プロローグ
――あなたは、生まれ変わりを信じますか?
▽ はい
いいえ
テレビの画面に映像が映し出されている。
コントローラーを操作して矢印を動かそうとするが、反応がない。
「あ、コレ、選択できないのか」
選択肢を選ぶ画面かと思ったのだが、どうやら違うらしい。選択画面に似せた文章みたいだ。
決定ボタンを押すと、ピッという軽い音がして話が進んだ。
――世界が一年後に滅ぶとしたら、救いたいですか?
▽ はい
いいえ
「変な質問……あ、そうか、コレ世界を救う系のヤツか」
と言っても、メインは恋愛。乙女ゲームなのだから当然だ。
今度もコントローラーの操作に矢印は反応しない。再び決定ボタンを押す。ピッ。
瞬間、室内は白い光に包まれ――
「――……!?」
――いつの間にか瞑っていた目をゆっくりと開ける。
理解の追いつかない光景に、わたしはぱちぱちと数回瞬きをした。
――あれ、わたし今ゲームしてたよね?
視界にはテレビもコントローラーも何もなかった。
というか、室内ですらない。
目に入ってくるのは、穏やかな青空。大きな塊の雲がぷかぷか浮かんでいる。
背中は地面に触れていて、ひんやりとしている。寝転がって空を見ている体勢だ。
――何故こんな体勢に。というか、いつの間に外に?
最近ぼけてきたおばあちゃんならともかく、わたしはまだ十九才。徘徊なんてしないはず。というか、おばあちゃんもまだそこまでぼけてはいないわ。徘徊するようになったのは、おばあちゃんのお友達だった。
「――痛っ!?」
とりあえず、起き上がろうと思ったのだが、身体が異様な痛みを訴えてきて、思うように動かせない。知らない間にぶつけたってレベルじゃない。
『動かさない方が良いですよ、その体は死ぬ程の怪我を負っているのですから』
「え、死……!?」
頭の中に直接響いてきた声に顔がひきつる。ていうか頭の中に直接ってまじか。そんなことあるのか。中二病か。
『初めまして、私は神。あなたの魂をすくったものです。ここは、あなたがプレイしようとしていた乙女ゲームの世界。あなたのその体は主人公を追い詰める、いわば悪役令嬢のものです』
え、何? 悪役令嬢に転生しました~ってヤツ? まだ流行ってるの?
わたしまだプレイしてないからシナリオ知らないんですけど。バッドエンド回避とか無理じゃないですか。
いやでも、この場合転生とは違うのかな。だって、そもそもわたし死んでない。じゃあ、この状況はどういうこった。
「――っ、…………いや、神って!」
いろいろ突っ込みたかったけれど、言葉になったのはそれだった。「私は神」って台詞の胡散臭さよ。
『お察しの通りあなたの役目は、悪役を演じ、主人公の恋が実るよう導くこと。期限は今から一年です』
いや、何も察してませんでしたよ。悪役を演じろって、それわたしに何の益があるの? 普通、悪にならないように立ち回るものじゃないかな?
『一年後、強制的にあなたの魂は元の世界に戻ります。悪役を演じて嫌われたところで、あなたはこの世界に留まれないのですから問題ないでしょう。あなたがプレイしようとしていたゲームの内容が、間近で見られると思えば悪くはないでしょう?』
「でも、悪役目線……」
『新鮮でよろしいのではないですか』
わたしがやりたかったのは主人公がちやほやされるゲームだったんですけども。それがどうして、登場人物たちに嫌われ疎まれる立場に。いや、このゲームにおける悪役令嬢の立ち位置とかよく知らないけどね。まだプレイしてませんから!
『無理にとは言いません。ただ、あなたに協力頂けなかった場合、主人公は失恋し、この世界は滅びます。バッドエンドですね』
「うっわー責任重大~――……って、えぇ!? そんなことで滅ぶの、この世界!?」
主人公たちがすごいのか、この世界が脆いのか。
てか、バッドエンド重くない? どんなシナリオだったのこのゲーム……。
『はい、そのように創りましたから』
おお、神っぽい発言。
でももうちょい頑丈につくって欲しい。
『では、そういうことで。私はもう干渉致しませんのであとはあなたのご自由に。賢明な判断を下されることを期待しています』
声が遠のいていく。
わたしの自由と言われても。
わたしはほとんどこの乙女ゲームのことを知らない。知ってるのなんて登場人物ぐらいだ。
ていうか、そもそも。
「ここ、どこ――!?」