第14話 異世界と怪獣
剣と魔法の異世界ファンタジーといえば、勇者に魔王、ドワーフにエルフなどの亜人種、ゴブリン、トロール、巨人にドラゴンなどの多様な魔物達、はたまた妖精に女神様など、神秘に満ちた生物、人種が詰め込まれたロマンあふれる世界である。であるのだが……。
いや、さすがに『怪獣』ってのは違くないっすか? 違和感の塊ですよそれ?
なんとも言えない表情を浮かべながら、俺は目の前の頭を下げている国王に目をやる。
てか、なんで怪獣? そこは魔物でよくない? そもそも、怪獣と魔物の違いって何?
「あの……取り敢えず頭を上げてもらってもいいですか?」
俺の言葉を受けて国王が頭を上げる。
「ケイ殿、協力してもらえるだろうか?」
いやいや、おっさんの上目遣いなんて需要ありませんから。マジで誰得だよ。
つーか、俺怪獣がどんなもんかも知らないし、そんな状態でホイホイ頷くほど阿呆ではありませんぜ?
「怪獣というものについて詳しく話を聞かせてください。魔物や魔獣とは別の存在なのですか?」
俺の言葉を聞いて、国王は一度大きく頷くと、真剣な眼差しを向けてきた。
「怪獣は魔物とは比べ物にならない程に、巨大で強力な存在である」
ほほう、やっぱり怪獣は大きいのか。
俺の頭に中には巨大な蛾の奴やら、首が三本ある奴など、自分の思う怪獣像がポンポン思い浮かんでは消えていく。
「怪獣は魔物に比べ非常に強力で巨大であるが、他にも徹底的に違うところがあるのだ。それは怪獣の体には『核』と呼ばれるものがあることだ」
「核ですか?」
「さよう。その『核』を破壊しない限り、怪獣を倒すことはできんのだ」
その後も国王は怪獣についての説明を続ける。
国王曰く、怪獣に対していくら攻撃しても、『核』が無傷であればなんの意味もなさないという。例えば怪獣の頭を吹き飛ばしても『核』が残っていれば、再生してしまうらしい。
逆を言えば『核』さえ破壊することができれば、怪獣の討伐は完了となる。
「なるほど、それならば怪獣退治など容易く達成して見せましょう」
声高々に俺は宣言する。うん、かなり格好良い気がするぞ俺。
思わず反応が気になって、俺はチラッとヒョウカやアリスの様子を伺ってしまう。
あれ? なんか二人ともすごく険しい顔してない? 俺なんか失言しちゃった?
若干不安な気持ちになっていると、目の前の同じく険しい顔つきの国王が、おもむろに口を開く。
「怪獣の『核』の破壊は通常の攻撃や魔法では不可能なのだ。例えそれがどんなに強力なものであろうとも『核』には届かないのだ」
はい? どゆことすか? じゃあどうやって破壊しろっちゅうねん。
俺の心の疑問が表情に出ていたのか、国王はすぐに説明を続ける。
「『核』の破壊には、専用の武器『神槍』を使用するのだ」
国王は後ろを向いてヒョウカに目配せをする。
それに対して彼女は一度頷くと、自身が座っている椅子に立てかけてあった槍を持って、俺のすぐ近くまでやってきた。
「ケイよ。これが怪獣の『核』を破壊できる唯一の武器。神より遣われし神器だ」
そう言ってヒョウカは、俺の前に槍を掲げた。
その槍は、昨日俺がヒョウカと戦った時に彼女が使っていたものと同一のものだった。
……ってそんな物騒なもんを俺に向けてブンブン振り回してたのかよっ! 危ねぇじゃん! めっちゃ危ねぇじゃんッ!!
そんな内心の叫びを秘めながら、俺はヒョウカの持っている槍を間近でまじまじと観察する。
ふむ、見た感じはちょっと豪華な槍って感じだな。なんか柄の根元に宝石とか嵌め込まれてるし。まぁ、槍なんてのはネット画像でしか見たことないから、詳しい事は何も分かんないんすけどね。なんか凄い槍のような感じはします。たぶん。
「と言うことは、俺がこの槍を持って怪獣の『核』とやらに突き刺せばいいんだな」
「ーーッ!! ケイ待てッ!」
俺は何気なく槍を手に取ろうと腕を伸ばした。
それに対してヒョウカは慌てて槍を後ろに引っ込めようとしたが、俺が槍をつかむ方が早かった。
そして、槍を手に取ったことを俺は激しく後悔した。
槍の柄をつかんだ途端、ジュウゥゥーーーッという音と共に、槍を掴んでいる俺の掌から煙が上がったのだ。
「ッ!!!! ぐあ ッッッッつうぅ!!!」
俺は一瞬、自分の掌から煙が上がるという状況を理解出来ずに、驚きで硬直してしまった。だが、すぐに自分の掌からとても強い激痛が伝わってきて、反射で槍から手を離した。
「何だよッ!! 何なんだよこれは⁉︎」
いまだに少し煙を上げている手を大きく上下に振りながら、俺は完全に素の状態の口調で叫んでしまう。
何なんだこの槍は! 触れた瞬間に俺の手が重傷を負ったんすけど⁉︎ ヒョウカは普通に持ってるのに何で俺だけ拒否されんの? こんなの使えるわけないじゃん、持ってるだけで俺死んじゃうよ。
俺はやっと煙の収まった掌を恐る恐る覗いて、顔をしかめた。
ほんの僅かな間しか触れていなかったというのに、俺の掌は赤く焼けただれてしまっていた。
「ケイ! 大丈夫か⁉︎」
血相を変えてヒョウカが俺に詰め寄ってきた。
彼女は俺の手首を掴んで掌の様子を見ると、そこに彼女自身の掌を合わせてきた。すると焼けただれた掌が淡い緑の光に包まれる。それと同時に、今まで掌から伝わってきていた激痛がスーっと和らいでいった。それと同時に掌の状態も元に戻っていく。
おそらくヒョウカは治療魔法か、その類の魔法を使ってくれたのだろう。
「妾の不注意でこんな……すまぬ」
目を伏せ、心から申し訳なさそうに謝罪するヒョウカ。
そんな可憐な彼女の姿に、俺は一瞬心を奪われてしまった。今まで感じていた痛みや、それに対する怒りもどこかに吹き飛び、無意識のうちに俺は彼女の頭を撫でようとしていた。
「申し訳ないケイ殿。その『神槍』は勇者には触れないようなのだ」
俺の腕がヒョウカの頭を撫でようと少し持ち上がったタイミングで、国王の謝罪の言葉が耳に入る。
絶妙なタイミングで邪魔すんなやおっさんッ!! てかそれを先に言えよ! 俺の手が使い物にならなくなるところだったじゃねぇかよバカヤロウ!!
内心の怒りを俺は深いため息と共に沈める。僅かに上げた腕を誤魔化すように頭を掻きながら、俺は国王へと視線を向ける。
「俺がその『神槍』とやらを使えないのなら、どうやって怪獣を退治すればいいんですか?」
俺の質問に、国王はどこか神妙な表情をする。うん、なんか、そこはかとなくムカつく。
「ケイ殿には『神槍』を持つのを許された選ばれし者、『槍の持ち手』のサポートをお願いしたいのだ」
んん? 『槍の持ち手』って確か、メリーがそうだったような。
「その『槍の持ち手』というのは?」
「ふむ『槍の持ち手』というのは、その名の通り『神槍』を持ち、怪獣を打ち倒す使命を背負った者のことである。今、この王国には『神槍』が五本ある。その五本は、序列一位から五位までの者が持つ事になっている」
ここまでの国王の説明を聞いて、やっと俺の中のモヤモヤしていた疑問が解消された。
なるほどね。怪獣討伐の可能性を少しでも上げるために、腕の立つものに『神槍』を持たせるって事ね。それで現状一番強い序列一位がヒョウカで、メリーは序列三位で二人とも『槍の持ち手』って訳か。
俺は納得して、一人で何度も頷く。
「今現在、我が王国では取り急ぎ怪獣の討伐部隊を編成している。編成が終わり次第、部隊は怪獣討伐の遠征へと出る。この遠征にケイ殿も参加して頂きたい」
ふ〜ん、討伐隊を組むんだ。俺としては少数精鋭のパーティを組んで討伐の方がテンション上がるんすけどね。でもまぁ、もう討伐部隊の編成しちゃってるみたいだし、今回はおとなしくしときますか。
討伐部隊の中には女騎士とかいるのかなぁ、もしかしたらビキニアーマーなんてものを装備している美女もいるかもしれない! 『ビキニアーマー』それは、防御力度外視のファンタジー世界だからこそ許された最強の防具である。まじこれを最初に考えた人、変態すぎるでしょ。そして偉大すぎるでしょ。
「分かりました。その遠征、俺も参加致しましょう」
俺が快く返事を返すと、国王の表情がパッと明るくなった。
「協力感謝する。さすが勇者であるな! ケイ殿の協力があれば我らの勝利は更に揺るぎないものとなるであろう」
「俺の力がどれほど役に立つか分かりませんが、人類の勝利に貢献できるよう全力を尽くしましょう」
まぁ、怪獣だろうがなんだろうが、最強チートの俺からしたら雑魚も同然なんですけどね。
と内心で余裕の笑みを浮かべながらも、表向きは至って真剣な表情を作る。
「今回の遠征で、ケイ殿には序列一位である魔王殿のサポートに重点を置いて頂きたい」
「分かりました。一番強い『槍の持ち手』を人類最強の勇者が支援する事で、確実に怪獣の『核』を破壊しにいく、という作戦ですね」
だからヒョウカは、俺の事をパートナーと言っていたのか。いや〜、全ての謎が解けて頭スッキリですわ。
俺はそんな事を思いながら何気なくヒョウカの方に目を向けると、彼女と目があった。
その瞬間、パチっとヒョウカがウィンクを飛ばしてきた。
グワァッ!! か、可愛すぎるッ!!!! マジで心停止を起こすところだった……。
俺にとっては怪獣なんかよりも、この可愛すぎる魔王の方が強敵なんですが。




