表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

12_迷子な芸術祭



「――いや、ここどこ?」


 そしてグレアムはどこ?

 興奮のままにホールを出たわたしはいつのまにやらグレアムとはぐれていた。それに気づいた時には、コンサートホールの関係者以外立ち入り禁止みたいなところに入り込んでしまっていた。いや、もっと早く気づこうよ、わたし。どれだけまわり見えてなかったんだ……。

 とりあえず、誰かに見つかって怒られる前にここを出よう。そうしよう。

 元来た道を振り返る。

 戻れるかな……自信ないなぁ。細くて目印もない通路な上、入り組んでいるんだよね。まるで迷路。あ、迷路なら片手を壁について歩けば、ゴールに辿りつけるんだっけ。不安はあるけど、試してみよっか。闇雲に歩くよりはいいかも。

 右手を壁について歩くことしばし。

 曲がり角の先から話し声が聞こえてきたので、立ち止まる。いや、待てよ。もうこうなったら怒られるの覚悟で、外へ出る道を聞いた方がいいかもしれない。うっかりとはいえ、入り込んでしまったわたしが悪いので怒られるのは仕方ない。素直に謝ろう……。


「――さっきの女の子、すごかったな」


「あー、でも後の子がやりづらそうだったな。あそこまでの実力を見せられるとなぁ」


 聞こえてきた会話に動かそうとしていた足がピタリと止まる。

 あれ、コレもしかしてキャロルさんの話?

 確かに後の奏者はやりづらいだろうね……。会場の雰囲気をキャロルさんに持って行かれちゃってたもん。


「偉い貴族たちに目をつけられて、これから大変だな、きっと」


「あの子も貴族のお嬢様だから、婚姻の話がたくさん舞い込むんじゃないか」


 そ、そうなんだ!? この国の貴族にとって芸術ってそんなに価値が高いんだ?

 それもある意味政略結婚なのかな? うーん、あんまりついていけない価値観。


「それにしても「魔女の国」ってテーマにピッタリだったな、あれは」


音楽こっちにテーマはないけどな……って魔女? あの子は魔女って感じではないだろ」


 芸術祭のテーマは、あくまで芸術家たちによる装飾兼展示のテーマ。音楽だけじゃなくて生徒の展示作品にも縛りはないんだよね、実は。

 あと、キャロルさんが魔女とは聞き捨てならないね。


「魔女じゃなくて「魔女の国」だって。あの国には歌姫がいたって言うだろ?」


「は、何その話? というか「魔女の国」っておとぎ話だろ?」


「いや、元は本当にあった国だろ? 魔女についての話はそれが元になってできたって聞いたけど」


 へー、わたしもてっきり架空のものかと思ってたよ。でもよく考えたらこの世界は魔法があるファンタジーな世界観なわけだから、そういう国があったって不思議はないよね。――あれ? 大体の人が普通に魔法を使える世界の魔女って何なんだろう? 死者蘇生みたいなやばい魔法使う人とか?


「へぇ、よく知ってたな、そんなこと」


「いや、普通に子供の頃に親から聞いただけだけど。まあ、今思うと嘘かもしれないな」


 分かる分かる。親ってよく分かんないとこで嘘ついてくるよね。子供だから簡単に信じると思ってさ。いや簡単に信じてたけども。


「なーんだ。ちょっと見直したのに」


「はは、こんなことで見直されてもな。おっと、そろそろ戻るか」


 あ、行っちゃった……。道聞きそびれちゃった……。

 しかも出て行くタイミングを掴み損ねたせいで、盗み聞きみたいになってしまった。まあ、たいしたことは話してなかったけども。

 この辺は裏方スタッフさんの休憩所みたいなとこだったのかな。もしくは扉がいっぱいあるし、楽屋的なとこなのかもしれない。

 案内図とかあればいいのにね。この際、避難経路とかでもいい。この建物の地図を見せてくれ……。あと意外と人いないね、皆忙しいのかな。

 とりあえず歩いてればどこかに着くよね。うん、歩こう。


 *


 そ、外だ――!

 ようやく出られたよ、本当にもう。

 あれからどれだけ迷宮をさまよったことか。随分日も高くなってしまっている。

 さて、はぐれてしまったグレアムを探さないと。

 といってもどこ探せばいいんだか。こんなことならはぐれたときの待ち合わせ場所とか決めとくんだったね。


 とりあえず校舎の方に向かいながら、地道に探すしかないかな。

 結構長いことホール内で迷ってたから、たぶんこの辺にはもういないと思うんだよね。

 校舎のまわりに展示作品が多いから、探すついでに見れるし。一石二鳥だね!

 さっさと合流できればいいんだけど……。


「人がさらに増えてる……」


 お昼近くなったためか、朝よりも明らかに人の数が増えていた。

 コレもう国中の貴族が集まってるんじゃない?

 穏やかな日差しの下、貴族たちは互いに挨拶を交わしては談笑している。それだけ見ればお茶会とかパーティーの一場面みたいだけど、その隣には不気味な魔女の像が立っていたりする。

 ……なんか、混沌カオス


 人が多いせいで、歩きづらいし、視界は利かない。この中で人を探すのはなかなか骨が折れそうだ。

 ――うん、コレはダメだ、ちょっと休憩しよう!

 そもそもさっきコンサートホールで結構歩いたから、足が疲れてるんだ。このままでは一日保たない。

 幸いベンチはそこかしこに置かれている。……まあ、隣には不気味なオブジェがあるんだけど。あ、呪いの椅子みたいな椅子自体が禍々しいものまである。作品なのか休憩用の椅子なのか判断がつきにくいね。

 お、黒猫の置物が隣に置いてあるベンチがあるね。あそこでいいかな。黒猫かわいい。

 ベンチに座ると、黒猫が足下に擦り寄って来た。

 えええ、本物だったの――!?

 びっくりしたけど、人懐っこくてかわいい。癒やされる。

 猫の頭をそっと撫でる。


「ナァーン」


 かわいい。かわいいね、キミ。

 膝に乗せてなでなでかわいがっていると、視線を感じた。

 顔を上げると、好ましくない視線がいくつもわたしに向けられていたことに気づく。

 あっちの木陰で、そっちのオブジェの陰で、ちらりとわたしを見ては、声を潜めて何事かを囁き合う貴族たち。

 何を言ってるかは聞こえないけれど、陰口なのは間違いないだろう。気味悪がる視線に、悪意のある侮蔑混じりの視線。とても気持ちいいとは言えず、思わず眉をひそめる。学園の生徒たちよりも大人たちの方があからさまなんだね。


「――痛っ」


 不快に思ったわたしの感情が伝わってしまったのか、黒猫がカプリとわたしの指を噛んだ。慌てて手を引っ込める。あ、ちょっと血が出てる……。


「ナァーン」


 一鳴きした黒猫はわたしの膝から下りて、すばしこく走り去ってしまった。

 猫が気紛れって本当だったんだね……。かわいいのには変わりないけど。

 噛まれた指は……一応洗い流した方がいいかな。

 水は魔法で出せるけど、この学園、生徒は決められた場所以外では魔法使うの禁止されてるんだよね。グレアムがいれば治してもらって終わりなのになぁ。

 治癒魔法はまだ使えないんだよね、わたし。

 まあ、禁止されてるとはいえ、魔法はこっそり使えばいいだけなんだけどね。とりあえず人目につかないところに行こう。どのみちここは不愉快な視線が突き刺さって居心地が悪いし。

 指を軽くハンカチで拭いて、立ち上がる。

 人がいなさそうなとこ……あ、中庭がいいかな。前にキャロルさんがいじめみたいなことされてたとこなら、人に見つかることはなさそう。


「――ふぅ、コレでよし」


 案の定、そこに人は居なかったので、心置きなく魔法を使って傷を洗う。血が止まるまでハンカチを当てておこう。絆創膏があれば便利なんだけどね。指先だからハンカチ結ぶのも難しいし。まあ、大きな傷じゃないからすぐ止まるだろう。


「あぁ、なんかお腹空いたなあ……」


 たくさん歩いたし、日はもう空高くに昇っている。たぶんお昼時だ。

 食堂の方から、いい匂いが……。

 ああでも、先にグレアム見つけないと。

 たぶんグレアムは食事を抜いてもわたしを探すだろうから。のんきに先に食べているわけにはいかない。

 中庭から一度校舎を通って再び外へ。


「あ――」


 ようやく見つけた!

 ん? でも誰かといるね? 話をしているみたい。

 ああ、誰かじゃなくて、あれは――。

 グレアムの視線がこちらを向きそうになった瞬間、わたしは近くにあった大きな看板に身を隠した。

 なんで隠れたかって? そりゃあ、グレアムと一緒にいたのがキャロルさんだったからだよ!

 ここはしばらく二人でいさせてあげるべきところだと思うんだよね。

 そんでわたしはこっそり観察――もとい見守りたい。


 コレはわたしのわがままなんだけどね、キャロルさんとグレアムが上手く行ったらいいな~ってちょっと思ってるんだ。候補としてはゲーム的にはチャールズ王子とか侯爵家のポールスとかいるけど、王子はいい人だけど天然たらしだから苦労しそうだし、ポールスはあんまりいいところが見えないからお勧めしたくないんだよね。三人の中だったら身分的にもグレアムってお似合いだと思うし、ヘレナに鍛えられてるからスペック高めで超お勧めなんだよね。

 まあでも本人たちの意思を無視するつもりはないし、無理にそうなるように仕向ける気もない。ていうかどうなったら上手く行くとか全然知らないからできない。わたしがするのは友達の恋愛を応援するのと同じ。チャンスがあったらそれを押し広げてやるだけ! そして今がその時! 話す機会が多ければ仲も深まるでしょ?


 看板の陰からこっそり様子を窺う。よし、こっちに気づいた様子はないね。

 このままそっと後をつけることにしよう。尾行してるみたいでちょっとわくわくするね。


「――?」


 あれ、今肩に何か当たった?

 意識をそちらに向ける。

 そこには白髪……いや、銀髪? とにかく珍しい髪色をした男がいた。


「――っ、!?」


 驚きに息を呑んだわたしの口は、悲鳴が漏れるより早く、その男の手によって塞がれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ