第24話 人類最強と酒
教会を後にした俺は、再び王場内をあても無く彷徨ってみる。
てか俺、さっきから自由に彷徨いすぎじゃね? ここ一応王城だよね? 人類の重要施設の一つだよね? いくら俺が人類希望の勇者だからって、自由にさせすぎてる気がするんすけど。俺、つい数日前までこの世界に何も関わりがなかった異世界人なんですけど。ここのセキュリティ大丈夫? SEC○M入ってる?
ふと冷静になって考えてみると、今のこの状況は結構おかしいような気がしてきた。
王城とは、文字どうり王の住まう城。王様ってのが日本人の俺にはピンとこないから、王を天皇に置き換えると、王城とはつまり皇居ということになる。そう、俺は今皇居の中をあても無くブラブラしているのだ。
……やんごとねぇなおいっ!!
皇居の中を彷徨うとか恐れ多すぎるわ! 宮内庁の人に見つかったらただ事じゃ済まない。全放送局の報道が俺一色に染まるわ!! 『皇居を彷徨い歩く高校生、彼の正体は一体!!』てな感じの見出しだなきっと。
とまぁ、ここが異世界じゃなかったら相当特殊な状況だったろうけど、ここは異世界だから、そんなのは関係ないんだろうな。御都合主義万歳だ。
「んでも、ここが王城ってことは、万事に備えて秘密の通路とかあったりすんのかなぁ?」
俺はちょうど歩いていた廊下に飾られていた絵画に目を向ける。
ふむ、この絵はなんとも汚らしい。幼稚園児が適当に絵の具をぶっかけた方がまだマシな気がする。色合いも、なんか黒とか茶色とかそんなのが多いし、この絵の題名はウ○コか? しかし、こういう意味不明な絵画の額縁の後ろに、秘密の通路が開くレバーなんかがあったりして……
俺はふと湧き上がった好奇心に抗えず、絵画を両手で持ってその裏を覗こうとした。その瞬間。
「おいそこの者! 一体何をやっておる!!」
「ッはい!! すみませんでしたッ!!」
急に声をかけられた俺は、反射的に額縁から手を離し、ビシッと直立して姿勢を正した。
ヤッベェ! なんかタイミング悪いところで見つかっちった。しかも、やっぱり額縁の裏にレバーがチラッと見えたような……気になる〜、けどさすがに今の状況で確かめるわけにはいかないよな……
俺は名残惜しく額縁から視線を外すと、俺に注意してきた人物へと目を向ける。
その人物は、背丈が俺の顎くらいしかない。しかし、見た目が幼いのかというと別段そういうわけでは無く、むしろたっぷりと蓄えられた口髭に、筋骨隆々の体格はなかなかの雰囲気を醸し出しており、威厳ある中年という言葉がピッタリの容貌をしている。
「今貴様は、我らが種族の宝である絵画を手にとって何をやっていたのだッ!! 答えるのじゃ!」
おほぉ、このおっさんチッコイのに、なかなか威圧感がありますな。
「誤解をしないでください。俺はただ芸術性の高い素晴らしい絵画が視界に入ったので、思わず手に取ってしまっただけですよ」
得てして、芸術とは凡人には理解できない代物である。つまり、芸術に関して凡人である俺が『きったねぇ絵だな』という感想を抱いたということは、芸術に長ける者からすれば『この絵画は至高だ!』となるのだろう。じゃなければ、こんなウ○コみたいな絵が、王城の廊下に飾られるはずがない。
「なんと! この絵画の良さがあなたにはお分かりになると申すか!」
「えぇ、もちろんですとも。これはなんとも……題材の質感を上手く再現しておられる」
これは油絵なのかな? ふむ、油絵特有の立体感でなんとも躍動感溢れるウ○コを表現しておられる。テカり具合も絶妙だ。所々に散りばめられた黄色いのは、消化しきれなかったトウモロコシかな? ここまで再現するとは、作者の情熱が凄まじいな。その情熱に敬意を評して、俺はこの作者をウ○コマンと呼ばせていただこう。や〜いや〜いウ○コマンだ! ウ○コマン!
「おお! 貴殿はこの絵の良さを理解できますか! なんとも素晴らしい! これは我が種族ドワーフにとって欠かせない存在である土や鉱石を抽象的に表現したものなのですぞ」
「……やはりそうでしたか。いやはや、何度見ても素晴らしい絵ですな。この絵からは大地の力強さや鉱石の神秘さが溢れ出ている」
と、そんな感じで俺は目の前のおっさんに話を合わせるが……嘘だろ? これ、どこからどう見てもウ○コだろ?
「貴殿は若いのになかなか見る目があるようじゃ。仏頂面の耳長どもは、これは排泄物の絵だな。などとぬかしおるからして、腹立たしい限りなのじゃがの。がっはっはっは!」
おっさんよ、何故にそこで大口を開いて笑いだしたんだ? まぁでも、やっぱりウ○コに見えるのは俺だけじゃなかったのね。俺の感性は間違ってなかったよかった。てか、このおっさんが言った耳長どもってのは、きっとエルフのことだよね? エルフってことは神秘的な美女が沢山だよね? このおっさんからもうちょっと詳しい情報が欲しいな。
「ところで貴殿は何者じゃ? 見たところ人間族のようだが……」
「俺は先日召喚された勇者です。名はケイ・ナロと言います」
俺が名乗った瞬間に、ドワーフのおっさんは目を見開いた。
「おぉ! 何と何と!! 貴殿は勇者殿であられたか!」
喜色満面といった表情で、ドワーフのおっさんは俺に詰め寄ってくる。
いやぁ、これが美少女ドワーフなら最高のシチュエーションだったんすけどなぁ。ドワーフ族の美少女、それは種族特有の小柄な体格と相まって、それはそれは愛くるしいに違いない。
「勇者殿は何か用があってここに?」
「いえ、そういう訳では」
「それならば、我らと共に宴会など如何ですかな?」
このドワーフのおっさんグイグイくるな。でも宴会か、中々興味がそそられますな。宴会といえば酒、そして酌をしてくれる美女。ムッフー! 未成年の俺からしたら男の夢と欲望が混ざった大人の世界!
「俺が参加してご迷惑でなければ是非参加してみたいです」
「迷惑など滅相も無い!! 勇者殿が宴会に参加すると皆が知れば、それはもう盛り上がること間違いなし!」
というわけで、俺はドワーフ族の宴会に参加することになりました。
ドワーフのおっさんは意気揚々と俺を宴会会場へと案内する。
「実は今日行われる宴は、今回の怪獣討伐の必勝祈願を兼ねていてですな。普段よりも上質な肉や酒を用意しているのですぞ。あ、申し遅れたのじゃが、儂の名はオッソイと申します。オッソイ・コーシン・スマンですじゃ。見ての通りドワーフ族で、その中のスマン族の族長を勤めさせて頂いていますのじゃ。それとこう見えましても序列五位で『槍の持ち手』じゃ」
少し得意げな顔を向けてくるドワーフのおっさん、改めオッソイのおっさん。
マジか! このおっさん槍の持ち手か! ムカつくクソイケメンのイレーロに続いて2人目の男だな。俺としては『槍の持ち手』は全員美少女が良かったんだけどなぁ。現実とは世知辛いものですなぁ。
そんなやり取りをしている間に、俺たちは宴会の会場へとやってきた。
会場はそこそこ広く、長椅子と長テーブルがズラッと並べられている。そして、そこには大勢のドワーフがギッシリと詰まっていた。
「おぉ! オッソイ様! やっときましたな。あまりにも遅かったので勝手に始めてしまうところでしたぞ!」
一人のドワーフがこちらに顔を向けて話しかけてきた。
「何を言っておるのじゃ。まだ宴の開始時間にはなっておらんだろうに。それにお前は既に飲んでおろうが!」
オッソイのおっさんがそう言い返すと、話しかけてきたドワーフは「がっはっはっは!!」と笑って、手に持っていたジョッキを豪快に煽った。それを見たオッソイのおっさんは、やれやれと言った感じで首を小さく振る。
うむ、この酒好きな感じや騒々しさ、ワイルド加減。まさしく俺の中のドワーフのイメージに一致するな。まるで指○物語に出てくるドワーフそのものだ。
「皆の者聞け!!」
うぁ!? ちょい、オッソイのおっさん隣で急に大声出さないでくださいよ! ビクってなっちゃったじゃんかよ。
「今宵の宴には特別な御仁が参加してくれるぞ! なんと! 先日召喚された我らが希望の勇者、その名もケイ・ナロ殿じゃ!」
俺の紹介がされた瞬間に、会場がドッと湧く。それと同時に多くのドワーフ達が、手に持っていたジョッキを掲げた後に、一気飲みをし始めた。
え? あれ? なんか宴会始まっちゃった感じ? 乾杯の挨拶とか無いの? 今ご紹介に与りました。私が勇者の〜、みたいな挨拶しなくて良いの?
そんな感じで、若干俺が戸惑っていると、突如現れたマッチョドワーフ二人組に両脇を抱えられて、宴会会場のど真ん中に連行されてしまった。
「さぁさぁ勇者殿! 飲みましょう! 食べましょう!」
「勇者殿! この鳥は今朝取れたものですぞい!」
「この酒は我らドワーフが誇る名酒の中の名酒! ささ飲まれよ飲まれよ勇者殿!」
あうあう、次から次へと何だ何だ!? 気付いたら俺の目の前に、鳥の丸焼きみたいな料理と、なみなみに酒が注がれたジョッキが瞬間移動してきたんですが!? どこから出て来たのこれ? これが俗にいう宴会芸というやつなのか!? 宴会という大人の世界は凄いな! したらば、取り敢えず、この鳥の丸焼きにかぶりついてみるかな?
俺は目の前にデンッと鎮座している巨大鳥の丸焼きに顔を近付けてそのままガブリと噛み付いた。
うっほぉ〜! 何じゃこりゃウッマ!! めちゃんこ美味いんですけど! てか脂やば! 噛んだ瞬間にジュワッて溢れ出て来たわ! はっ! そういえば昔、叔父さんか誰かが唐揚げの脂をビールで流し込むのが至高とか何とか言っていたな。よし! 俺も丸焼きから出たこの脂をこの酒で流しこもう!
鳥の丸焼きのあまりの美味しさと、宴会の独特な雰囲気に飲まれた俺はハイなテンションになり。勢い良くジョッキに入っていた酒を煽った。
「ーーッ!?!?!?!?」
酒が喉を通った瞬間、俺の体に今まで経験した事がないほどの衝撃が走った。
酒が通った後の喉は、まるで焼かれたかの様な感覚に陥り、鼻からはむせ返る様なアルコール臭が抜ける。そして腹はカッと熱くなり視界がふらつく。
「凄いですぞ勇者殿!! ドワーフ族の火酒を人間族の勇者殿が一気飲みするとは!! さすがは人類最強!! いや天晴じゃ!!」
いつの間にか隣の席に来ていたオッソイのおっさんが。何やら興奮して喚いてるけど、音がこもって聴こえてくるから、何言ってんのかよく理解できないや。でも、俺の事を何故か絶賛してるのは理解できる。うむ、やっぱり褒められるのは気分が良いな。なんか体もフワフワして気分が良いし。よくわかんないけど、俺が豪快に酒飲めば、周りは俺を褒めるし喜んでくれるんだな! よ〜し! そうと分かれば飲んで飲んで飲みまくってやるぞ!!!
ーー数十分後。
「俺はぁ!! 最強のぉ!! 人類のぉ!! 勇者だぁ〜〜っ!! 怪獣ぶっころ〜す!!」
「ウオォーー!! 勇者殿バンザーイ!!」
「イヨッ!! 最強の飲みっぷり!!」
「うぐうぐうぐッ、プッはぁ〜!! 俺は最強の勇者なりぃ〜、次の酒持ってこぉーい!!」
俺は人生で一番楽しい時間を過ごしているのかもしれない。さっきからなんか知らんけど笑いが止まらんし、地球の自転を感じちゃってるし。あ、ここ異世界だから地球じゃないのか? じゃあここはどこだ? 火星かな? それとも土星かな? 土星はガス惑星だから住めないやないか〜い!
は〜楽しいッ!! 意味わかんないけどなんか楽しいなぁ!!




