#2 救助 спасение
DG—TPでは、田代島南方、三石崎沖に仮設されている曳航式滑走路タシロアイランドと田代島仁斗田港との連絡用に旧式の連絡艇の他、最新型の旅客地面効果翼機を二隻保有している。
ニューマーメイド号とネオブルーライナー号で、これはDG—TPの待機時間、地元の旅客交通会社・網地島ケーブルラインにパイロット毎レンタルされている。
普段はどちらか一隻一人が勤務なのだが、川開き祭り前夜祭のある今日から祭り本番の明日、明後日まではフル稼働の予定だった。
増発された網地島CL臨時便は、本来の航路を変更して直接田代島・網地島へ洋上航行しているが、ケーブルボートという正式名称のとおり、牡鹿の各岬の高みにあるRCの発着場に特殊なケーブル・自己発光不捻膠着式ケーブルを伝って上るのが本来の運用方法である。
行きも帰りも観光客を満載し、休む間もなくピストン運航。RCから下るときのような無動力の滑空が出来ないので、給油もまめにしなければならない。目の回る忙しさ。
そんな時ふいに、NMM号運航中の本郷の目の前の宙空に、業務用の同報QWが開いた。
【事務所から同報します。黒崎RCで急患発生。アサミが発見通報したんだけど、石巻広域消防救助隊の熊蜂は山形圏に急患搬送中で使えないそうなの。石巻赤十字病院までなんだけど、どうにかならない?】
同報QWにはしずえの顔。
「自分はもうすぐ仁斗田に着くから、その足で黒崎には上れるよ。でも網地島CL本社は了解するかな? あと、日和山高層複合居住区から日赤までの搬送は確保できるのかな?」
本郷が答えた。彼の本職はヤタガラスのパイロット。
【本郷さん、そんなのは任務外ですよ。】
NBL号運航中の事務局担当の宝田の同報QWが開いた。いつものように No Image だ。
【まぁまぁ一刻を争うんだから……じゃぁアマノヌボコ使うか?】
見学対応中の震次郎も割り込んできた。
【え〜! まじで? 今から?】
サクラが叫んだ。同報QWには海水浴中の水着姿が映った。
【サクラ! 仕事しないで何やってんの?】
しずえが同報QWで叱った。
【もう売り切れたので休憩しています。】
平然と答え、人工の砂浜に寝ころんで見知らぬ若者にオイルを塗ってもらっているのはナスターシャ。
【ナスターシャさん冷たいジュースいかがですか?】
若者がもう一人QWに映り込んだ。
【ありがとう気が利くのね。】
【ナ、ナスターシャ? な、なんて格好……。 チリズミヤラメン!】
No Image の宝田がナスターシャの白い肌の露出に思わず上擦った露国語でやりすぎだと嘆息した。
【……ニ マグ ニシティ プロ。】
暑くて耐えられなかったの。
ナスターシャは宝田の予想外の反応に、思わずQWを No Image にして言い訳し、タオルで身体を包み込み真っ赤になった。
【サクラ、すぐに来〜い。こりゃDG—TPのいい宣伝になるぞ! 東北タイムズにも連絡しとこう。ゲルトルーデ、サクラ連れて来てくれ〜。】
ほどなく、空にぽつんと影が見えて来た。
「え〜今、飛んで参りましたのが、DGクルー、独国出身のゲルトルーデ。一緒におりますわたしの娘のサクラと同じ一七歳。」
タシロアイランドの上、震次郎がメガホンで紹介した。
雲一つ無い青空を過ぎり、白いワンピース姿のゲルトルーデが、ピンク色の水着姿のサクラを抱いて飛んできた時、三〇余人の見学者から拍手喝采が巻き起こった。
「お父さんひどいよ〜! やっと海に入れたとこだったのよ〜。」
水着のサクラは膨れ、次いで自分を見つめる三〇人余の見学者の視線に気づいてわっと驚いた。ゲルトルーデはキャパシタの残量不足でへたり込み、そのか弱い仕草が見学者を又ざわめかせた。
「何をちっちゃいことを言っとる。サクラ、お前の働きに患者の尊い命がかかっておるんだぞ。」
震次郎が芝居がかった仕草で娘の肩を叩いた。
「皆さん、これが我がDG—TPのエース、アマノヌボコのパイロット、娘のサクラ、まだ一七歳です。この娘が憎きTFPを潰し、皆さんの生活を守っておるのですよ。」
メガホンで説明すると、見学者たちは一斉に歓声を上げ、再び拍手をした。
「いや、そんな、まぁ、どうもどうも。」
サクラは真っ赤になりながら手を振り応えた。
「サクラ、早く着替えて黒崎RCへ、ゲルトルーデもついて行ってくれるかい? アマノヌボコにつかまってて、飛ばなくていいから。東北タイムズ社の取材ヘリとか近づいてきたら、笑顔で手ぇ振ってな。」
サクラは父に促されるまま、ゲルトルーデに肩を貸して内部格納庫に降りた。
「も〜なんでこんなことに〜。」
「でも……わたしたちにしかできないわ。」
サクラは不平をこぼしたが、ゲルトルーデはそれをなだめた。
「……そうだよね。海水浴はいつだってできるもんね。……反省反省。」
サクラは気を取り直し、表情をきりりと引き締めた。
「しっかりしろサクラ!」
ぱんぱんと自分の頬を叩き、急いでピンクの災害防護スーツに着替えた。
白のインナー上下を着込み、臙脂色のコルセット型プロテクターで上半身を覆った。プロテクターの裾には可愛いデザインのポケットが左右二つ。
ピンクのくるぶし丈のセーフティーブーツを履き、両足それぞれに白い環を通し、ピンク色のレッグガードを展開し、すねからももをぴっちりと覆った。
最後にピンク色のジャケットを羽織ると、臙脂色のガードと白いインナーで包まれた胸がきゅっと左右から寄せられ、ラインが一層強調された。肩のところにも可愛いポケット。
ジャケットの袖口の大きな環から特殊なコーティング液を出し、指を使い捨てグローブで保護すれば着替え終了。
ゲルトルーデも白いワンピースを脱いで、黄色いDGスーツに着替えた。
しかしRRドライブとSドライブのコンボドライブでもある美しい脚がむき出しになるよう、ブーツとレッグシールドは装着しない。
アマノヌボコは羽衣を稼働し、ゆっくりと内部格納庫から風を巻いて上昇した。
夏の日差しに光る銀無垢の機体には日の丸のマーク。漢字で『公益特殊法人タシロ計画災害防衛隊』と書かれ、その下には小さく英語で『Disaster Guard-Tashiro Program』。小さな垂直尾翼にある機体記号はJA17TP。
垂直尾翼の前縁部、黄色いDGスーツに白く美しい生脚をさらしたゲルトルーデが横向きに座って、滑走路上で見守る老若男女三〇余人に手を振った。
そのお尻の下、のっぺりとした機体上面には、丸い小さな窓がいくつも並んでいる。ネコの可愛いイラストと『SAKURA RH+O female』という文字も見える。
「ただいまから、娘たちが急患搬送に出発します。我ら公益特殊法人タシロ計画災害防衛隊 は、TFP潰しだけではなく、常に国民の生活のために働くのです。」
風を巻いて東の方向へ飛び去るアマノヌボコを見送って、震次郎が嘘八百の説明をした。
明らかに、公益特殊法人タシロ計画災害防衛隊 の仕事ではないが、三〇余人の見学者はアマノヌボコに向かって手を振り、歓声をあげた。
「では以上で公益特殊法人タシロ計画災害防衛隊 秘密基地見学は終了です。お帰りの連絡艇が出発いたしますので、お乗り遅れの無いように。」
黒崎RCのメインゲートは、鮎川港側に口を開いており、宮城圏管轄の圏道220に繋がるバスロータリーになっている。
バスと言っても、自家用車禁止政策時代の極初期に整備されたコミュニティバスシステムの名残で、すでにバス路線は廃線となっている。ロータリーは、SFF・合成化石燃料の普及で増えだした原付・ナーティや宅配業者の配送トラックが使用する程度だった。
そこに待機している石巻広域消防救助隊牡鹿消防分隊の救急車は、IFRの使用する熊蜂にそのまま接続され、搬送されるタイプの虫腹型ユニット。
今は自走ユニットと分離され、アマノヌボコに吊り下げてもらうべく、ワイヤーが四隅、対角線上に2本セットされていた。
「アサミさん、仕事の途中で抜けられちゃ困るよ。午後の便もまだまだ何本も来るんだよ。」
バスロータリーの一画に止まったYMTEXPのトラックの横で、アサミは担当の上司から責められていた。
「せやかて、急病人やで。身元もようわからんし、救急の人は一緒に来てくれ言うてるし。」
アサミ自身、勢いで荷物の差出人の連絡先に連絡して、息子さんから「すぐに向かいます。母をよろしくお願いします。」と頼まれたばかりだった。もう引くに引けない。
「バイトだからって、いい加減な仕事は……。」
YMTEXPの上司が言いかけた時に、風を巻いてアマノヌボコが到着した。
【アサミ! 行くよ!】
サクラの同報QWが目の前に開いて助け船になった。
「ほんま、すんまへん。もうバイトやめさせてもらいます。」
アサミはぺこりと頭を下げると、虫腹型ユニットの方に駆けていった。
「あ! 制服はクリーニングして返しますから、かんべんしてな!」
「アサミさん、ワイヤー下さい。」
ゲルトルーデがコンボドライブで降りてきた。若い救急隊員がむき出しの白い脚から風を巻いて空を飛ぶゲルトルーデの姿に思わず感嘆の声を上げた。
「真ん中のフックやで。バランス崩れるよってにほかのとこはあかんで!」
アサミの指示でワイヤーは無事アマノヌボコに取り付けられ、アサミは虫腹型ユニットの中に飛び込んだ。「上がってや!」
【OK!】
サクラが同報QWの向こうで親指を立てたのと同時にがくりと大きく揺れ、ふわりと持ち上がった感覚があった。無事飛び立った。
狭い救急ユニットの中には救急隊員二人と老婆とアサミ。いろいろな器具をつながれモニターされている老婆が、半開きの目をアサミに向けて小さく唇を動かした。
ありがとう、と唇が読めたが、声にはなっていなかった。
「おばあちゃん、気ぃ強ぉ持ってな。息子さんもすぐ来よるで、気張りや!」
アサミは老婆の手を取り、強く言った。
そのがさついてはいるが柔らかい手のひらの感触に、溢れる涙をこらえるのが精一杯だった。
『お父ちゃん、すぐ助けが来よるで気ぃ強ぉ持って、気張りや!』
あの時の父の手、声にならない唇の動き、それがまざまざと思い出され、身体が震えた。
黒崎RCから飛び立ったアマノヌボコは、進路を北西、約350度に向けて羽衣を吹かした。
眼下を過ぎてゆく牡鹿の緑豊かな岬、碧く澄んだ入り江。
清崎の白波立つ絶壁と岩場の上をよぎり、牧ノ崎RC、RNS・新畜産革命に基づく北里ラボの巨大畜産プラント上空を通過し、大原湾に。大原湾の北、荻浜RCを越えて荻浜湾を渡り、尾崎RCまで来るともう石巻域が一望できる。
石巻漁港のRNFタウン魚町を眼下に南北二本の日和大橋の上を越え、石巻で一番高い日和山神社空中社殿と石巻湾を臨む大鳥居、そこを起点に西に伸びる日和山HrRCと、対岸の丘陵上に連なるやや小ぶりの牧山HrRCの間を抜け、石巻域上空をさらに北西に向かった。眼下には大きく蛇行して流れる北上川。
結局、東北タイムズ社の取材ヘリは姿を現さず、アマノヌボコはあっと言う間に石巻赤十字病院に近づいた。
石巻赤十字病院は石巻域の向こう、蛇田域にある。
震災以前から発展していた新興商業域だったが、津波の被害が一切無かった内陸部ということもあり、震災以後には隣接する広大な農地まで吸収巨大化し、今や石巻市随一の人口密集地となっている。
しかしながら、石巻市自体は旧来、北上川の水運と石巻港の海運、そして豊かな漁業資源でもって栄えた地域。未だ、この新興域は中央として認められておらず、日和山HrRCを中心とした石巻域こそ真の石巻市の中央という思いが強い。
今日の前夜祭から始まる『石巻川開き祭り』も、文字通り川開き、石巻の水運発展の礎となった一七世紀初頭の北上川河口整備を記念し、そして水難で亡くなった人々を慰霊する祭りとして二〇世紀に始まり、二六世紀の今日まで石巻域を舞台として続いている一大サマーフェスティバルである。
蛇田域の新興居住区は、単独住居と複合居住区のいいとこ取りの様相で、RCのモジュール構造を流用した単独住居の緩い複合体と言える。
商業区域と密着した居住区域が層を成して広大な面積広がり、その一角の巨大な病院も埋もれてしまいそうになっている。
【日赤見えたよ。】
サクラの声でアサミはほっとした。老婆のバイタルは安定しているようで、何とか間に合ったようだ。
アマノヌボコは石巻赤十字病院の玄関前、急患入場ゲート前の広場にゆっくりと降下し、吊り下げた虫腹型ユニットを慎重に下ろした。
すぐさま救急隊員がストレッチャーを押して飛び出してゆき、遅れてYMTEXPの制服を着たアサミも飛び出した。
【アサミ、帰んないの?】
サクラがQWで呼びかけた。
「おばあさん心配だからついとくわ。先に帰っとって!」
アサミは手を振り、病院内に消えた。
【帰りましょう。キャパシタの残量が心細いわ。】
ゲルトルーデがコクピットの上から同報QWで言った。その言葉とは裏腹に、蛇田域の商業施設が気になるようできょろきょろと辺りを見回していた。
【わぁやばいよ〜。帰りの電気が足りないな〜。】
サクラの返事は妙にわざとらしかった。【お父さん、急いで飛んだら電気がもう無いわ〜。日赤で充電してから帰るから、遅くなるかも〜。】
ゲルトルーデが不審に思い、お尻の下、並んだ丸い窓の一つからコクピットを覗き込むと、サクラがゲルトルーデに向かってぺろりと舌を出して見せていた。
ICUに搬入される老婆を見送り、アサミはどっと疲れを感じて通路のベンチに座り込んだ。救急隊員が何か尋ねてきたが、疲れていて何と答えたかよく覚えていない。それほど疲れた。
左手首に巻き付いたメタルチックなボルト型QRにはいくらかクレジットが残ってるはずだから、ちょっと何か飲み物でも買おうかと立ち上がったが、ひざに力が入らずまた座り込んだ。
思えば、朝食もろくろく食べずにバイトに出て、昼も食べられずもうこんな時間だ。
「ま、ええわ。少しくらい食べんでも死にへん。」
サクラは石巻赤十字病院の職員を拝み倒し、アマノヌボコの充電を頼み、電動車椅子も拝借してゲルトルーデと蛇田の街に繰り出した。
ピンクと黄色のDGスーツのまま。
「叱られますよ……。」
戦々恐々の表情のゲルトルーデをよそに、電動車椅子を押すサクラは元気一杯だった。
「患者さんがどうだったか気になるじゃない? 充電が終わるまで街ぶらついて、それからお見舞いして、ちょうど夕方、前夜祭の花火が見れるわ!」
サクラが楽しそうに言った。「バイトだって今日の分は売り終わったんだしさ。」
石巻赤十字病院から南に下るあけぼの通り、いつも驚かされるのは、走っている原付の数。
田代島では数えるほどしか走っていない原付が、道路一杯に溢れて走っている。いくらSFF・合成化石燃料が普及しだしたからとはいえ、この数は尋常ではないとサクラは思う。
仙台中央は自動車はもちろんのこと原付さえ乗り入れ禁止であるが、ここは道一杯に鈴鹿重工の原付・ナーティが走っている。
二人乗りは当たり前、中には三人、四人くらいがぎゅうぎゅう体を密着させて乗っていることもある。
又、地元農家らしい老人は荷台だけでは収まらず、ありとあらゆる荷物が固定できるところに野菜の詰まっている箱を縛り付け、あるいは一八リッターのポリタンクを何個もくくりつけて走っている。
自転車式に車軸とフレームが固定された古典的タイプでは到底保たない。フレームと車輪が物理的に接触しないフローターリム形式のナーティでなければ、その重さに車輪も車体も一点に荷重が集中し悲鳴を上げているだろう。
老若男女問わず、原付・ナーティ無しでは生活できない風情がたっぷりだった。
異境感たっぷりの蛇田は、商業区域と居住区域が層を成し立地している。メインストリート沿いに衣料品や飲食店が軒を連ね、その上層はすぐ居住層。雑多なイメージのメインストリート沿いとは裏腹に、見上げると洒落た白壁のモジュール風単独住居が何層にも緩く連なっており、都会の息吹が満ち満ちている。
メインストリート脇の歩道を奇異な出で立ちで南下する二人に、徒歩、自転車あるいは原付・ナーティですれ違う人々は目を見張り、ゲルトルーデはその視線にますます萎縮し、サクラは全然お構いなしにどんどん車椅子を押して南に向かった。
「ゲル、蛇田初めてでしょ? もう少し行くと阿部書店とかアイドナネブスA館とB館、三陸カーゴラインの向こうにはiNOシティもあるよ。」
どんどん車椅子を押しながらサクラが言った。
石巻赤十字病院の西をかすめて、蛇田を南北に貫き延びる三陸カーゴラインは、震災前には東北太平洋沿岸を縦貫する一大交通網・三陸自動車道と呼ばれていた。
震災、そして電力飢饉に対応するために打ち出された自家用車禁止政策により、他の主要自動車専用道と同様、現在は大規模物流専用の自律移動貨物の誘導路として再開発がなされている。
無人の貨物専用道を無人の自律移動貨物がゆっくりと走り、定められたターミナルで道を外れるその様は、川を流された材木が貯木場まで流れ落ちる古代の輸送手段の再来とも言えた。
石巻市最大手の本屋・阿部書店蛇田店の前まで来ると、DGスーツ姿の二人を見つけた若者たちが遠巻きに集まってきた。
隣のショッピングセンター・アイドナネブスA館に行こうか、もう少し先に進んでB館、あるいはiNOシティに行こうか逡巡していると、声をかけられた。
「ねえねえ、彼女たち、それって何の扮装? 何のゲームキャラ?」
眼鏡をかけた太った若者が澱んだ視線を投げかけてきた。不自然にざんぎりのおかっぱ頭、贅肉で弾けそうなぴちぴちTシャツには『曽波神』のロゴ。
「え〜? わたしたちDG—TPよ? あなた知らないの〜?」
サクラはちょっとすねた風に答えた。
「ディグタップって新しいゲーム? どこで売ってるの?」
若者は言いながら顔の周りにDWをたくさん開き、ディグタップというキーワードをQCOM純正の検索サービス・QLOOKUPで検索しはじめた。ほかの若者たちもサクラたちにじりじり近づいてきた。
「ゲームじゃないよ! わたしたちは公益特殊法人『タシロ計画災害防衛隊 』のクルーよ。」
サクラが言ったのと同時に、若者は該当する情報をDWの中に見いだし、変な歓声を上げた。
「嘘! TFP潰ししてるの? 彼女たち? まだ若いのに?」
驚きの声を上げながら、どさくさにまぎれてQSし始めた。
「凄いな、凄い、本物? ねぇ嘘じゃない?」
若者は鼻息を荒くして次々とサクラたちをQSし、ほかの若者たちも遠巻きにQSしはじめた。
「おれも聞いたことある。田代島の女学校の生徒たちがTFP潰してるって。凄い美人ぞろいだって……。」
アイドナネブスA館の北側広場は、見る間に若者たちの妙な熱気に包まれた。
「ちょ、ちょっと勝手に撮らないでよ!」
あまりに無遠慮な若者たちのQSに、さすがにサクラも不快になった。ゲルトルーデは恥ずかしさの余り身を縮め、顔を隠してしまった。
「ちょっといいかげんにして。」
サクラは逃げるように車椅子を押し、さらに南へ向かった。若者たちも小走りで追いかけてきたが、サクラは徐々に速度を上げ、運動不足の若者たちを置き去りに、アイドナネブスB館へ、そして隣接する大手アパレルショップ・FUZIYAに飛び込みほっと一息ついた。
「あ〜嫌な感じ〜。」
「Fräuleinサクラ、こんな姿だから目立つのではないですか?」
ゲルトルーデが言った。
確かに、二人の着ているピンクと黄色のDGスーツは目立つ。体の線がはっきりとわかるセクシーなデザインで、絶対に誰も着ていない派手な色でもあった。
「確かにね〜。」
周りを見回せば、廉価の衣料品が所狭しと並んでいる。FUZIYAは欧州安全圏にも展開している日本有数のディスカウントアパレルショップ。ゲルトルーデも独国時代に利用していた。
「じゃぁ〜……お着替えしますか?」
サクラがにっとゲルトルーデに微笑みかけた。
(C)smcpせんだいみやぎコンテンツプロジェクト実行委員会




