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第21話 人類最強と飛行魔道具

 人類は昔から空に憧れていた。

 鳥のように翼を広げ、どこまでも続く大空を駆けたいと願ってきた。それ故に、人類は太古の昔より様々な試行錯誤や実験を繰り返し、大空に挑み続けた。しかし、翼を持たない人類が、空を飛ぶと言うのはあまりにもハードルが高かった。数え切れない程の失敗や挫折を繰り返した人類は、19世紀になりようやく空を飛ぶことに成功する。偉人オットー・リリエンタールによって示された空への道がライト兄弟の手によって切り開かれたのだ。そこからの、人類が空を飛ぶための道具『飛行機』の発展は凄まじく、20世紀になると音速の壁を超え、しまいには大空の更に上、宇宙にまで飛び出してしまった。

 

「そんなとんでもない技術力を持ってしても『飛行スーツ』ってのはまだ実用化できてないんだよな」


 自身の下半身に装着されている甲冑を見やりながら、俺は呟く。


 元いた世界では、モモンガみたいなウィングスーツや超電導を利用したホバーボードが存在したし、背中にジェットエンジン背負ってドーバー海峡を横断するファンキークレイジー野郎がいたりした。がしかし、一般的な空中遊泳の実用化という話になると、これはまだ実現されていないだろう。

 まぁ、最近はドローンの発展が著しいから、近い将来にその技術を応用した飛行スーツに近いものが開発されるのも時間の問題だろうけど。


 とまぁ、元の世界の話はさておき、やっぱ異世界はすげぇっすわ。魔法すげぇっすわ。マジで空飛ぶハードル低すぎ。公園によくある半分埋まったタイヤくらい低いっすよ。ピョンって感じだよね、ピョンって。公園で思い出しましたけど、最近公園の遊具が減ってるらしいっすね。危ないからって、どんどん撤去されてるらしいですよ? 遊具が危ないって、そりゃあ大人たち子供舐めすぎじゃありません? 子供の身体能力と危機察知能力って意外と高いですぜ? あと治癒力も。とか言っといて、いざ俺に子供ができたとして、その子供が遊具で怪我したら、速攻で役所に殴り込みに行くんだろうなぁ。『あんな危険な遊具を設置するとは、何考えとんじゃいワレェ!!』ってな感じで。


 そんな怒り心頭な俺を嫁が優しく宥めてくれる。もちろん、その嫁はヒョウカです。俺に優しくそっと寄り添って『あなた、そんなに怒ってはならぬぞ』と言うのだ。


 あ、これヤバイ。何この幸せな妄想。幸せ過ぎて一瞬空飛んでる感動すら忘れてましたわ。でもヒョウカが嫁ってやばくない? 家に帰ったら玄関まで出迎えにきて『お帰りなさいあなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あたし?』なーんて言ってきたら、俺は我を忘れて彼女に飛び込んじゃいますよ。

 …と言うか、こんな妄想をしてしまう俺、ちょっとどころじゃ無いレベルでキモいな。こんな事考えているってヒョウカにバレたら、尋常じゃない速度でドン引きされるだろうな。


「いきなりこんな高度まで上がって。更に姿勢を安定させてしまうとは、さすがは勇者であるな。恐るべき魔力制御力だ」


 そんなことを考えていたら、目の前にヒョウカが現れた! どうしよう、さっきの変態妄想のせいで若干後ろめたさを感じてしまう。目を合わせられません。


「お褒めに預かり光栄だよ。まぁ飛び始め姿勢を崩しそうになったけどね」


「しかし今は安定しているではないか。本当に素晴らしいぞケイよ。どうだ? そこから移動はできそうか?」


 俺はヒョウカの問いかけに頷くと、高度を維持したままスーッと左にスライドするように動く。


「おぉ! よもやこれほどまでとは!」


 今度は元の位置に戻るように右にスライドする俺を見ながら、ヒョウカが絶賛の声を上げる。


 もっとだ! もっと褒めてくれヒョウカさん! 豚もおだてりゃ木に登るって言うけど、俺の場合は空飛んじゃうからね! ふふっ、飛べない勇者はただの勇者、なのさ。


 でもこれ、思ってた以上に動くの難しいな。自分の体が浮いてるんじゃなくて、あくまでも甲冑に浮力が生じているわけだから、姿勢を維持するのにかなり筋力がいる。体幹の弱い人だったら一瞬でバランス崩して墜落だろう。


「ふむ、姿勢制御力もバランス感覚も抜群であるな」


 ヒョウカは満足そうに頷きながら言う。

 

 その嬉しそうな笑顔、最高です!! その笑顔を観れただけで、俺は宇宙の彼方まで飛んでいけそうです!


「よしケイよ。それでは妾の後ろについてきてくれ」


 そう言うと、ヒョウカはクルッと俺に背を向けて、移動を始める。

 俺は彼女の言葉に従って、ピッタリと後ろにつきながら飛ぶ。そんな俺の様子を時折チラッと振り向いて確認すると、ヒョウカは段々とスピードを速めて、機動もより立体的で複雑になっていく。


「俺のことを絶賛していたけど、ヒョウカも中々すごい動きをするじゃないか」


 彼女が空中で大きく一回転して、俺もそれに習って回転したあと、後ろから俺は声を掛けた。


「妾は幼少の頃より訓練しておったからな。だから、そんな妾の動きに完璧についてくるそなたに、少し嫉妬もしている」


 再びクルッと回って俺と向き合ったヒョウカは、若干不服そうに唇を尖らせて俺に不満を訴えてくる。


 って、俺どうしたらえぇっちゅうねん!! そんな唇尖らせて、可愛いなッ!! キスしてやろうか! キスしてやる!! キスさせてくださいっ!!! …………実は俺って、犯罪者予備軍だったのだろうか。いま自分のキモさに自分の背中がゾワっとしたわ。


「しかしそなたは、人類希望の勇者であるからな。その位は軽くこなしてくれないと、怪獣討伐など出来ないのであろうな」


「そんな事を言われたら怪獣討伐に全力を出さざるを得ないな」


「ふむ、ならば早速つぎの段階に進もうか。一度地上に降りよう」


 ん? つぎの段階? さらに何かある感じですか?


 俺が頭に疑問符を浮かべている間に、気がつけばヒョウカは地上に降りてしまっていて、俺も慌てて後に続いた。


「そなたは既に『ルベ・トラーソ』の魔力制御については問題なかろう。次はフル装備での複数操作だ」


「その『ルベ・トラーソ』っていうのは、この甲冑のことかい?」


「あぁ、すまない。そのへんの説明を忘れていたな」


 俺の問いかけに、ヒョウカは謝罪の言葉を口にする。が、言葉に反して表情はあまり申し訳なさそうではない。

 今までのヒョウカを見てきて、分かった事が一つある。それは、彼女は何らかの物事の説明をするのが嫌いだ、という事だ。俺がこの世界の『序列』や『槍の持ち手』について聞いた時も、結局は説明をしてくれなかった。今回の飛行魔道具についても、いきなり渡されて「ほれ、やってみろ」的な感じだった。つまり彼女は、言葉よりも行動を好み、口よりも手が出るタイプなのかもしれない。簡単に言うとザ・体育会系って事かな。


 全然良いよ! 体育会系女子は最高だと思います! てか、むしろウェルカムですね。ヒョウカが陸上部のユニフォームとかきたら……ヤバイわ。うん、ヤバイですわ。最高にヤバイですね。けしからんですね!


 ぐへへぇと、俺が脳内妄想にふけているとは露程にも思っていないであろうヒョウカが、俺の前に甲冑一式を並べて説明を始める。


 って、この空飛ぶ甲冑、下半身以外にも他の部位全部揃ってたんですね。


「この甲冑は浮遊術式が書き込まれた飛行魔道具。名を『ルベ・トラーソ』と言う。皆はよく略をして『ルベ』と呼んだりしている。この『ルベ』は普通の甲冑同様に、複数のパーツに分かれていてな。今そなたが身につけている下半身部の他に、胴体部と腕部がある。これらのパーツには全て浮遊術式が組み込まれているので、それぞれに魔力を流す事で、より複雑で機敏な空中機動を可能とするのだ」


 ほほう。なるほど、複雑で機敏な空中機動……マニューバってやつですな! なんかテンション上がっちゃいますね!! コブラとかクルビットとかやっちゃうよ俺! 怪獣相手に有効なのかは知らんけどねっ!!


 俺が一人テンション爆上げになっているなか、ヒョウカの説明は続く。


「しかしこの『ルベ』には難点があってだな。先程も言ったように、これは複数のパーツで成り立っている。従って魔力制御も複数を同時に行えなければならない。これが中々に難しいのだ。誰もがそう易々と出来るものではない。そなたが今身につけている下半身部だけでも、既に八つのパーツに分かれている。だが、怪獣を相手取るには、この同時魔力操作が出来んと話にならん」


 そなの? 実は俺、気付かぬうちに八つの魔道具操作をしてたわけ? え? 俺天才じゃね? さすがチート勇者ですわ。


「なのだが、ケイよ。そなたは問題なく飛べていた。本当に素晴らしい魔力操作力だ。本来ならばここから一組づつ身に付けるパーツを増やしていくのだが、そなたの実力であれば、いきなりフル装備でいっても問題なかろう」


 ニコッと可愛らしい笑みを浮かべて、結構な無茶振りをしれっと言うヒョウカ。


 ぐふぅ……その体育会系独特の『いけるっしょ!』と言う感じのノリ、嫌いじゃないぜ(美少女に限る)


 甲冑のつけ方を何一つ知らない俺に変わって、ヒョウカが『ルベ』を装着していってくれる。


 ほうほう、まずは胴体ね。あ、ここも腰と胸辺りで二つに分かれてんのね。その次が腕ですか。ふむふむ、肩と上腕と肘と腕ね。あと手にもするんすか? あ、これってガントレットてやつかな? ……てか多くね? ルベとか言う飛行甲冑、部品点数多くね? 下半身部で八つでしょ? 胴体部で二つ、腕部で左右合わせて十個。合計二十個……いや、多いでしょ!? 二十箇所も同時に魔力操作とか、無理でしょ? 無理だよね!? ……意外とチート持ちだったら行けちゃうのかな?


 そんなことを考えていると、俺の装着を終えたヒョウカが、自分もフル装着して対峙する様に目の前に立った。


「それではケイ。早速だが実戦形式で妾と空中機動の特訓をしようではないか」


 ほえぇ!? いきなり実戦形式ですか? 少しは練習の時間とかくれないんですか? あなたは鬼ですか!? あ、鬼じゃなくて魔王でした……。

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