「急にやる気を出してどうしたのだ? お主のマッサージは気持ちが良いから別に構わないのだが……」


 突如やる気MAX状態になった俺の様子に、ヒョウカは少々呆気に取られる。


 ヒョウカはこの若さで、俺には想像出来ないほどの重責を背負っている。にも関わらず、一切の弱音を吐かない。いや、吐くまいと必死に耐えている。なんて健気な子なんだっ!! そんな彼女に対して、俺はマッサージでエロい事をしようなんて……自分が恥ずかしいっ! 悔い改めよ俺!

 マッサージとは相手の疲れを癒すもの! そこにエロを持ち込むなど言語道断! 


 俺は自身に潜む煩悩を深呼吸とともに吐き出した。


「すぅー……はぁ〜」


「深呼吸などして、また一段と気合いを入れるようだな」


 俺の行動が随分と大袈裟に映ったのだろう、ヒョウカはクスッと小さく笑みを浮かべる。しかし、俺は一切ふざけているつもりは無い! 真面目も真面目、大真面目である!


 何度か深呼吸して精神統一をした俺は、カッと目を見開き全力肩揉みを開始する。


 最新の研究によると、凝りとは筋膜と呼ばれる筋肉を覆う薄い膜のねじれや偏りによって生じるらしい。なのでこの膜を正常な位置に戻してやる事で、凝りは解消される。さらに! リンパを意識し、その流れを促進するように、滑らかで淀みない手の動きでマッサージをする。


「おぉ……うむ、これは……っん……確かに……はぅ……心地よいな」


「ふっふっふ、俺のマッサージテクはまだまだこんなもんじゃ無いぞ?」


 気持ち良さそうな反応を見せるヒョウカに、俺も気分を良くする。


 通常状態のスーパー童貞モードの俺であったのならば、マッサージの最中にちょくちょくヒョウカが漏らす艶めかしい吐息に、鼻の穴を広げて『うおッ!? 何だこれエロ過ぎるだろッ!! このままじゃ俺の理性がぁ〜』などと気色の悪い事を脳内で叫んでいただろう。しかし、今の俺はマッサージの鬼と化している。そう正確無比な究極肩揉みマシンなのである。

 そんな俺にとって、彼女が漏らす吐息は重要な情報源だ。吐息の大きさ、質を聞き分けてヒョウカが一番気持ち良いと感じる場所を探し出すのだ。


 どこが気持ちいいですか〜などと聞くのは二流マッサージ師のやる事だッ! プロは相手の反応から全てを読み取るッ!!


「……んん……はぁ……うぅ…………っんんぅ」


 お! 反応が微妙に変わったぞ? どうやらヒョウカは首の中心付近、天柱というツボが良いらしいな。ならばここを重点的に攻めよう。


「あぁ……っん、はぁ……ケイそこは……」


 ここか? これがえぇんか? 気持ちイィんか?


「どうだ? 気持ちいいだろう?」


「うむ、凄く良い」


 ヒョウカは気持ち良さそうに瞳を閉じて答える。


 よしよし、この調子でどんどん気持ち良くなってもらうとしよう。


 俺は左手をヒョウカの顔の前に出すと、親指と人差し指で、彼女の目尻と眉尻の中間にある窪みを指圧する。側から見ればアイアンクローをしているようだが、これもれっきとしたマッサージである。肩凝りからくる頭痛に効くツボだ。そして右手では、後頭部の髪の生え際付近にあるツボを指圧する。


 二箇所のツボの同時攻撃だ。これはきっと堪らんだろう。


「ふぅ〜、これはなんとも……極楽にいるようだ……」


 まるで温泉に浸かった時のような吐息を漏らすヒョウカに、自然と俺も笑みが溢れた。


 それから、たっぷりと時間をかけてヒョウカの肩を入念にマッサージした俺は、最後にポンポンと軽く彼女の肩を叩いて、マッサージを締めくくった。


「終了! どうだ? 楽にはなったか?」


 俺がそう尋ねると、ヒョウカは肩を回したり首を曲げたりする。


「うむ、凄いぞケイ! 肩だけのマッサージだったのに体全体が軽くなった様だ!」


 俺の方を振り返り、キラキラと輝く目でそういうヒョウカ。


 せやろ、せやろ。たかが肩凝りと侮る事なかれ。肩は首や腕を支える重要な役割がある。そこの凝りが解消されたとなれば、体が軽く感じるのも当然というものだ。


 俺が満足げにウンウン頷いていると、目の前のヒョウカが可愛らしいあくびを漏らした。


「ハァ〜……ん、すまぬケイ。お主のマッサージで疲れが取れたお陰か、凄く眠くなってしまった」


 そう言う彼女を見てみると、確かに瞬きする瞼がとても重たそうだ。うん、眠たそうにしているヒョウカも、なかなかに魅力的で良きである。


「できればもう横になりたいのだが、お主はまだ寝たくはないか?」


「いや、俺もだいぶ酒に酔ってぁ……酔ってはいないけど、眠くなってきたよ」


 危ない危ない。俺は女神様から貰ったチートのお陰で、いくら酒を飲んでも酔わない体なんだよな。このフワフワしてる感じも、ヒョウカがそばにいる幸福感から来るものだ。決して酒の酔いが原因じゃない!


 まぁ、それはどうでもいいとして、このまま普通に寝ちゃうのはちょっと微妙だなぁ。マッサージでヒョウカの疲れは取ってあげれたけど、その疲れの根本はそのままだからなぁ。


 俺は再度あくびを漏らしているヒョウカにちらっと視線を向ける。


 魔王と序列一位の重責か……う〜ん、魔王の方は魔人族をよく知らんからどうすることもできないか。んでも、序列一位の方は俺も怪獣退治に関わるから、何か出来るんじゃないかな? 恐らく彼女の負担になっているのは、序列一位、つまり人類で最強だから失敗するわけにはいかない。てな感じのプレッシャーが大きいだろう。それを軽減できれば……お! 俺、良い事思いついた!


 俺は早速、その思いつきを実行に移す。


「よしヒョウカ、寝ようか!」


 勢い良くベットに横になって、俺はヒョウカに言う。


「……ケイ、その腕はなんなのだ?」


「ん? 何って腕枕だけど?」


 ヒョウカは、横に大きく広げられた俺の右腕を見て、少し戸惑った反応をする。それに対して俺は、なんでもない風に、平然と返事をする。

 今気がついたのだが、彼女は自分から仕掛ける時は、妖艶な雰囲気を撒き散らしながら寄ってきて、ドギマギする俺を見て楽しむくらいの余裕を持っているが、逆にグイグイ来られるとなると、途端に初心な乙女っぽさをちょくちょく出してくる。そこら辺のギャップがまた堪らんのです。


「どうしたんだヒョウカ? 眠いんだろう? 早く来いよ」


「う、うむ。しかしなぜ急に腕枕なのだ?」


 若干もじもじしながら、俺の腕をチラッチラッと見るヒョウカ。なかなか俺の腕の中に来てくれない。


「俺はヒョウカを癒したいんだ。マッサージで体を癒し、腕枕で心を癒す!」


「そ、そうか。しかし……抱き…は……ぃたが腕……はそぅ……がい……」


「ん? なにをモゴモゴ言ってるんだ? 全然聞き取れないぞ?」


 なんかヒョウカが、視線を下に向けてブツブツ呟いてるんすけど? もしかして、これは俺の腕枕に対する拒絶反応ですか? もしそうなら俺は、このまま横になって永遠の眠りにつきたいです……


「本当に良いのか? 腕枕をしてもらっても……」


「あぁ、ごちゃごちゃ迷ってないでドンと来い!」


「ふ、ふむ。ならば……失礼する」


 おずおずとヒョウカは俺の腕に頭を乗せる。


「ど、どうだ? 重くはないか?」


 若干緊張気味に尋ねてくるヒョウカがヤバイ。恥じらう乙女感がもうね、堪んないよね!


「もうちょっとこっちに寄ってもらったほうがいいかな? 肩付近に頭を乗せる感じ」


「わかった……こうで良いか?」


 俺の要望通りの位置に頭を移動させた後、上目遣いでこちらを見て確認を取るヒョウカ。


 うむ! 初めて女の子に腕枕をしたけど、これ最高だねッ!! 自分の腕の中にいるってだけで、なんかこう俺の女だって感じがして、うん、まじ最高!!


「うんうん、いい感じ。よく出来ました」


 そう言って、俺は腕枕している腕を曲げて、そっとヒョウカの頭を撫でてあげる。


「こらケイ、妾を子供扱いするでない」


 不満そうに抗議してくるヒョウカであったが、俺は撫でるのを止めない。


「いいや。ヒョウカはまだ子供だよ」


「むぅ、妾は恐らくお主とほとんど同じ年齢だと思うのだが?」


 少し頬を膨らませて、上目遣いで可愛らしく睨んでくるヒョウカ。彼女は彼女なりに凄んでいるのだろうが、あいにく腕枕をしている状態だと全く怖くない。


「なら子供じゃないか。俺はまだまだ大人になんてなりたくないぞ?」


「……ケイは意地悪だ」


 口を尖らせるヒョウカを見て、俺はふっと笑みを浮かべた。

 彼女の滑らかで綺麗な黒髪を梳く様に撫でながら、俺は静かな口調で言う。


「なぁヒョウカ、キミはもっと誰かに甘えてもいいんじゃないか?」


 俺のその言葉を聞くと、ヒョウカは顔をうつ向け、小さな声で応える。


「……妾は魔王だ。そして序列一位だぞ? そんな妾が、自分より弱い者に甘えられる筈が無かろう」


「なら俺に甘えればいい。なんたって俺はヒョウカに圧倒的勝利を収めてるからな」


 ふんすっ! とドヤ顔で俺は言い放つ。


「なっ! それは……そうだが……」


 なんとも悔しそうな顔をするヒョウカ。そんな彼女を俺は少しだけ抱き寄せた。


「今のキミは最強じゃない、俺がいるからな。だからもう一人で背負い込む必要はない。一人で頑張る必要はないんだ」


 そう言った途端、ヒョウカは驚いた様に目を見開いて、俺を見上げてきた。

 俺はまた笑みを浮かべて、彼女の頭を優しく撫でる。


「今までよく頑張りました」


 そうすると、ヒョウカは俺の胸に顔を埋める様にして、下を向いてしまった。


「妾を子供扱いするなと、さっきも言ったであろう」


 俺の胸に顔を押し付けている為、若干声が篭って聞こえる。あと息がかかってくすぐったい。


「…………だが、今夜はお主の意見を参考にさせてもらう……」


 ヒョウカはそう言うと、そっと俺の腰に手を回して抱き着いてきた。


「重いとか息苦しいと言っても離れぬからな」


「大丈夫、そんな心配しなくていいから、存分に甘えたまえ」


「……うむ」


 その返事を最後に、ヒョウカは静かになった。その数分後、彼女から規則正しい寝息が聞こえてくる


 女の子を抱き枕にするのもいいけど、逆に抱き枕にされるのも、また乙なものですなぁ。


 アルコールと眠気が入り交ざって、夢と現実の狭間の様な思考の中で、ボンヤリと俺は思うのであった。


 

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